ご褒美
「さて、アレスよ。そなたには礼を言わねばならん」
王は表情を和らげるとアレスに向き直った。
「よくぞ余を救ってくれようとしたな。しかし、そのためにとんだ汚名を着せられたと聞く。大儀であった」
「いえ……。王宮大魔導師として当然の事をしたまでです」
アレスは落ち着き払って答えた。驕る事のないその姿勢にリデリアが感心していると、今度は、王はリデリアに対し、「そなたがリデリア・ベルニエだな」と話し掛けてきた。
「は、はいっ!」
まさか自分に声を掛けてくるなんて思っていなかったリデリアは、とっさに返事したものの、声が裏返ってしまった。
「そなたの万能薬が余を蘇らせた。その類まれなる才能に感謝しよう」
「あ、ありがとうございます!」
汗をダラダラかきながら、リデリアは頭を下げた。どうしてこんなに偉い人と話していて、アレスもラッドヤードもいつもと変わりない態度なのだろうと疑問に思ってしまう。
「ギルドで騒動を起こしたのも、余のためとあっては罪に問う訳にもいくまい。それだけではなく、そなたたちにはその働きに相応しい褒美を授けねばならないだろう。何か希望はあるか?」
王が尋ねてくる。話しているだけで精いっぱいだったリデリアは、そんな事を言われるなんて全く思っていなかった事もあって、「いえ、別に……」と控え目に首を振った。リデリアとしては、今回の件を水に流してくれただけでも充分だったのだ。
「私も特に望むものはありません」
アレスも同様だったようで、何も思い付かないような、困った顔になった。ラッドヤードは「欲がないねー」と笑っている。
「じゃあ俺も、って言いたいところだけど、せっかくだし、何か頼んじゃおっかなー? うーん……今回の騒ぎだけじゃなくて、俺の前科も全部なかった事にしてください! とか?」
「構わん。許可しよう」
「えっ、良いの? 王様ってば太っ腹じゃん!」
あまりにあっさりと許しが出たものだから、流石のラッドヤードも驚いたようだ。
「じゃあ、そんな気前のいい王様に、後で素敵な贈り物をしようかなー? 俺が盗みに入った時に見つけた、ある商人の裏取引の資料とか、ある貴族の贈賄の証拠とかー?」
「ほう、それは楽しみだ。何かと隠し事の上手い連中が多いのが余の悩みの種でな」
王は鋭く目を光らせながら顎を撫でた。
リデリアは、ラッドヤードがそんなものまで盗ってきていたという事を知って目を丸くする。
まさかこの人、脅迫まがいの事もしていたのだろうかとも思ったが、それならわざわざ怪盗なんかして新しい金目のものを盗み続けなくてもよかっただろうし、第一、『弱いものの味方』という彼のイメージから外れてしまうと考えて思い直した。
『千の顔』でも、持ち合わせていない顔くらいあるはずだ。