表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
130/289

第九話 大金

「あんたの言いたいことは分かった。でも、院長先生を弁護してもらえないか?」

 青い炎のように冷静に感情を燃やしている明日斗様の瞳が私を捉える。心の中で自分を持ち直したようだ。しかし私の返答は変わらない。

「無理です。弁護を引き受けることはできません」

「どうして」

「理由は二つあります。院長先生が逮捕された原因の一つは私にあること。そしてもう一つは……明日斗様。依頼人があなたであることです」

「え……俺?」

「ええ。あなたからの依頼であると院長先生が知ればおそらく断るでしょう」

「ど、どういうことだ?」

「あなたにも院長先生が逮捕された原因があるということですよ。まあ、責任は一切ありませんが」

「だからどういうことだよ!」

「明日斗様。あなたは何度かおつかいに行っていますね?」

「え、いや、待ってくれ、それは」

「どうなんですか?」

 この後の展開が予想できたのか、視線をさまよわせて言い淀む。

「た、確かにある。花とか……そういうものを買ってくるように頼まれた」

「では念のためにお聞きしますが、花を数万束購入したり、純金製の造花を購入したことはありますか?」

「あ、あるわけないだろ⁉ そもそもそんな金、うちにはない」

 言質を取ってからとどめを刺すための言葉の刃を振りかざす。

「法の精霊ミステラ」

『ああん? 何か用か?』

 いつものように奇怪な知恵の輪を組み合わせたような物体が空中に出現する。いつ見ても思うのだけれど、私のミステラは不気味すぎないだろうか。

「先ほども申しましたが、法律家は犯罪に関わる取引などについて情報開示請求を行う権限があります」

「そ、それってプライバシーの侵害じゃ……」

「いいえ。許可、および実行するのは法の精霊です。精霊の判断は必ず正しく、同時に感情に流されることはありません。精霊に心はない……いえ、あったとしても人間には理解できないものでしょうし」

 この点は地球よりもはるかに効率的で的確な部分だ。コンピューターが勝手に許可、検索してくれるようなものなのだから。きっと地球の弁護士や税理士が聞けば涙を流してうらやましがることだろう。

「ではミステラ。今から十日以内に明日斗様が売買した物品のうち、明らかに適切な値段で購入されていない商品があればそれを公開してください」

「待て、待ってくれ」

 明日斗様の懇願をよそにミステラは淡々としゃべった。

『一件該当してるぜ』

 普段いい加減なミステラがまじめな態度をとっていること自体、不吉な事態の前触れのようだった。

「待てって言ってるだろ!」

『三日前の花屋との売買で使用された金額は……』

「やめろ!」

 再び立ち上がった明日斗様は悲壮な顔つきで制止しようとするが、精霊は誰にも止められない。


『二億四千五百万円』


 砂漠に取り残されたかのように静寂だけが支配する。

 常識的に考えて花束をそんな金額で購入することはあり得ない。それどころか二億以上の大金ともなれば所持しているだけであらぬ疑いをかけられてもおかしくない。

「これでお分かりですね? 院長先生は犯罪に加担していました。さらに加えると、明日斗様の引き取り先を探していたそうです。もちろん、取引の記録を消去するために」

 その言葉がとどめになったのか、明日斗様は力なく椅子にへたり込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮攻略企業シュメール 次回作です。時間があれば読んでみてください。中東のメソポタミアと呼ばれている地域で生まれた神話をモチーフにしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ