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第十三話 便利

 サイズの小さなメイド服があったので、それを着させる。私の服に比べるとクラシカル寄りで、ちょっと色が薄めだ。私の個人的な趣味により髪型はツインテールにした。カチューシャとバランスを取るのにちょっと苦労したがその甲斐はあった。

「どうでしょうか?」

 スカートの裾をいじったり、首を回して背中を気にしたりと初々しい反応が眩しい。

「とてもよく似合っています。さあ、それでは台所に行ってアイシェさんを手伝いましょう」

 台所で料理を始めていたアイシェさんに合流し、やや緊張している雫がぎこちなく挨拶する。どうやら旦那さまから話は通っていたらしく、驚かれはしなかった。

「私はドルマを作るので二人は羊飼いのサラダを作ってもらえますか?」

「はい」

 アイシェさんからのオーダーに私は首肯するが、雫は何が何やらわからない様子だった。

「ドルマは野菜や果物に具材を詰めた料理です。今日はナスですね。羊飼いのサラダの作り方は見ながら覚えた方がよいでしょう」

「はい。えっと、ご教授お願い致します」

 初めてバイトに来た実習生みたいで可愛らしいなあ。

「そう難しくはありません。要するに野菜を刻んでドレッシングと和えるだけですから」

 雫はちょっとほっとした表情だった。

 ちなみに私はそれなりに料理ができる。施設にいたころから何度も料理をしていたし、引き取られてからも点数稼ぎのつもりで手料理を振舞うことも少なくなかった。

 ただ、この世界の料理は随分日本と勝手が違う。中近東、とくにトルコ料理に近い。調味料もろくに知らないような野蛮人の国なら私の料理スキルで無双できたかもしれないけれど……レベル一からやり直している気分だ。

 ま、前世で食べられなかった料理が食べられると思えば未知のものを味わう楽しみにもなる。

「さ、まずはトマトを湯むきしましょう」

「ゆむき?」

「トマトをお湯に浸して皮をむくんです。口当たりをよくするんですよ」

 ちなみにむいた皮はポチの夕飯になる。奴のご飯は大体残飯だ。この家のヒエラルキー最下層にいる。まあそこにつけこんでたまに美味い飯を馳走して手なずけているのだけれど。

 どうでもいい思考をしていた私と違い、雫は何かを探すように視線をさまよわせている。

「どうかしましたか?」

「かまどはどこでしょうか? ここは台所なのにどうして火が使える場所がないんですか?」

 ああそれか。これは私も始めは驚いた。この国ではほとんど台所に火を使わない。もっと便利なものがあるのだ。

「クッキングヒーターを使います。正しくは炎と氷の精霊によるクッキングヒーターでしたかね。便利ですよ」

 小首を傾げる雫は不思議そうだ。

「くっきんぐひーたー? 何ですかそれ?」

「これも見た方が早いですね。鍋に水を入れてくれませんか?」

 雫は迷うことなく鍋にあらかじめ汲まれていた水を注ぐ。その間に私は精霊を呼び出す。

「お姉さま? それは?」

「精霊ですよ。あなたも明日にはもらえます」

 重くなった鍋を受け取り紋様が描かれた鉄板の上に置く。精霊が紋様に触れると熱気が私の顔近くまで立ち上った。

「これはどうなっているんですか?」

「私もよく知りませんけど、熱を別の場所から移動させているらしいです」

 雫は子供っぽい好奇心にあふれた瞳を瞬かせている。

 これも勇者の遺産の一つで、精霊の力を応用しているらしい。日々の暮らしに役立つ機能は精霊によって違う。まあニールにはそう言った機能はなく、あくまでも使用許可を伺うだけだ。

 使い勝手は上々で地球のクッキングヒーターにも劣らない。かまどで料理なんかほとんどやったことないから助かった。

「便利よねえ。昔はこんなものがなかったから助かっているわ。これも勇者様のおかげよねえ」

 技術の進歩に感心しているのは当然アイシェさんだ。

「昔は精霊がいなかったんですか?」

「いたけれど、契約するのはずっと大変だったらしいわ。本当なら何十人もの心臓を捧げてようやく契約できたそうよ」

「し、心臓?」

 雫が驚いているが、私も顔に出さないだけで驚いている。

「ええ。精霊と契約するには体の一部を捧げる必要があるの。今は髪とか爪とかでもいいから、気軽に契約できるわ。あ、そろそろ煮えてきたわよ」

「では、調理を続けましょうか」

 雫は気味が悪かったのか、髪や胸を気にしていた。

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迷宮攻略企業シュメール 次回作です。時間があれば読んでみてください。中東のメソポタミアと呼ばれている地域で生まれた神話をモチーフにしています。
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