野望 2
「あなたがいなければいいのですわ」
そうか、わたしが断ったのを知らないから・・・
少しずつ自分がなぜこんな目にあっているのかが分かってきたが、口をふさがれたままのさくらにはそれを断ったことを説明の仕様もなく、ただ話しを聞くだけしかできない。
「いいですこと。ワタクシは小さい頃から将来王妃になると決めていましたの。初めて王太子殿下にお会いしたのは、お父様とお母様と王宮主催のガーデンパーティーに行った時です、理想通りの殿下のお姿に感動し、大人になった殿下とその横に立つワタクシの姿を思い浮かべ、王妃になっても恥ずかしくないだけのマナー、礼儀、話し方、ダンスなど花嫁修業をいたしましたわ。
将来、爵位を継ぐワタクシにはそれなりの殿方から山ほどの結婚話しも来ていますのよ。けれど、ワタクシは殿下と結婚すると決めていましたから、全てお断りいたしましたわ。それなりの貴族でも王太子妃、ましては王妃にはなれませんでしょ。
それなのに、こんなどこの骨ともしれない、こんな女なんかが選ばれるなんて、儀式が失敗したに違いありませんわ!ですから、その間違いワタクシが正してあげますわ」
自分に酔いながら何時間も話しを続けるグリメルダに、段々と最初の頃に抱いていた恐怖が少し薄れてはきたが、このまま先どうなるのかが全く見えない状態には変わりないという事の怖さは残ったままのさくら。
眠い・・・何時なんだろう
恐怖が薄れてくると段々と眠気が襲ってくる。深夜には間違いないいのはわかっているが、さくらの視界に入る範囲に時計がない事もあり、時間が全く分からない。だが、いつもなら寝ている時間には間違いないことはわかる。
「喉が渇きましたわね。下にお茶の用意をして頂戴」
「はい」
後ろに控えていたメイドに言うと、メイドは小さく返事をし部屋を出て行く。
「あなたも、間違えられて災難でしたでしょう。そのことについては可哀想に思いますわ。ですけれども、その間違いをいいことにそのまま王太子妃の座に収まろうとするのはよくありませんわよ・・・・・・」
話しの続きをしていると部屋のドアが開き、メイドが部屋に入ってきた。
「用意が整いました」
「そう、それではこの女を見張ってなさい」
「はい」
それだけ言うと、グリメルダは部屋から出て、一階の応接間に用意されたお茶を飲みに行く。
「申し訳ありません」
グリメルダの足音が聞こえなくなり一階に降りた事を確認すると、突然さくらの目の前で額を床に着けながら土下座をし謝る。
「!?」
「本当に申し訳ありませんでした」
「(なに?どういうこと??)」
口をふさがれているため話しができないたね、いきなりの事に頭の中が軽いパニック状態になった。
「お嬢様には逆らえず、王太子妃様にこのような事をしてしまいました。お許しください」
「(土下座はいいからたすけて)」
「すみません」
「・・・」
涙を流しながら土下座をしたまま謝り続けるメイドに、何か理由があるのだと思ったさくらは、何も言えなくなりなんとなく落ち着いてしまった。
そんな事をしていると、階段を上る足音が聞こえてきたため、メイドは慌てて立ち上がると服を整えなおしたのと同時くらいにドアが開くとグリメルダが入ってきた。
「紅茶は蒸らしすぎで苦かったですわよ」
「申し訳ありません」
部屋に入ってきた第一声が文句なの!?
グリメルダの言葉に驚くが、その言葉に対してごく当たり前のように受け止め頭を下げ謝るメイドを見て、普段からこういう事が日常の事なのだという事が見ていてわかり複雑な気持ちになる。
トントン
部屋のドアがノックされると、メイドがドアを開け男性が部屋に入って来る。
この男性は、馬車を運転しさくらを押え付けた人物だ。
「お嬢様・・・」
「わかったわ。この女を起こしなさい」
「はい」
男性は、さくらの上半身を起こし担ぎあげようとするがその前にグリメルダがとめにはいる。
「待ちなさい」
上半身を起こされ床に座ったままのさくらの目線に合わせるように体を屈めるグリメルダ。
「忘れていましたわ」
グリメルダがさくらに、にっこりと笑いかけると持っていた扇子をさくらの頬に軽く”ポンポン”とあてた次の瞬間思い切り扇子でさくらの頬を引っ叩いた。
扇子の角が肌をかすめさくらの頬に爪で引っ掻いたような傷ができそこから血が滲む。
「ひっ!?」
メイドが驚き体をびくつかせ声にならない声を上げた。
「教会でワタクシを倒したお返しですわ。珍しい顔立ちだから殿下に取り入ることもできたんでしょうけれど、顔にそんな傷が出来ては見向きもされませんわね」
勝ち誇ったように笑うグリメルダ。
頬の痛みもあるが、精神的にも反撃する気力もないさくら・・・
なんでこんな目にあわなきゃいけないの。
取り入ろうとなんてしたことない。
結婚だって断ったのに。
痛いし、もう嫌だ・・・
さくらの瞳から涙が流れる。




