07 真夜中の森で
ど、どうにかかけました。
よろしくお願いします。
時刻は朝の4時を回ったところ。
静寂が支配する真夜中の森の中でパチン! パチン! と小気味良い音が響いていた。戦闘の音にしては小さい。いったい中で何が行われているのか疑問に思うことだろう。それは──
「この! このっ‼︎ この〜‼︎」
「んっぎもぢいいいぃぃぃ〜‼︎‼︎」
──スイちゃんからお尻ペンペンという名のご褒美を受けていた
お尻ペンペンをするから一緒に特訓をして、というスイちゃんからの甘美な言葉に思わず頷いてしまったことがきっかけで、一緒に真夜中の特訓をするようになって、早くも数ヶ月が経過していた。
もはや10歳の幼い女の子にこんなことをさせている時点で一欠片の説得力はないだろうし、信じられないだろうが本当はこんな業の深いことをさせたくはないんだ。でも俺の身体がそれを欲してしまうと言うジレンマ。
そう、これは俺の意思じゃどうしようもないことなんだ。だって例のスキルのせいで、俺は苦痛や辱めによって快感を得てしまうマゾヒストになってしまったんだからさ。決して、自分の欲求を満たしたいがゆえに強要しているわけではないってことだけは信じてほしい!
「ス、スイちゃん、もっと強めに……‼︎」
「えっ、もっと……じゃ、じゃあ思いきりいくね! このお尻め〜‼︎」
──バチンッ‼︎
「おっほ! ぎ、ぎっもぢいいぃぃぃ〜‼︎」
いや、本当だから!
今のは俺の意思とは別に口が勝手に動いただけだから! こんなあられもない羞恥を晒しているけど本当だから‼︎ た、確かに身体だけは快感に満ちてる。けど俺の心は申し訳なさと罪悪感でいっぱいなんだ。もう心は疲弊しきっているから。マゾヒストは嘘つかないって、それ一番言われてるから信じてほしい、これだけは……‼︎
「んっほい! さいっこうだああああぁぁぁ〜‼」
「……エ、エムくんが喜んでるみたいで良かった。のかな……?」
ほ、本当なんだ……‼︎
とまあ今日も今日とて、こんな醜態を晒しながらも一緒に特訓をしているわけだ。色々と問題はあるけど……。広い心でスルーしてくれ! って俺は誰に言い訳してるんだよ……。
確かにこの部分だけを切り取ると「おまえは真夜中の森でなにSMプレイして楽しんでいるんだよ、このド変態がっ‼︎」となるかも知れないが、それを抜きにしたら思いのほか成果はあったりする。
エンカウントするモンスターたちと戦うのでかなりの戦闘経験を得られ、それと比較するようにステータス値も上がったのが主な理由だろう。まあ俺はただ単にモンスターから敢えてタコ殴りにされまくって、結果的にステータス値──主に耐久力が上がっただけなんだけど。
ん? スキルの制御はどうなってるのかって? そりゃあお察しのとおり、全く上手くいってないよ。最近はスイちゃんからのお尻ペンペンという特訓後のご褒美もあるから余計に歯止めが効かなくなっているという始末。
正直言って、俺の性癖をノーマルから強制的にアブノーマルなものに変えるほどの強力なスキルに抗うのはもう無理なんじゃないかとは薄々だけど感じている。もういっそのこと制御を諦めて、ひたすら耐久力を上げることを考えた方が堅実かもしれない。そうすれば死ぬ確率がグッと抑えられるだろうし……まあそれはさておき。
予想外だったのはスイちゃんの実力だ。俺が予想していたものより遥かに強かった。なんだかんだで最強チート持ちであり、4年間以上も特訓を続けている俺の方が間違いなく強いだろうから「スイちゃんを守らないとな!」なんて息巻いていたのだが、その必要は全くなかった。なんだったらスイちゃんの方が最強チート持ちの俺より強かったという驚愕の事実。
そう、スイちゃんは天然のチート持ちであり、リアル天天才だったのだ。……あれ、俺の立場は……? って感じになったのはいうまでもない。蓋を開ければ、稀にエンカウントする強い個体のモンスターを一撃で葬り去るほどの実力者。こんな超絶可愛い女の子なのにね……ギャップ萌え。可愛いくて強いとかもう最強じゃん! いつかスイちゃんのその一撃必殺の魔法をこの身で味わいたいなあ……って違う違う! 危うく欲求に支配されるところだったぜ……‼︎
「エムくん? エムくんってば聞いてる?」
「えっ、ああ、ごめん、ちょっと考えごとしてた。で、なんだっけ?」
「少し早いけど今日はもう帰る?」
お尻ペンペンをこれ以上なく堪能し、その余韻に酔いしれ、さらにマゾ欲を刺激されてスイちゃんの魔法を味わいたいとか頭のおかしいことを思っている俺だったが、スイちゃんの声で我にかえる。そして、いまだにヒリヒリするお尻に悶えそうになりながらも頷く。
「うん、それもそうだね。今日は謎にモンスターたちとのエンカウント率が高くて、いっぱい戦ったから疲れたし。これ以上はオーバーワークだろうから、まだ体力があまり落ちていない内に育児館に戻るのがいいかも」
「だね。無理は禁物って言うもんね。それにしても何で今日はあんなにいっぱいのモンスターたちとエンカウントしたんだろう?ほんと不思議」
「うーん、特に思い当たる節はないんだよなあ。でもいつも5倍以上のエンカウント率ってのは異常な気がする。……あ、そういえば今日エンカウントしたモンスターって最初から疲れているような感じだったかも」
「えっ、そうかな? あまりわかんなかったけど」
「そっかあ……俺の気のせいかもね。とりあえず帰ろっか」
「うん!」
スイちゃんと俺は会話を終わらせると、すばやく帰宅の準備を済ませ、育児館に戻ることにした。まだ暗闇の森をヘルメットに装着したヘッドライトの灯りを照らしながら歩く。そんな帰り道のことだ。ふと、誰かに見られているような気配を感じた。なんだか嫌な予感が……。
そう思った次の瞬間。
「──シャアアアアアァァァッ‼︎」
「「──ッ⁉︎」」
爬虫類が発したかのような声とともに奇襲をくらった。
やばい! 気づくのが遅れた‼︎ と思いながらも振り向く。するとそこには、太く長い体躯を持つヘビみたいなモンスターが視界に入った。な、なんだこいつは……⁉︎ と思う暇もなく、振り向いた俺の身体にガブリと噛みついた。
「──エムくん⁉︎」
スイちゃんが真っ青な顔で叫ぶ。
心配をかけてごめんスイちゃん。でも今はそれを伝える余裕はないんだ。だって──
「んっぎ!しゅ、しゅごい……ぎもぢいいいいいぃぃぃ〜‼︎‼︎」
──気持ち良すぎてどうにかなってしまいそうだから
今まで受けた攻めの中で一番の快感が全身を突き抜け、思わず奇声を上げてしまった。そんなマゾヒスト特有の雄叫びを至近距離で聞かされたデカいヘビみたいなモンスターは、一旦噛みつくのを止めて逃げるように俺から距離を取った。
「はぁ、はぁ……あまりの快感に危うく昇天してしまうとこだった……ふぅ」
「えっ、そっちなの⁉︎ ……その大蛇に噛み殺されるところだった、って話じゃないんだね……さ、さすがエムくん……。心なしか、あの大蛇がドン引きしてるような気が……」
スイちゃんが苦笑いを浮かべつつも戦闘体制に入る。
俺も同じくだ。腰を落として、いつでも動けるようにヘビを見据える。
対してヘビの方は、「な、なんなんだこの変態は……⁉︎」とでも言うような理解しがたい存在を見るような表情で俺を見つめていた。確かにスイちゃんの言うとおりかもしれない。というかモンスターにすらドン引きされるとか……俺、人間としてどうなんだろうか……?
「そっか! 今日エンカウント率がやけに多かったのはこの大蛇が原因だったんだね!」
「だと思う。おそらくコイツから逃げていたんだろうな」
「エムくん、来るよ!」
「シャアアアアアァァァッ‼︎」
理由もわかったところで、今日最後の戦いが開始されたのであった。
ありがとうございました。
次は戦闘となります。
メモ帳で書いて貼り付けるとビックリマークで詰まっちゃうを初めて知りました。