言い方
王宮に帰り着くとさくらは部屋へ、アールヴは自分の執務室へ。
アールヴが執務室に入ると、部屋にはイムレが仕事をしていた。
「まだいたのか?」
「えぇ、さくら様とのデートはどうでしたか?」
「デートではない」
「はいはい、城下街の案内はどうでしたか?」
イムレはアールヴを茶化すように今日の事を聞く。
「母上の実家で着替えてから街に行ったのだが、昼食を最近人気だと言っていた新しい店で食べたが中々美味しかった。だが人気なだけあって並んだがな」
「きちんと並ぶなんて偉いですね」
「お忍びで行けば普通だろう」
イムレは、格好は市民でも立ち居振る舞いで貴族とばれそう、と心の中で思う。
「あと、ホルドのイヤリングを買った」
「プレゼントですか」
「気に入ったようだったからな」
「そうですか。初めてのプレゼントですね」
「ったく、その含みのある言い方はやめろ」
イムレの言い方に少々怒ったような呆れたような言い方をするアールヴ。
「失礼しましたアールヴ様」
「ホルドは透明だった」
アールヴが真剣な顔で言うと、イムレも一瞬にして真剣な顔つきになる。
「それは珍しいですね」
「あんなに透明度の高いのは初めてだ」
「いい事なのでしょうが、採掘している王家の人間ですら見たことがないのに・・・小さいからとかは関係があるのでしょうか?」
「そうかもしれないが・・・」
「どちらにしろ、濃い色でなくてよかったですね」
「そうだな」
納得したようなしていないような感じを持ちながらも、イムレの言葉でとりあえず納得する。
「さっきから足音が聞こえるが何かあったのか?」
「足音?もしかしたら、さくら様が迷われてるのかも」
「迷う?どうやったら迷うんだ?」
「普通の人からすれば宮殿は広いですからね。それに時々迷ってらっしゃるみたいですし」
「それは皆知っている事なのか?」
「何人も迷っているのを見かけたという話しを聞きましたよ」
「そうなのか」
話しをしているとまた足音が聞こえてきたので、足音の正体を知るためアールヴは椅子から立ち上がり部屋のドアを開ける。
「あっっっ」
廊下を歩いていたら突然ドアが開き人が部屋から体半分ほど出てきたので驚き瞬間、足を止める。
そして、部屋から出てきたアールヴとぶつかるのを回避するため体制を崩してしまい尻餅をつく形で倒れ込んだ。
「大丈夫か!?」
「はい。よく前を見ていなくてすみません」
「こちらこそ、すまない」
アールヴが倒れたさくらに手を伸ばし、その手をさくらがとり立ち上がる。
「ありがとうございます」
「さくら様お怪我はありませんか?」
「イムレ様!?・・・大丈夫です!元気です!!」
アールヴの背後から顔を出したイムレにさくらが驚く。
「迷ったのか?」
「えっと・・・はい・・・」
「部屋まで送ろう」
「大丈夫です。お仕事中ですよね?邪魔してすみませんでした」
迷ったのと、尻餅をついたのが恥ずかしくて早く立ち去りたいと思いながらアールヴの申し出を断るさくら。
「最初から部屋まで送ればよかったのだ。そこまで気が回らずすまなかった」
「そんな、謝られても困ります。わたしが勝手に迷っただけですからっ」
「さくら様、迷わずたどり着ける自信は?」
「・・・ありません」
「では、送ろう」
「はい」
「イムレ、彼女を送ってくる」
「行ってらっしゃいませ殿下」
さくらとアールヴの”送る””送らなくていい”が続きそうだったのでイムレは話しの間に入るような形で終わらせ、アールヴはさくらを部屋へ送ることになった。
部屋に残ったイムレは仕事の続きをしながら一人笑顔になる。
「彼女を送ってくる。ねぇ・・・」