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憐れな人

「あああぁぁっ!」

「ぐわっ!」


 竜巻に煽られた木片のように二人の体が宙を舞う。ヴァルターは窓ガラスを破って建物の中へ、ハリエットは近くの木の中に頭から突っ込んだ。


「アレスさん! しっかり!」


 リデリアは二人を撃退すると、真っ先にアレスのところへ駆け寄った。鎖を解いてやるとアレスは礼を言いつつも「凄かったな」と軽く笑った。


「アレスさんに教えてもらった通りにしてみました」


 リデリアが照れ笑いを浮かべていると、バキバキという大きな音が聞こえてきた。こん棒のように太い足をジタバタさせていたハリエットの重みに耐えかねて、木が折れ始めたのだ。


 続いて轟く重たい衝撃音。ハリエットは地面に背中から叩きつけられた。


「なんて……事を……」


 ハリエットはよたよたと立ち上がると、目を血走らせながらこちらを睨み付けてきた。


「『お茶汲み聖女』のくせに、よくもやってくれたわね!」


 顔中に擦り傷を作り、服は破れ、髪に木の葉や木の枝が刺さった状態でハリエットは喚いた。手の中の折れた杖を見て、彼女はますます忌々しそうな顔になる。


「……まだ分からないのか。憐れな人だな」


 アレスが締め付けられていた手首をさすりながら、気の毒そうな目でハリエットを見た。


「リデリア殿は強いぞ。あなたが何度向かって来ようが、先ほどのように吹き飛ばされるのが関の山だ」


 アレスがリデリアに寄り添うように、そっと隣に立つ。ハリエットに攻撃を仕掛ける様子はない。自分の実力を信頼してこの場を任せてくれているのだと思って、リデリアは誇らしい気持ちになって叫んだ。

  

「これが私の万能薬エリクサーの力です! 私はもう、あなたたちの知っている役立たずの『お茶汲み聖女』なんかじゃない! 観念しなさい!」


 リデリアがハリエットとヴァルターの攻撃を跳ね返せたのは、少し前に飲んだ万能薬エリクサーの力によるものだ。


 と言っても、こんな事態を想定していた訳ではない。ただ、魔物モンスターがうろつくギルドへ向かうのだから、用心のために服用したに過ぎなかった。


 ハリエットたちはリデリアが万能薬エリクサーを作れると知っていた。だが、その事を失念して、リデリアの事を無力な『お茶汲み聖女』だと思い込んだまま攻撃を仕掛けてきたのである。


 自身の迂闊さに気が付いたのか、ハリエットは歯ぎしりして悔しがっている。


 だが、そんな事で自分より格下だと思っていた相手に負かされた屈辱が晴れる訳もない。ハリエットは自暴自棄になったように折れた杖を投げ捨てた。


「うるさいわ! 半人前が急に力を得たからって威張るんじゃないわよ!」


 ハリエットは捨て鉢になってこちらに飛びかかって来ようとした。


 それを制したのは、よく通る低い声だ。


「やめろ、団長。そなたの負けだ」


 崩れかけた門を潜り、一人の男性がマントを翻しながら堂々とした足取りでギルドの中へと入ってくる。彼は大勢の騎士たちを従えていたが、その先頭に立っていたのはラッドヤードだ。「お待たせー!」と言いながらのんびりと手を振っている。


「へ、陛下……」


 やって来たのは、この国の元首だった。床に臥せっているはずの王の登場に、ハリエットは先ほどまでの勢いはどこへやら。血の気の引いた顔で、狼狽えた声を出した。


「な、何故ここに……。ご病気は……」

「もう治っちゃったー」


 ラッドヤードがリデリアたちの傍に寄って来ながら、愉快そうに言う。


「ねー、王様ー」

「ああ、その通りだ」


 ラッドヤードの気軽な口調に対し、王は重々しく頷いた。ハリエットはますます蒼白になる。

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― 新着の感想 ―
[一言] ふふふふふふふふふふ ハリエットたちはもう終わりだ……! そして王様を助けるなんてものすごーい恩を売れたわけだ~ どんなことでも要求できそうな功績にわくわくが止まらない(^q^)(恩着せが…
[一言] 次回、いよいよ断罪タイ~~ムッッッッ!!!!(歓喜
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