魔王誕生秘話
「王国の人たちは皆、アレスさんの事をとんでもない罪を犯した『魔王』だと思っています。あなたは王を魔法で操って国を乗っ取ろうとした。それはハリエット団長や大臣たちに阻止されたけど、王は術の後遺症で寝たきりになってしまった。そしてあなたは自分の野望を挫いた人たちを恨んでいる……。これは、どこまでが嘘で、どこからが本当ですか?」
「陛下が重篤な状態だと言うのは本当だ。後は大体が嘘だな」
アレスは腕を組んでため息をついた。
「そう言えば、君は信じるか?」
「はい」
彼の言う事は全て受け入れようと思っていたリデリアは、すぐさま頷いた。アレスはリデリアがいやにあっさり返事をしたものだから、少々驚いたようだ。
「リデリアちゃんは素直だからねー」
ラッドヤードが笑い声を飛ばす。
「だから自分が『役立たず』って事も信じちゃってたんだよー。……さ、アレス、続き!」
ラッドヤードに促され、アレスは「あ、ああ……」とぎこちなく返事した。
「陛下を操ってこの国を好き勝手しようとしていたのは私じゃない。白鷲団のハリエット団長や大臣たちだ」
「だ、団長が……!?」
ハリエットたちは、『魔王』の陰謀を食い止めようとしたのではなかったのか。衝撃的な暴露に、リデリアは唖然とした。アレスはリデリアの反応を観察するような視線を向けながら、淡々と起こった事を話す。
「大臣たちの企みに王宮大魔導師であった私は気が付いた。と言うよりも、偶然、彼らが陛下に術をかけようとしている現場を見てしまったんだ。私は慌てて止めに入って、陛下にかかった術を解いた。だが、すでに強力な魔法をその身に受けていた陛下は、ひどく衰弱してしまっていた……」
「あいつら、ひどいよねー」
ラッドヤードが棘のある声を出した。
「王様を必死に介抱しているアレスの事、後ろから攻撃したんだもん。で、アレスは重傷を負っちゃってさー。アレスと正面から戦ったって勝てないって分かってたから、不意打ちしようとしたんだよ。卑怯だよねー」
「私が助かったのはラッドヤードのお蔭だ。……彼はたまたま王宮の宝物庫で『仕事』をしようと城に忍び込んでいたところだったらしい。その途中で私たちの事を見かけたようだ。そして、いつものお節介を発動した、という訳だ」
「あれは中々スリリングな体験だったねー。ハリエット団長や大臣たちが放ってくる呪いをかわしながらアレスを負ぶって逃げて……。一発も当たらなかったのが奇跡だよー。……もしかしてアレス、何かしてた?」
「簡単な盾の魔法をかけたくらいだ。それ以上は意識が朦朧として覚えていない」
二人はごく普通の顔で会話をしているが、その内容にリデリアは驚きを隠せなかった。それではアレスはまったくの被害者ではないか。
「じゃあ、アレスさんが王様を呪おうとしたっていうのは……」
「ハリエット団長や大臣たちが自分たちの罪を隠すためにでっち上げた話だ。王が衰弱してしまったのは事実だからな。医術師に診せれば、それが呪いの後遺症である事はすぐに判明してしまう。だから先手を打って、本当の事を知っている私を『犯人』に仕立て上げたんだ。私と一緒に逃亡したラッドヤードもその仲間、という事にしてな」
「ひどいです!」
ハリエットの顔を思い出しながら、リデリアは憤慨した。無実の人間に罪を着せただけではなく、とんでもない大罪を彼女は犯していたのだと知って、リデリアは嫌悪感を覚える。そんな人の下で自分はずっと働いていたのか。