王太子執務室
選ばれる可能性にかけて誰とも恋をしない。
それは、歴代の王様も同じなのかもしれない。
「「プライベートで女性と二人きりで話すことに慣れていなくて・・・すまない」」
か・・・
さくらは、西の庭園でのアールヴの言葉を思い出す。
王太子執務室。
「アールヴ様、今日のお茶の時間は楽しかったですか?」
「なんで知ってるんだ?」
ニコニコしながら訪ねるイムレに驚くアールヴ。
「いえ、こんなに書類が溜まっているのに優雅にお茶をしていると小耳にはさみまして」
デスクの上には王太子のサイン待ちの書類の山。
書類の仕分けはイムレがしており、それを最終的に精査しサインするのは王太子の仕事。
「母上か・・・いったいあの人達(父上と母上)はどうやって連絡を取っているんだ?父上と仕事している時は誰も部屋に入って来なかったぞ」
「お二人はとても仲がよろしいですからね」
「そういうレベルじゃないと思うが・・・」
あの二人は仲がいいとか馬が合うとかのレベルじゃない。同じ場所にいて同じものを見ているかのように通じあっていると思うことがある。
「さくら様とのお茶はどうでした?」
「住んでいた世界の話しを色々聞いた。ずいぶんと便利な物が沢山ある世界らしい」
「もう、このまま結婚してもいいのではないですか?」
思い出しながら楽しそうに話すアールヴの珍しい顔を見て、本人が気づいているのかはわからないが、さくらの事を気に入っているのではないかと思うイムレ。
「もう、振られてしまってるよ」
「そうでしたね」
「あんなに頭を下げられたのは初めてだったよ」
そんなに嫌がられてまで結婚なんてできないだろう。
幸せになれないなら結婚なんてしない方がいいとあの時思ってしまったんだ。
「でも、さくら様が元の世界に帰ることができなければ最悪王位を継承できなくなるのですよ」
「それは違う、王位か結婚か選ぶことになるだけだ。それに、彼女が帰れば儀式ができるし何の問題もない」
「2度目の儀式ができる保障はありません」
王になるのに結婚しなければいけないということはない。だが、王になる者の配偶者になる者は儀式により選ばれる。
王に子がいなければ王族から次の王が選ばれる。
これは、いつからかはわからないが決められていた事。
「今日はやけに突っかかるな」
「すみませんでした」
「いいや、心配してくれたことはうれしい。それに、毎日遅くまで仕事に付きあわせて悪いと思っている」
「そんな事は構いません。それより、さくら様を元の世界に帰す方法を探すのはいいのですけれど、本来の仕事を夜にするような事を続けては体によくありませんからほどほどにしてくださいね」