イムレとアールヴ
イムレは執務室に戻ると、アールヴが書類の山の中で仕事をしていた。
「やっと戻ってきたか」
「すみません。少しばかり遊んでいました」
仕事が溜まっている中、中々戻って来なかったイムレに、仕事がはかどるという安心感と何時間も戻らなかった苛立ち交じりの言い方をするが、イムレはそんな事気にも留めず笑顔で席に着き仕事の続きを始めた。
「遊んでた?」
普段仕事中にさぼるなんてことのないイムレが”遊んでいた”と言う事に少々驚くアールヴ。
「はい。さくら様とポスをしていました」
「ポス!?彼女はポスを知っているのか?」
アールヴは、こちらの世界のゲームをあちらの世界の人間が知っているとは思ってもみなかったので驚く。
「あちらの世界に似たようなゲームがあるそうで、教会の者と遊んでいた所を私も混ぜてもらいました」
「そうか。それで結果は?」
「勝ちました」
「イムレは国内でも5本の指に入るくらい強いからな」
「さくら様もお強かったですよ。殿下といい勝負かもしれませんんよ」
「そんなことよりも、少しまわりがざわついてきましたよ」
イムレが手を止め先ほどの穏やかな顔から真面目な顔になる。
「そうか、もうそろそろ限界か?」
「適当な言い訳を作るのは簡単ですが、それでは単なる引き伸ばしで結局意味がありません。それどころか、お二人にとっていい結果にはならないと思いますが」
「そうか・・・」
「殿下、さくら様に今の現状を話してみてはいかがですか?」
「話してどうする?王になるために、この世界に居るのなら私と結婚しろ、とでもいうのか?」
「結婚に関しては口出しする立場にはないので」
「どうかしたのか?当然”結婚しろ”と言うと思っていたのだが?」
「そう言ってほしかったのですか?」
「そうではないが」
イムレの言葉に内心怒りの感情を高ぶらせていたが、次の言葉にその留意を一気に下げられた。
イムレは、ゲームをしていた時の会話で”帰ることができないから、結婚するって違うと思います”と言っていたさくらの言葉とアールヴの無理やり結婚はしない、という事にどこかで納得している自分が居ることに気付いたのだ。
「まぁ、いずれさくら様の耳に入るでしょうし、ざわついてる貴族もすぐには騒ぎ立てることはないでしょう」
「なぜだ?」
「この世界の人間ではないので、王太子候補はまだこの世界に慣れていない、落ち着くまで時間がかるらしい。と噂話しを流しておきました。ただし、そう長くは持ちませんよ。非公式にでも会いたがるでしょうし、特に婦人方は」
「あー、そうだな・・・母上にお茶会でも開いて彼女も一緒にと言いかねないな」
イムレの最後の一言にアールヴは、昔参加させられていたお茶会でのご婦人方の愛想笑いに作り笑い、目に見えない牽制合戦の様な光景などが思い出されて全身が一瞬小さく震えると次の瞬間脱力感で頭が机の上に落ちる。
「もうちらほら遠回しに”そろそろ皆さんで集まりたいですわね”と、来ているらしいですよ」
「はぁ・・・、あれのどこが楽しいのか」
「楽しんでいる人間はごく一部ですよ。それよりー」
書庫
さくらは、しらみつぶしにお目当ての本を探していた。
違う、このあたりも違う・・・イムレ様絶対わざと教えてくれなかったよね。やっぱり嫌われてるのかな。
はぁ、これって今日見つからないよね・・・
心の中でため息をつくさくら。
読んでいただきありがとうございます。