厳冬
今年は稀に見る厳冬であった。終わりに近づいているとはいえ、未だに夜は底冷えする。
雪が少ないこの地域だが、今日は昼から降り、今積もっているかもしれないので、私は使い古しのカーディガンを羽織って力いっぱい、立て付けの悪い戸を引いた。雪が見たい。戸は、ぎいぎいと音をさせて、案外あっさり開いた。
そとは一面雪景色だった。夜の深い青が白い雪に染み込んでいて非常に美しかった。しかし、1分もしないうち、堪能を断念し、私は部屋に戻った。寒すぎる。カーディガンだけでは全裸のようなものだ。何かからだを暖めるものがあればいいんだけどなあ。
部屋を見ると薬の瓶が落ちていた。片付けたはずだがなあ。とりあえず、薬を20錠一気した。
これがねえと、やっていられねえんだよ。
からだが熱くなってきた。薬を飲むたびに、自分が薬を飲むのは、運命で予め定められていたような気がする。ああ。からだが熱くなってきた。風邪とは違う。心地の良い満足に包まれたからだの熱さ。布団にくるまっているようだ。脳みそだけが。
頭の中が雪景色だよ全く。雪景色なのは俺の頭の中だ。総理大臣の名前を言おう。これが空で言えたら、まだだいじょうぶ。言えなかったら、雪を見るのは断念しよう。総理大臣の名前。
あれ。何を空で言えたらだいじょうぶなんだっけ。あ。そうか。雪を見るんだ。そうそう。昼から積もってるからそとは雪景色のはずだ。なにかからだを暖めるものが欲しいね。それにしても。ことしは厳冬だからな。そとへ出よう。
足元がふらつくね。地震でも起きてるのか。戸の立て付けが悪いなあ。
うう。寒い。寒すぎる。でもきれいだなあ。それにしてもきれいだ。なんてきれいなんだろう。きれいだなあ。へんな汗が出てきたよ。寒いなあ。熱いなあ。総理大臣の名前だよ。なんだよそれ。きれいだなあ。この地域は少ないからね総理大臣。でもことしは昼から降ったんだよ総理大臣。
雪景色だよ雪景色。雪景色。寒いなあ。汗が止まらないよ。この雪景色立て付けがわるいなあ。ことしは厳冬だからね。ううう。