さくらとイムレ
今日は、教会の人達とポスをするため、さくらがいつもの教会近くの木の所に行くと、カーロイ達がすでにゲームを始めていた。
「こんにちは、皆さん早いですね」
「さくらさん」
「さくらさん、今日は教会の仕事が早く終わったので先にはじめてました」
さくらが挨拶すると、対戦していたカーロイとテレキが手を止めさくらの方に顔を向け挨拶をする。
こちらの世界に来て、知り合いもおらず、話し相手もいなかったさくらが気軽に話せて楽しめる過ごし方の一つになっている。
「そうなの、ベトレンさんは?」
「ベトレンは用事を言いつけられてこれないんだ」
「そうなの」
「さくらさん、僕と対戦しない?」
「ええ」
カーロイとテレキの対戦を見ていたホルティがさくらを誘い、二人が対戦している横のテーブルにゲーム盤を置き、それぞれ自分の駒を並べる。
「前回はさくらさんが先行だったから今回は僕が先行でいい?」
「えぇ」
「お願いします」
「お願いします」
お互い挨拶をし対戦を始める。
ゲームは真剣だが、遊びの延長戦のようなものなので長い長考などはせず、話しをしながらする。
「さくらさん、昨日は城下はどうだった?」
「えっ、なんで知ってるの?」
「そのくらいのことならすぐ伝わってくるよ」
ホルティの質問にさくらが驚き、そんなさくらを三人が見つめて、カーロイがごく当たり前のように答えた。
「もしかして、お忍びだったの?」
「そういうわけじゃないけど・・・」
隠してないし、秘密でもないけど、こういう所ではその程度の情報は皆が知っている常識、というわけね。
「元いた世界とは違った?」
「全然違うかな。なんか、レトロっって感じだった」
「レトロ?」
「なんていうか・・・」
昔のヨーロッパの街並み、といってもわからないよね。
「んー、見慣れない世界たいだったの。珍しくて歩くだけでも楽しめたかな」
「楽しめたならよかったね」
「えぇ、皆は城下によく行くの?」
「用事があれば行くくらいだよ」
「そうなんだ」
カーロイとテレキの対戦がカーロイの勝ちで終わる。
さくらとホルティの対戦はさくらの勝ちで終わった。
「参りました。さくらさんは本当に強い」
「ありがとうございました」
対戦が終わったころ、教会の方から一人の男性が歩いて近寄ってくる。
「イムレ殿」
「カーロイ殿、何をなさっているのですか?」
「ゲームをしていたのです」
「ほう、さくら様も?」
「はい、似たようなゲームがあちらの世界にもあったので」
「そうでしたか。では、私と一戦」
「えぇ、イムレ様」
「イムレ殿、さくらさん我々はそろそろ戻らないと」
「この盤使ってもよいのなら後で私が届けるので貸してもらえないかな」
「いいですよ」
カーロイがゲーム盤のを一つ残して片付け、教会へ皆と帰っていった。
「始めましょうか」
「はい」
「さくら様はよくこちらに?」
「まぁ、そうですね」
「そうですか。こちらの生活は馴れましたか?」
「えぇ、みなさんによくしていただいていて感謝しています」
「そうですか。昨日のお出かけはどうでしたか?」
「楽しかったですよ」
「そうですか。そのイヤリングお似合いですね」
さくらが耳につけているのは、昨日アールヴに買ってもらったイヤリング。
「ありがとうございます。あの、お話しがあるのなら普通に聞いてもらえれば」
ゲームより話しをしたそうなイムレの話し方にさくらはゲームの手を止める。
「話しをしたかったのは事実ですが、さくら様がお強いとカーロイ殿に聞いていたので一度手合わせをしてみたかったのですよ」
「カーロイさんとお知り合いで?」
「私の母とカーロイ殿のお父上が姉弟なのですよ」
「従弟ということですか」
「そうです。彼は公爵家の五男なんですよ」
「そ、うなんですね」
カーロイさんって腰が低くて全然貴族に見えなかった!しかも、公爵家!!人は見かけによらずっていうけど・・・全く普通の人にしか見えなかったよ。
「じゃ、イムレ様も貴族なんですよね?」
「伯爵家の二男です」
イムレ様は貴族っぽい感じがする。
「話しがそれましたが、個人的にですが聞きたい事があったのですよ」
「何ですか?」
「もし元の世界に帰る方法が見つからなかったらどうします?」
突然の予想しなかった質問に一瞬固まるさくら。
「・・・このままずっと・・・」
ぼんやりとだけどどうするか考えてた・・・
「王宮から出てどこかで普通に暮らせたらと考えてました」
「ここから出ると?」
さくらの答えに今度はイムレが驚く。
「はい。ここに残るわけにはいかないでしょう」
「なぜ?いきなり呼ばれてさくら様は何の落ち度もないのに?」
「そうかもしれませんが、いつまでもお世話になるわけにはいかないと思いますし、王太子様もいつか結婚するでしょ、そうしたらわたしが王宮に居ることは相手の女性も嫌でしょうし」
わたしだったら嫌だから。
「アールヴ様と結婚するということは考えないのですか?」
「王太子様が嫌とかではないんです。ただ、帰ることができないから、結婚するって違うと思います」
「そうかもしれませんが・・・いえ、その通りですね」
イムレは、さくらの言った事を否定しようとしたが、瞬間、アールヴがさくらに結婚を断られたことに対して素直に納得したのが少しわかった様な気がした。
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