再びギルドへ
鳥人が向かったのは王都だった。くすんだ青い屋根が連なる街並みを抜け、一直線に王宮を目指す。その庭の一角に、屋根の上に白い鷲の団章が描かれた旗が翻る建物が見えてきた。リデリアがつい数日前まで所属していたギルド、白鷲団だ。
そのギルドの様子が様変わりしているのは、上空からでも分かった。敷地内のあちこちでは様々な魔物が暴れ、建物は破壊され、地面は大きくえぐれている。中央棟の一部などは屋根が丸ごとなくなっていた。
団員たちは必死の抵抗を続けているようだったが、多勢に無勢だ。跳ね飛ばされたり踏みつぶされたり逃げ回ったりと、皆散々な目に遭っていた。
空を飛ぶ天馬の群れを避けながら、鳥人は下級冒険者たちの詰め所である北棟の屋上で二人を下ろし、どこかへと飛び去って行った。
「こっちです!」
少し前までここで働いていたリデリアは、アレスを案内しながら屋上を出た。
アレスと二人、ギルドの中を進む。建物の内部でも魔物の影がちらつき、団員たちはすっかり怯え切った表情で逃げたり応戦したりしていた。皆目の前の魔物たちに気を取られていて、リデリアたちの方には気が付くそぶりもない。
自分たちの身を守るのに必死の団員たちは、辺りに気を配っている余裕などなかった。そのせいで乱射された術が時折こちらに飛んで来たりもしたが、アレスはそれを顔色一つ変えずに跳ね除けてみせる。まったく頼もしい限りだ。
そうして二人がやって来たのは、ギルドの正門前にある正面玄関だった。
着いて早々、リデリアたちは少し離れた位置にそびえる王城の方に目を遣った。ギルドの騒ぎは城にまで届いているらしく、ここからでもバルコニーに野次馬が詰めかけているのが分かった。
「合図だ」
しばらくの後、アレスがやや興奮を滲ませながら呟いた。見れば、城のある一室の窓から赤い煙が上がっている。
(よかった……。上手くいったんだ……)
リデリアは胸を撫で下ろす。後は、ここで待ち人と落ち合うだけだ。
だが、そんな風に安堵したのも束の間、建物の影から爆音と共に団長のハリエットが現れた。
ハリエットは、黄金竜と一騎打ちを繰り広げている真っ最中だった。
「ギエエッ!」
黄金竜は不気味に唸って口から火を吐く。鱗に覆われた体をくねらせながら、その長い尾でハリエットを捕らえようとした。
ハリエットは髪を乱しながら、でっぷりとした体形に相応しくない俊敏な動作でそれを避け、杖の先から魔法を発射していた。
それはことごとく黄金竜の硬い鱗に弾かれていたが、ついに一発の光線が黄金竜の口の中を直撃する。
弱点を衝かれた黄金竜は、そのままのけぞる形で硬直した。『石化』の魔法だ。