第七話 噴煙
「じ、自白……?」
ふらりとよろめき、腰が抜けたかのように椅子の手すりにもたれかかった。
「はい。院長先生は罪を認め、その証言に基づきこの施設の一部を調査したところ、大変高価な宝石が見つかったようです」
「う、嘘だ……そんなこと……」
「事実です。さすがに警察も証拠を捏造するような真似はしませんよ」
この国の警察は結構優秀だ。というか精霊による犯罪抑止力が強すぎるせいで警察のほうも自然と規律が保たれているようだ。
「じゃ、じゃあ、もしかして、この施設が裕福になったのって……院長先生が盗みに加担していたから……?」
「え゛?」
おっと。汚い裏声が出てしまった。
いやまあ、あまりにも驚いてしまったのだからしょうがない。まさかそこまで思い上がっているとは想像もしなかった。
まさか自分たちのために誰かが大犯罪を行うだけの価値があると思っているとは。人間というのは考え抜かれた言葉よりもふとした時に飛び出た言葉に真実が含まれているものだ。
だからこの言葉は彼の願望であり、本音なのだろう。
「いえ、違いますよ。順序が逆です。この施設が恵まれているのは犯罪に加担するためであって、犯罪に加担したから裕福になったわけではありません」
「ど、どういう意味だよ」
「わかりませんか? 院長先生はある犯罪を行うためにこの施設に派遣され、命令によってこの施設を整えただけです」
しばし、沈黙がたたずむ。噴火寸前の火山のようだ、と感じた。
「ふざけるなよ……」
今までに比べるとむしろ穏やかな声だったが、それがむしろ気迫を感じさせた。
「それじゃあ……あの人が、あの人の優しさが、嘘だったみたいじゃないか!」
一転して血を吐くような叫び。しゃがれ声がより一層とげを増す。だがそれを涼やかに受け流す。
「多分そうじゃないでしょうか」
瞬きする間もあったかどうか。明日斗様は憤怒の表情で立ち上がり、手近にあった花瓶を……。
「失礼します。服に埃がついています」
手に取る直前、雫が花瓶を持ち去り、滑らかな動作で肩を掴むと操り人形のように明日斗様を座らせた。……一体いつの間に移動したのやら。おかげで事を荒立てずに済んだ。
はっきり言ってこの場の子供たち全員に襲われるよりも、雫のほうがよっぽど怖い。
それを敏感に察したのか明日斗様は猛獣……いや、毒蛇を見つけたような表情で雫を凝視していた。
「そういわれても納得いかないでしょうからね。きちんと院長先生が加担した犯罪を説明しましょう」
「説明……?」
「ええ。この犯罪はこの孤児院がなければ成立しません。それは大まかに言えば、マネーロンダリングです」
私がこれに気付いたのは完全な偶然で、もしもこのままなら大犯罪に発展していただろう。まあ、同じ手口が以前から使われていたかどうかはわからないので、すでに被害が出ていた可能性もあるけれど、そこまで責任は持てない。




