3
名は、アールヴ。二十歳。この国の第一王子で王太子。
この国の成り立ちは、この世界の守り人が人間の女に恋をした事から始まると言われている。
元々女の住む場所であるこの地は、痩せており食べて行く事がやっとという生活。
やがて女と守り人が結婚をし、守り人がこの地に住み始めると痩せていた土地は肥沃な土地へと変わり人々の生活は少しずつ豊かに変わっていった。
そして、この二人の間に生まれた子供が領地の長となり、いつしか領土は広がり民も増え王国と呼ばれるようになった。
その子孫が、この王太子アールヴ。
王は、守り人の力を受け継いでいるとされ、平和、安定、を願いそれが国の繁栄をもたらしているとされている。
国王になる者は、その伴侶たる者を儀式により選ぶ。
それがこの国の決まり。
儀式により選ばれた伴侶は、運命の相手とされている。
その決まりに従い、その年一番満月の夜王太子アールヴはその儀式を行うこととなった。
*****
「緊張しますか殿下?」
アールヴの部屋に一緒にいる茶色の髪に茶色の瞳の落ち着いた雰囲気の男性、側近のイムレ。
「緊張はない」
淡々と答える。
「自分の結婚相手との初対面なんですよ」
苦笑しながらアールヴのほうを見ると、本当に緊張してないのかいつもと変わらない様子で椅子に座りくつろいでいる様子だ。
「そういうが、生まれた時から決まっていてそう言われ続けてきたから、特に何とも思わない」
当たり前のように存在する決められた事。アールヴは今更特別な感情など湧き上がってこないのだ。
アールヴにとっては、正式に王太子と任命された時と似た感覚。
*
月が真上に上りきる三十分前。
古い塔の最上階石造りで丸い円形のさほど広くないこの部屋にアールヴとイムレがやってきた。
「何の問題もないか?」
待っていた教会の人間に聞く。
「はい、大丈夫です」
「そうか」
古い塔の上、この場所は初めてこの儀式が行われた所で、それ以来国王になる者は全員この場所で伴侶を呼び出す儀式を行っていた。
儀式の時間が近づくと部屋にいる者達は皆入口近くの方へ集まり、何とも言えない緊張感が部屋を覆った。
月が真上に来ると同時に、アールヴは手を合わせ目を閉じ願う。
部屋が光に包まれ、その光が収まってくると部屋の真ん中に一人の女性が座り込んでいた。
成功だ。
部屋に居る皆が歓喜とも言えるような騒ぎで喜び合う。
「来られましたよ・・・アールヴ殿下」
そうつぶやくと、アールヴは部屋の中心にいる一人の女性を見る。
そこには、見たことも無い服を着た女性が座っていた。
成功したことによる安堵の表情をするアールヴは、女性の方に近づき同じ目線になるように腰を下ろした。