再会
「うーん……。はぁ……」
赤の森の草地に寝転んでいたリデリアは、大きく伸びをした。
ラッドヤードが『お仕置き』の計画を話してから五日経ち、ついに準備が整う日がやってきた。これから実行するのは、ラッドヤードやアレスだけでなく、他の隠れ家の者も動員した起死回生の策だ。
直前まで入念に支度をしていたせいで、リデリアは少し疲れていた。そこで、ラッドヤードが「ちょっと休んできなよー」と言うのに甘えて、森の中の日当たりのいい場所で横になっていたのだ。
だが、その内に寝入ってしまったらしい。リデリアは、まだ作戦が始まる時間じゃなかったよね、と少し心配になった。
(それにしても、いよいよか……)
隠れ家へ戻りつつも、リデリアの胸中は複雑だった。
作戦が成功したらアレスがまた彼の望まぬような環境に置かれてしまうと気が付いてから、リデリアはどこかすっきりしない気分だ。
優しい住民のいる居心地のいい住処。リデリアだって、ずっとここにいたいと思ってしまっているのだ。
もし自分がそんな場所から無理に離れなければならなくなったとしたら、全力で抵抗するだろう。だが、アレスはそうはせずにもうすぐ来る別れを唯々諾々と受け入れようとしている。
――何とかならないでしょうか?
一人で悩んでいてもどうしようもないと考えたリデリアは昨夜、ラッドヤードに相談しに行った。こんな事はお節介かもしれないが、それでもアレスの事をすでに仲間だと思っていたリデリアは、何もしないでおく事なんてできなかったのだ。
――アレスは真面目だからねー。
ラッドヤードはリデリアの肩に手を置いて、おかしそうに笑っていた。
――まあ、手がない訳じゃないけど?
――それって……。
――その時までのお楽しみ! 手品だって、タネが分かるとつまらないでしょー?
ラッドヤードはいつものように茶化したが、彼がそう言うのならどうにかなるのかもしれないとリデリアは思った。
言動は軽々しいのに、彼の言葉は自然と信じてしまえるのが不思議だ。きっとラッドヤードが抱えていた様々な事情を知って、彼に対する信頼感が増した故だろう。
それでもまだどこかで不安を感じているというのは否めない。これから実行する作戦の事も考えている内に、リデリアは緊張して体が硬くなってきた。
「ここにいたのか」
物思いに耽っていたリデリアは、突然声を掛けられて飛び上がってしまった。そして、その声の主を見つけ出し、再びの衝撃を覚える。
「ヴァ、ヴァルター副団長……」
木の間からぬっと姿を現したのは、白鷲団の副団長だったのだ。意外な人物と再会した事に、リデリアは驚いていた。
「副団長、どうしてここに?」
「それはこちらの台詞だ。お前こそどうしてこんな森の中にいるんだ」
こちらの事情など何も知らない副団長は、ギルドを追い出されてから五日も経っているのに、リデリアがまだ王都近くをうろついている理由が分からなかったようだ。
「金のかからん野宿でもしていたのか? ……まあいい」
特に答えは求めていなかったのか、ヴァルターは顔の前で手を振ると、リデリアに詰め寄った。その必死な形相に、リデリアは思わず半歩下がる。