東の庭園 3
口を挟む間もなく去って行ってしまったイロナ。
取り残されたさくらとアールヴはポカンとイロナを見送る。
行っちゃった・・・
先ほどさくらにお茶を出した王妃の侍女が、テーブルに置かれた王妃とさくらのお茶を片付け、さくらとアールヴに新しいお茶を出し、そのままどこかへ下がっていく。
「せっかく用意していただきましたし、予定がないのでしたらいただきませんか」
「そうだな」
さくらが立ったままのアールヴに話しかけると、先ほどまで王妃の座っていた椅子に腰かける。
お茶はさっきの花茶ではなく、ジャスミン茶の様な味のお茶だった。
「母上が誘ったようで申し訳ない。」
「いいえ、とんでもないです。王妃様との話しは楽しかったですよ。」
「それならばいいが」
沈黙。
お互い話すことがない。
気まずい・・・
「プライベートで女性と二人きりで話すことに慣れていなくて・・・すまない」
「わたしも慣れてなくて、すみません」
デートもしたことがない二人(王太子様はたぶん)だとこうなっちゃうんだ。
二人が同時にお茶を飲み干す。
「クスッ、なんだか不思議ですね」
「そうだな」
アールヴが小さく微笑む。
「さくら殿の事を聞いても?」
「どうぞ」
「向こうの世界ではどのような暮らしをしていたのですか?」
「一人暮らしで学生、就職活動中でした。51社受けて内定0」
「そんなに受けたのか!」
アールヴが目を見開き驚く。
さくらは予想通りの反応だったのかアールヴを見て、そうだよねぇ、という感じだ。
「言い訳をすると就職難な時代なんですよ。もっと沢山受けた人もいるくらいなんですよ。あと、結果出てないのもあるんですから」
「すまない。あまりの数に驚いてしまって」
「いいえ。自分でもすごい数だなと思いますから」
ホントよく受けたよなぁ・・・就職出来ないと生活出来ないから手当たり次第という感じになっていたし。
それから、こちらとあちらの世界の違いについて、ラヨシュに話した事をアールヴは聞いていてそれについての詳しい話しをさくらに聞いたりした。
「そんな世界からこちらに来ては不便なのでは?」
「そういう意味ではあちらの方が便利ですけど、それがいいとは限りませんよ」
「そういうものなのか」
「便利=幸せ、ではないでしょう」
「そうなのかもしれないな」
「長い時間話し込んでしまったな。部屋まで送ろう」
「はい。お願いします」
二人の居るあずまやに、沈みかけた太陽の光が差し込み夕方になっていたことに気づいたアールヴはさくらを部屋まで送っていく。