月光
帰りの馬車の中。
「今日はありがとうございました。とっても楽しかったです。それに、王太子様のおじい様おばあ様って優しくてとても素敵な方々ですね」
「楽しんでもらえてよかった。祖父母は昔からああいう人達で全く変わらない」
「大好きなんですね」
「あぁ・・・気を張らなくていいからな」
最後の言葉を、さくらに聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で言うが、その言葉はさくらの耳に聞こえたがそれをあえて聞こえていないふりをした。
「あっ!」
「どうした!?」
突然の大声にアールヴが驚き、何かあったのかとさくらを見る。
「あっ、いや、このイヤリング月にかざすの忘れてた、と思って。これ何色になるんですか?」
少し言いにくそうに自分の耳からイヤリングを外し手のひらに乗せたイヤリングを見つめながら話しをする。
それを聞いて少し呆れたような安心したような顔になり、石のついて話をしはじめる。
「石は何色に変化するかは、月にかざしてみないとわからないんだ。だからなのか、ホルドは月の光に真実の姿を現す、と言われ、不思議な力を宿しているとも言われている」
「そっか・・・素敵な石なんですね」
「そうだな。この宝石は王家所有の山でしか採掘されたことがなく、出回っている数も少ない。それがそういう話しを生み出したのかもしれないな」
「では今から見てみるか。止めてくれ」
運転手に馬車を止めるように言うと、街から少し離れており王宮に帰る一本道の開けた場所で止まり、ふたりが馬車から降りる。
「今日満月だったんだ」
こっちの世界に来てから夜空をよく眺める様になった。月だけじゃなく星も沢山見えるから・・・地球だったら”星空を見ようツアー”にでも参加しないと観られないような夜空。
「どうかしたか?」
「キレイだな、って思って」
「そうか」
アールヴにとってはいつもの見慣れた空なので嬉しそうに空を見上げるさくらを少し不思議そうに見る。
「あの、これ、もし真っ黒のままだったら?」
「クスッ、黒のままだったら単なる偽物のガラス玉だよ」
顔をひきつらせながら不安そうに聞くさくらを見ておかしくて吹き出しそうになりながら答える。
本物だったら絶対に色が変わるんだ。
そして、イヤリングを月にかざす。
石が月に照らされた瞬間まぶしいくらいの月の光が石に集まり黒色だった石の色が変わる。
「透明!」
ダイヤモンドみたい。
「これは珍しいな」
「えっ?」
「ここまで透明のホルドは見た事ない」
月にかざされた石を覗き込むように見たアールヴもこの色は見た事がなかったらしい。
「アル、イヤリングありがとう。」