転生
「さて、始めようか」
突如城を襲った計4体のワイバーン。
一体でも十分凶悪なモンスターであるのは
間違いないが、それは相手が
ヒューマンの場合の話。
ワイバーンも自分の実力を理解しているのか
相手するのがたかが人間1人だけだと
上空で見下している。
「残念、相手が悪かったな」
『堕ちろ』
グルァァァァ!?
手をかざし、そう呟いた途端、
ワイバーンは抗う術もなく地面へと叩き付けられた。
まるで地面に縫い付けられているかのように、
見えない重りに押し潰されているかのように、
ワイバーンは地面から動くことが出来ない。
流石のワイバーンもこの魔法には爪先を微かに
動かすことしか敵わない。
「……」
より強く、より重くワイバーンに重力操作を
付加していく。
結局、重力操作は絶命まで続き、
ワイバーンは見るも無惨な姿へと変貌していた。
*
「またこれは……盛大にやりましたね」
アウルはエルミアの横に立ち、深く窪んだ地面を
見ながら呟いた。
「……帰るぞ」
「はい、では騎士団の方に声をかけてきます」
*
再び淹れ直された紅茶をすすりながら思考する。
ワイバーンへかけた重力魔法。
自分の感覚では全力の7割といった程度だった。
もちろん、そこに油断も慢心もない。
ただ必要最小限で確実に仕留めるのを意識した
結果があの出力なのだ。
そこにはこの魔法で相手は瞬きひとつも出来ない
という自信を持っていた。
しかし、ワイバーンは動いた。
少しでも爪先を動かせて見せた。
それは私にとっては想定外であり、
私にとって、あってはならない想定外だった。
感覚が鈍ったのか?
いや、違う。私はまだ130歳を超えたばかりだ。
まだまだエルフでは若い部類に入る。
衰えるにしてはまだ早すぎる。
では、出力不足か。
最近の私の悩みの種だ。
魔法は体内のマナを変換して行使するが、
いきなりトップギアで行使することは出来ない。
誰でも初発は火力が低くなる。
が、その低下の度合いは体内のマナ量に依存する。
そして、そのマナ量は精神力に比例する。
つまり、精神力が強いほど
初発の火力が上がるわけだ。
しかし精神力はエルフ族は80歳までで成長が止まる。
そこからの発達は微々たるもので
誤差のようなものらしい。
さて、今以上に精神力を鍛えるにはどうするか。
その問題の解決策として私が出した答えは……
「アウル、私転生することにした」
「……!!」
いつもは表情の変化が乏しい
アウルもこの時ばかりは相当驚いた顔をしていた。
「お前にばかり迷惑をかけているのは
本当に申し訳ないと思っている。
しかし、私はもっと強くなりたい。
高みを目指したいんだ」
「……考えが改まることはありませんか?」
「ない。決めたんだ」
ハッキリとそう告げる。
「……分かりました。後のことはお任せ下さい」
「本当に、ありがとう」
「生まれ変わった賢者様とお会い出来るのを
楽しみに待っております」
「あぁ、また会おう」
かくして、
私は転生した。