訪問
「そうだわ!アールヴ、落し物は届けて差し上げないとね」
「母上、どのような・・・」
「そうだな、落とし主がわかったら届けてやらんと、侯爵邸まで」
イロナが沈黙を破ると、アールヴは何を言っているのかわからないと言う顔をし、ベーラはイロナの言いたい事がわかった様で言葉を付けたすように話すと、皆が納得した様にうなずいた。
屋敷の中に入る理由ができると、アールヴは自分の小隊の一部を連れて行く事に決めたが、騎士の格好で行くわけにはいかないため、王族が出かける際にお付きとしての格好、装飾などはなくシンプル格好だ。
アールヴは、王侯貴族がプライベートで出かけるような格好で、刺繍などの装飾は少なくシンプルな服装で行く事にした。
「まったく、なんでわざわざ着替えないといけないんだ」
「仕方ないでしょう。あくまで、落し物を届けるのですから」
「わかってる」
「わかっているとは思いますが、きちんと粗相のない様な態度でお願いしますね。調べた所、邸宅には、数名の人間が確認されましたので、やはり一人でやったのではなく他の人間に命令したのでしょう」
「そうか」
アールヴイライラしながら、自分の部屋で鏡の前で出かける支度をしながら、後ろにいるイムレと話しをする。
「焦るのはわかりますが、腐っても侯爵令嬢、自分の手でさくら様を手にかけることはないでしょう」
イムレの言葉にアールヴの手が止まり、顔が強張る。
「王妃になりたいと思っているならそんな事はしないだろうな」
「そうですね。だから、まだ生きている可能性は高い。けれど、ずいぶんと大胆な方法に出ましたね」
「そうだな。まるで先の事まで考えて無い様だし、軽率すぎる」
「もっとばれないような方法はありそうなんですけど」
「怖い言い方をするな」
「それは失礼しました」
「それよりも、なぜおまえは座ってサンドイッチを食べてるんだ?もうとっくに用意は終わっているのだが?」
イムレが椅子に座りテーブルに置かれたサンドイッチを食べながら話しをしている事に怒りを抑えながら訪ねるアールヴ。
「お昼ですよ。食べますか?」
「いらん」
「食事が喉を通らないのはわかりますが、お腹すきますよ」
「いらん!」
”ここまで感情を表に出す殿下も珍しい”
アールヴは将来の国王としての教育の一環として、他の人間に対して感情を読まれない事などを小さい頃から言われ続けており、そのせいかプライベートにおいて第二王子のラヨシュと比べると感情を出すことが少ないのだ。もちろん、ラヨシュもそう言われてはいるが、やはりアールヴの方が厳しくされている。
「仕方ないでしょう。昼時に訪問するのは避けるのは常識ですから」
「そうだが・・・」
「もう少ししたら、伝令が侯爵家に向かうはずですよ」
「先に伝令が先に行ってしまっては、彼女が見つからないように隠されるのではないのか?」
「あり得ますね。けれど、伝令が王太子殿下が行く事を伝えないわけにはいかないでしょう」
「あぁ・・・」
「ちなみに、今回の伝令係は王都に来て間もなく、このあたりの地理に詳しくないので、くれぐれも迷わず王太子殿下より早く着くように、と伝えておりますのでご心配なく」
「そうか」
”そういう事か”
アールヴが納得した様に頷く。
王家の紋章のついた馬車に、アールヴとイムレが乗り込み、馬で先導するのが二人、馬車の後ろに馬に乗るのが四人が出発する。
馬車の中。
「なんで紋章が入っている馬車なんだ?」
「殿下が殿下として乗られているからですよ」
「・・・」
「それに、この方が他の馬車に邪魔されずに通れますから」
「そうだが」
「紋章の入っているので一番地味なのにしたのですから文句はいわないでください」
「わかっている・・・なぁイムレ、もしもの場合、どう償えばいいのだろうか?」
”どうやっても償えないだろうな”
「軽々しく無事ですよ、とは言いませんが、殿下のせいではありませんよ」
「こんな知らない世界に勝手に連れて来て、恨まれても仕方ないのに、そんなことは言わず・・・よく考えたらすごいな、自分だったらと考えると耐えられないかもしれない・・・」
「本当にそうですね」
王都侯爵邸。
正門前で止まると、先導していた一人が馬を下り、庭で作業をしていた男性に声をかける。
「そこの者、王太子殿下が訪問されるのに、門を閉じたままとは無礼ではないか」
「!?聞いておりませんでしたので、申し訳ございません」
男性は、一瞬強張った顔をしたがすぐ顔つきをもとにもどす。
「では、早く開けるのだ」
「申し訳ございません。ただいま聞いてまいります」
お辞儀をし、屋敷に向かおうと背中を向けると、門の外から違う声がしたので、また向き直る。
「悪いが、歩いて入るので開けてもらえるか?」
アールヴが待っていられず馬車から降りてきたのだ。
声の主に気付いた男性はさらに驚き固まってしまった。
「先に伝令を遣わしたのですが、こちらの方が早く着いてしまったようで申し訳ありません」
アールヴにイムレの威圧感のある笑顔の前に断る事が出来ず門の扉を開けてしまい、アールヴとイムレは歩いて屋敷に向かうが、二人が男性の横を通る時、頭を下げていたので表情はわからなかったが、全身が小さく震えているのが見てとれた。




