街
アールヴは着替え終わると1階へ下りる。
1階には先に着替え終わっていたさくらが婦人と待っていた。
さくらの服装は、綿の生地のくるぶしまであるワンピース、ブーツ。
「女性をお待たせしてしまいましたな」
「いえ、来たばかりです」
アールヴの祖父が笑顔で言うと、さくらと婦人が下りてくる2人の方を振り向きさくらが返事を返す。
そして、外に出ると、来たときよりもシンプルで小さい馬車が用意されており街まで送ってもらうことになった。
「楽しんできてね」
「はい、ありがとうございます」
馬車の中。
「さくら殿、祖父母にした挨拶はどこで覚えたのだ?」
「見ようみなねです」
「えっ」
「今までそんな機会なんてないですし、初めてだったのですごく下手だったでしょう?」
「下手ではなかった。ただ驚いたので」
「どうも。でも、やっぱりスムーズには出来ないものですね」
初めてと聞いて驚いたアールヴだが、初めてとは思えないくらいにスムーズにしていた、と思い返しながら思う。
「さくら殿、街で王太子ではなくて”アル”と呼んでくれないか」
「わかりました。では、わたしの事は”さくら”と呼んでください」
「わかった」
そうだよね、せっかくばれないようにしてるのに王太子なんて呼んだら意味ないよね。
街の入口。
ここには、馬車を止めて置く場所があり子爵家の馬車もそこに留め置くことにした。
二人は馬車から降り街へ向かう。
「楽しそうだな」
街の中心街に向かうため歩いているさくらを見ながらアールヴが言う。
「こっちに来て王宮から出るのは初めてだし、じつは、街に来てみたかったんです。連れて来てもらってありがとうございます」
さくらが振り向きお礼を言うと少し照れたように顔を赤らめるアールヴ。
街はさすが国の中心街というべきか平日にも関わらずにぎやかで人も多い。
石畳の通りに石造りの建物、露店もある。
「すごい!」
昔のヨーロッパのイメージそのもの!!
感動しているさくらにアールヴは引き気味に苦笑する。
「アルは街には来よく来るの?」
「小さいころや学生の頃はは時々来ていたが最近は来ていないな」
「と、いうことは詳しいんだ。案内お願いします」
「あぁ、どこか行きたいお店はあるか?」
「えーと・・・とりあえず街ぶらで」
そうだ、わたしお金持ってないんだった!どうしよう、何も買い物できない・・・
まぁ、この街並みを楽しむだけでもよしとしなきゃね。
庶民の買い物から貴族御用達の店までが揃っている。
青果店や鮮魚店には地球では見たことのないものが並べられていたり、オーダーメイドの洋服店、宝石店にはガードマンまでいる。
「全部一点ものの手作りなんですよ」
露店の横を通りかかった時に声をかけられ立ち寄ると、イヤリングやネックレス、バレッタ、ヘヤピンなどのアクセサリーを売っていた。
「かわいい」
並べられた商品を見て小さくつぶやく。
石は小粒で天然なのか一つひとつ形や大きさが違うのやガラスなどを組み合わせた物など沢山販売されている。
「気に入った物でもあったか?」
「あ、いえ、大丈夫ですっ」
「これを」
アールヴがさくらの目線の先にあったイヤリングを指で指し確認するようにさくらのみを見ると、そのイヤリングを手に取り、店員の女性に渡しお金を払う。
店員は袋に入れながらイヤリングについて話す。
「これはホルドという石で普段は黒色なのに月の光にかざすと色が変わるんだよ」
「そうなんですか」
「ありがとう。デート楽しんで」
「!!!」
「!!!」
袋に詰めたイヤリングをさくらに渡す。
さくらとアールヴは”デート”と言う言葉に顔を赤くさせお互い目が合うが言葉がでてこない。
そんなふたりを見て店員の人が”くすっ”と笑う。
「ありがとうございました」
「いや」
歩き始め、うつむきながらさくらがお礼を言うとアールヴも照れながら前を向いたまま歩く。
デート・・・そっか、そう見えるんだ。
「さくらどっ・・・ごほっ」
さくら殿と言いかけ言葉を止めごまかすように咳払いをする。
「くすっ」
「そろそろ、お腹もすいたしお昼でも」
さくらが小さく笑うと恥ずかしそうにするアールヴ。
「たしかに、お腹すいたね。それじゃぁアルのお薦めで」
「お薦めか、行ったことはないが美味しいと聞いたことがある店でもいいか?」
「えぇ」
着いたのは、地球でいう所のピザ屋。
元々地方の食べ物だったのが、こちらで店を出して人気になった大衆的な店。
平日とは言えお昼時だったこともあり人が多く、並んで席に着く。
「すまない。まさか並ぶとは思わなかった」
「全然大丈夫ですよ。人気って事は美味しいんだろうし楽しみ」
「それならよかった」
注文した、ピザ2枚、フライ、サラダが運ばれてきた。
いつも王宮ではコース料理食べてるから、久しぶりのピザがうれしい。
王宮の料理を毎日食べられるなんて贅沢なんだけどね。
「美味しいですね」
「あぁ、美味しいな。食べた事ない料理だ」
「元いた所に似た料理があったんで、また食べられてうれしいです」
「そうか、やはりチキュウに帰りたいか」
「そうね、帰りたくないといえば嘘になるかな」
この世界は嫌いじゃない。むしろ、時間がゆっくりと流れている感じで好きかも。
でも、あっちは嫌な事の方が多かったけど、学校も卒業してないし、就職活動も途中だし、他にも・・・なんか中途半端なまま沢山置いてきちゃった気がするんだよね。
読んでいただきありがとうございます。