陽動作戦
「どういう事、って思ってる感じー?」
ラッドヤードがニヤつきながらリデリアの肩に手を置いた。説明してやれ、という意味だと受け取り、リデリアは口を開く。
「私の万能薬を王様に飲んでもらいました」
「何ですって!?」
ハリエットは目を丸くした。ラッドヤードはその様子がよっぽどおかしかったのか、プッと吹き出す。
「団長さー。もしかして何にも分かってない感じー?」
「な、何も……?」
「うーん。初めから説明するとねー。このギルドでの騒動を引き起こしたのは、俺たちでしたーって事かなー?」
ハリエットはあんぐり口を開けた。ラッドヤードが「変な顔ー」と言って笑い転げる。
「このギルドの地下には、魔物が閉じ込められているだろう。その魔物に、リデリア殿の万能薬を与えたんだ」
大笑いが止まらなくなってしまったラッドヤードを呆れた目で見ながら、アレスが更に詳しい話をする。
「そして、魔物にここで暴れるように指示を出した。その後も定期的にリデリア殿の万能薬を届けて、常に万全の状態で活動できるようにしていた」
「な、何て勝手な事を……!」
あの魔物がどこからやって来たのか分かって、ハリエットは怒りを滲ませた。リデリアは、やれやれと肩を竦める。
「団長が悪いんでしょう。劣悪な環境の地下飼育室に魔物を閉じ込めておくから。魔物が怒っても仕方ないですよ」
リデリアからすれば、こうなったのはただの自業自得だ。
「それにこれは『お仕置き』ですから、多分皆そこまで本気は出してないと思いますよ。この程度で済んで感謝してくださいよ」
「まあ、陽動ってやつ? 団長の下にも、そういうの得意な子、いるでしょー?」
やっと笑いが収まってきたラッドヤードが言った。
「流石の俺でも王様のお部屋に忍び込むのはちょっと危険じゃん? だから、他で騒ぎを起こしてお城にいる人たちの注意を逸らせちゃった! ここ、王宮から近い位置にあるから、そういう事するのにぴったりだしー?」
それから、これ! と言いながら、ラッドヤードがお得意の変身術を披露する。彼が姿を変えたのはハリエットだ。
「団長、もう少し痩せたらー? 服がきついよー」
ラッドヤードは首周りの布を引き延ばしながら不満を漏らす。ハリエットは、いきなり目の前に自分と同じ姿の者が現れて呆けていた。
「この姿なら、王宮をうろついても怪しまれないよねー? だから俺、この格好で王様にお薬のプレゼントしに行っちゃった!」
「団長、諸大臣ともども、その節は世話になったな」
一通りの説明が終わると、王が険しい表情で口を開く。ハリエットは我に返ったような顔になった。
「余を操り、国を手中に入れようとしたその罪、重いものとなるぞ。反省するがよい。残りの人生を牢獄で過ごしながらな。すでにお仲間もそこにいる。寂しくはないだろうよ」
連れて行け、と王が騎士たちに命じる。ハリエットは「お待ちください!」と最後の抵抗をしようとしたが、王は聞く耳を持たない。騎士たちに引きずられるようにして、野望多き白鷲団の団長は退場していった。