最強の更なるステージを目指して
「お待ちください、大賢者様!!」
螺旋状の階段を大急ぎで下りながら叫ぶ。
「うるさい!一時の自由もないのか!
私は寝る、来るな!!」
「この後の会談はどうするのですか!?」
「ドワーフなんぞの脳筋共と話しておられるか!」
「なな、なんて事を!戦争でも引き起こす
おつもりですか!?」
「知らんっ!」
ドカドカと廊下を進んで、
その先にある大層な扉を開く。
「では」
バタンッ
と大きな音を立てて部屋に入るやいなや扉を閉めた。
「ったく……」
密やかに部屋へ戻るつもりが
また見つかってしまった。
「いっそ、ワープポイントを
敷地中に作ってやろうか」
なんて呟くと、
「何十年分の予算を借りるおつもりですか……」
と聞き慣れた声が返ってきた。
「アウル、もう戻ったのか」
「はい。案外早く片がついたので」
少し前に私の仕事を振り分けたのだが
もう片付いたらしい。
「そうか、もう立派だな」
「まさか、エルミア様の足元にも及びませんよ」
アウルは続けて、
「お仕事の方はよろしいのですか?」
「ん?あぁ、まぁ大丈夫だろう」
そんな事を愛用の椅子に座って話していると、
アウルが紅茶を淹れて持ってきた。
「ありがとう」
そう言って一口紅茶を飲む。
あぁ、美味しい。
この城にも給仕はいるが、それと比べてもアウルの
淹れる紅茶は格別だ。
落ち着きのある部屋と香りの良い紅茶に包まれて
心地よい空間が生まれる。
こうやってゆったりと落ち着いてられるのも
この世界最大級の城と言えど、
この“大賢者の間”だけである。
“大賢者の間”はその名の通り大賢者である私が
管理する私有地であり、その場への立ち入りは
弟子や私の許可を得た者しか許されない。
アウルは数いる弟子の中の一番弟子であり
1番の給仕係でもある。
私と同じエルフ族であり、齢80歳という若さにして
私を次ぐ実力の持ち主だ。
「なぁ、アウル」
「はい、なんでしょうか?」
「この前話した転……」
ドンッ
と地面を下から突き上げるような衝撃が
この城を襲う。
「また来たのか……」
先程の衝撃のせいで紅茶が机に
零れてしまっている。
「行かれるのですか?」
扉の向こうが途端に騒がしい。
「あぁ、紅茶の恨みを晴らさなくてはならんからな」
お前も付いてこい。
とアウルに言い、部屋を出ようとすると
再び強い衝撃が訪れた。
「急ぎましょう」
アウルはそう言って一足早く部屋を出た。
*
アウルよりも一足遅れて外へ出ると、
ドワーフやヒューマンたちによって構成された
騎士団が衝撃の元凶と対面している。
その元凶達は持ち前の大きな翼を広げ
騎士団を見下すように威圧する。
「また、ワイバーンか。しかもお仲間まで
連れてくるとは大したものだな」
今月に入って2回目のワイバーンだ。
しかも今回は同時に4体も。
「小隊Bは右端のワイバーンを、我々小隊Aは
左端のワイバーンを対処致しますので、
アウル様と大賢者様で残りをお願い頂けますか?」
「承知しました」
それぞれの隊が日々の訓練を活かし、
ワイバーンへ立ち向かう。
通常、ワイバーンは一体でも30人程度の先鋭で
相手するものだが、流石は教皇直属の騎士団。
たったの10人で相手しようとしている。
なかなか連携の取れた動きだ。
10人というのも強がりでは無いのがよく分かる。
しかし、相手は凶悪なモンスター。
そう訓練通りには行かず
苦戦しているのが見て取れた。
そのワイバーンを1人で
相手するのが我が弟子、アウルだ。
ヒューマンやドワーフとは違い、魔法を操ることに
長けているエルフは、単体での戦闘力は桁違いだ。
先鋭10人でさえ苦戦するモンスターに
たった1人で同等、それ以上に戦っている。
グルァァァァァァ!!
いつまで経っても攻撃を仕掛けない私に
痺れを切らしたワイバーンが
火球を私目掛けて放ってきた。
あたりの空気すらも燃やしながら
一直線に私へ向かってくる。
「甘いな」
当たる直前、
火球は先程までの熱量が
まやかしだったかのように霧散した。
「生憎、私の防御壁は特別性なんだ。
その程度では崩せんよ」
火炎を口元から溢れさせているワイバーンは
他の三体よりも一回り大きい巨体を
持っている。
「これはよい素材が入りそうだ」
密集しては攻撃も出来ないので、
挨拶程度の攻撃で私に注意を引かせる。
「ほれ、こっちだ」
重力を操れば飛ぶことだって容易に出来る。
「さて、始めようか」
少し移動をして、
私は再びワイバーンと向き合った。