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第十一話 異化

 孤児らしき少年が立ち去ると、店主は苦笑しながら礼を言った。

「気を遣わせてすまないな。一度恵むと何度も来るからな。野良犬にエサをやるのとはわけが違うんだよ」

「いえ。シミットのお礼です」

「ああそりゃよかった。最近ああいうのが多くて困ってたんだ」

「何かあったんですか?」

「最近この近くの孤児院が揉めてるらしくてな。あのシェフが雲隠れしてからそんなことばっかりだ」

「シェフ?」

 話の繋がりが見つからなかったが、そのシェフをよく思っていないのは明らかだった。店主は一つの剥げかかった看板のあるさびれた家を指さした。

「昔、そこの空き家にはレストランがあったんだ。そこでは生魚の切り身やそば粉の麺を出してたんだがな……」

 和食? もしかして転生者?

「そこそこ繁盛してたんだが、食中毒が多発してな。一気に客足が遠のいた。自分が設立した孤児院もほっぽって夜逃げしたもんだからいい迷惑さ」

 多分、この店も風評被害を受けたのだろう。この手の悪評は周りを巻き込む。善意の行動が他人の足を大いに引っ張っているのだからまったくもって無駄の極み。……それが私と同じ転生者によって行われたとしたら嘆かわしい。

 ちらりと少年の後姿を目で追う。

(人権はないけれど人並み以上の生活を送れている私と人権はあるけれど人並みの生活さえ送れないあなた。さて、不幸なのはどっちでしょうね)

 いずれにせよ助けるつもりはない。私にも余裕はないし、そもそもブロイラーのようにエサが運ばれるのを待っているだけの家畜に救う価値を感じない。

 孤児だろうが恵まれていなかろうが自らの境遇は努力によって変えられると信じている。もちろん自身の才幹と幸運の及ぶ範囲で、だが。


 香辛料およびその他の夕飯の材料を買い込み、のんびりと家路につく。町の一角にある公園には質素な花壇とよく見慣れた樹木、桜が植えられている。

(以前春を感じたのはこれですか)

 これも日本から持ち込まれたのだろうか? ここ最近植えられたようだ。どうにもこのラルサ王国は日本かぶれが過ぎる。この辺りの地理は恐らく中近東に近い。地球の国に例えるとサウジアラビアやイラク、トルコ辺りだろう。そんな国なのにわざわざ桜を育てる意味があるのだろうか。まあきれいなのは否定しませんが。

 建築もオスマン建築らしきものもあるけれど、日本の長屋? みたいな建物から神社のようなものまである。

 服装にしてもそうだ。

 エキゾチックな民族衣装を着ている人(異種族含む)もいるけれど、和服を着こなしている人もいる。

 ちなみに私が来ているメイド服、外を出歩いていればちらほら見かける。

 どうにも外国人が勘違いした日本、みたいな様相を呈している……いや、はっきり言って。

(気持ち悪い、ですよねえ)

 この世界にはこの世界の文化がある。なぜわざわざ日本の真似をしようとするのかわからない。確かに勇者がもたらした恩恵は多い。だが同時に勇者によって破壊された文化も多すぎる。

 むしろ勇者の非道を覆い隠すために過剰に日本を持ち上げているようにしか思えない。文化的な意味合いでの外来種。それがこの世界、あるいはラルサ王国にとっての転生者ではないだろうか。

(だからと言って何ができるわけでもありませんが)

 私の能力はフォゲットミーノットとかいう何も忘れない能力だけ。自分が言うのもなんだが何でそんな能力を選んでしまったんでしょうか。その場の勢いというかヤケクソというか……そう大した理由はない。他に役立ちそうな特権もなかったのだが。

 それにしても勇者とやらは一体どれだけの善行を積めば国一つをあっさり転覆させる力を得られたのだろうか。世界でも救ったのだろうか? 考えてもしょうがないことなのだけれど。

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迷宮攻略企業シュメール 次回作です。時間があれば読んでみてください。中東のメソポタミアと呼ばれている地域で生まれた神話をモチーフにしています。
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