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04 友達

よろしくお願いします。

 私はスイ・フラメラ。5歳。

 4歳の時にこのエイミー育児館に引き取られた。理由は両親(あの人たち)による虐待。いつも殴られたり、ご飯を抜かれたりして泣いていたら、ご近所さんから通報が入り、両親は逮捕。そして次に親代わりとなってくれた遠い親戚の叔父さんはまさかの人身売買に手を染めていて、あろうことか私を売ろうと画策していたいたけど、私を売るための取引中に警察から襲撃をくらってその場で確保された。よって私はその場で保護されることに。


 その後、頼れる人がいなくなった私はエイミー育児館という孤児院でお世話になることが決まった。私と同じく、過去に色々あった子が多いらしい。そのためか皆、何かしらの痛みを知っているようで、こんな境遇の私を他人事とは思えなかったのか優しく接してくれた。


 そんな心温まる皆がいる育児館に住むようになって、数ヶ月が過ぎた、そんなとある日のこと。

 私たちは育児館の近くの森で遊んでいた。最近の流行である鬼ごっこだ。そんな中、奴は現れた。


 そう、ゴブリンが、だ。


 私を含め皆パニックになって騒ぎ出す。

 しかも運悪いことに今は先生がいない。そもそも森の浅いところにゴブリンが出るなんて今までなかったから、先生たちも安心していたはずだ。それがまさかこんなことになるとは……。


 悲鳴を上げる私たちを見て、ゴブリンはニヤリと笑う。

 そんなゴブリンを見ていたら胸が激しく音を立て始めた。


 怖い……‼︎


 恐怖の感情が次から次へと溢れ出す。

 しかしそんな私たちとは裏腹にゴブリンは一歩一歩近づいてくる。しかも、私がいる方向に! 周りにいた皆は一斉に逃げ出す。


 当然、私も……‼︎


 と、思っていたけどゴブリンに睨まれた恐怖で動けなくなってしまった。逃げたい! でも逃げられない‼︎


 逃げた他の子たちを追いかける素振りを見せたゴブリンだったが、動けない私を見てそれを止める。完全にターゲットにされてしまった。


 どうしよう⁉︎ 本当にどうしよう⁉︎


 そんなパニック状態の私とゴブリンとの距離はわずか10mほど。恐怖を煽るようにゆっくりと近づいてくる。距離は残りわずか。そしてゴブリンの足が立ち止まった。つまり私の目の前に到着してしまったわけだ。


 ゴブリンは右手に持つ木彫りの棍棒を掲げ、一度振りかぶりタメをつくる。溜めた勢いで一気に力強く振り下ろす動作に入った。


 あ、だめだ、ここで死んじゃうんだ……。

 せっかく平穏な日常が訪れて、これから楽しく生きられると思ったのに最後はこんなのってあんまりだよ。両親は最悪、その親戚も最悪……そして今……この状況も最悪。はぁ、私はきっと不幸な星の元に生まれたんだ……そう思わずにはいられなかった。


 迫りくる棍棒。

 全身が強張り、目をつぶる。


 走馬灯が次々と脳裏に浮かんでは消えていく。その全てが思い出したくないろくでもない記憶。こんなことなら、いっそ生まれてこなければよかった……。


 ──全てを諦めた、その時だった。


 突然、誰かが猛烈な勢いで走ってきた。


 タタタッと目の前に現れたのは、黒い髪に黒い目という珍しい見た目の男の子ーーエムくんだ!


 まさか恐怖で動けなくなった私を助けるために……⁉︎


 いつも美味しそうにごはんを食べているのが印象的なエムくん。そんな姿を見て可愛いなあと密かに思っていた。だから、こんな勇敢にゴブリンに立ち向かう勇気があるようには見えなかった。そんなエムくんは果敢にも、走った勢いのままゴブリンに突っ込んで──体当たり!


「──キシャ⁉︎」


 思いもしなかったエムくんの攻撃に、私めがけて振り回していた棍棒を思わず落としてしまうゴブリン。慌てて棍棒を拾いながらも、攻撃を仕掛けたエムくんに怒りの形相を向ける。


 私はそんなゴブリンを見て、更なる恐怖を感じた。

 それ以上に恐怖を感じているだろうエムくんはなぜか私とは対照的だった。そう、笑ってる。いや、どちらかというとニヤついている? なぜ、こんな危機的状況でそんな顔をしていられるのか全くわからない。もしかたら恐怖に負けないよう立ち振る舞うために敢えてそうしているのかな……?


「キシャアアア‼︎」


 狙いを私からエムくんに切り替えたみたいだ。威嚇するゴブリンはその直後、エムくんに飛びかかった。エムくんはどうにか凌ごうと構えるが力の差は歴然。手に持つ棍棒を振りかざす。狙いはエムくんの頭だ!


 ──エムくんが殺されちゃう‼︎


「──やめてええええええええええええ‼︎‼︎」


 咄嗟に叫ぶも、ゴブリンはそんな私の悲鳴に耳を傾けるはずもなかった。


 その次の瞬間。

 容赦なくその棍棒でエムくんの頭を殴りつけていた。ドコッと鈍く嫌な音を立て、遠くにあった木々までは吹っ飛ばされるエムくん。ゴブリンの棍棒からは真っ赤な血がポタポタと流れ落ちていた。


「いやああああああああああああああああ‼︎‼︎」


 グッタリと動かなくなったエムくん。

 頭から血が溢れ、地面を赤く染めていく。そんな残酷な姿を見て、私の全身に冷たいものが流れる。息すらも聞こえない。


 エムくんが死んじゃった……わ、私を助けようとしたせいで……‼︎


 涙が止まらなくなる。後悔の念に心が折れた。


 そう思った瞬間──


「んほおおおおおおおお〜〜‼︎‼︎ ぎもぢいいいいいいいい〜〜‼︎‼︎」


 ……エ、エムくんが同じ人間とは思えないほどの雄叫びを、いや鳴き声とでも形容すべき奇声きせいを上げたのだ。

 それは何か禍々《まがまが》しいモノが誕生したかのごとく、不気味さを感じた。血塗れのまま立ち上がったエムくんは言葉には表せないほど危険に見えてしまう笑み──まるで快楽の海にでも溺れているような表情でゴブリンを見つめている。


 私はおろかゴブリンですらも目を見開いていた。まるで、理解しがたいバケモノでも現れたかのような反応に見える。そんなエムくんの突然の変化に怯えているのか一歩、また一歩と下がっていく。最後には走って逃げようとしたところ──


「──ファイアショット‼︎」


 一瞬で燃え尽き、消し炭となった。

 エムくんのことで頭がいっぱいだったから気がつかなかったけど、いつの間にかさっき逃げ出した他の子たちが先生を呼んで来てくれたらしい。


 でもホッとするにはまだ早い。エムくんの状況は目に見えて悪い。事実、ゴブリンが消し炭になった後、安心したかのように倒れてしまった。


 だけど駆けつけた先生が速やかに回復の魔法をかけて、どうにか一命いちめいは取り留めることに成功。本当に良かった……‼︎


 ……でも、その後、ちょっと色々あった。

 後で聞いた話だけど、ちょうどエムくんが謎の雄叫びを上げた時に皆が戻ってきたらしく、それを目撃した他の子たちがエムくんに怯えてしまったらしいのだ。ま、まあ気持ちはわかるけど……そんな皆の反応にエムくんがちょっと悲しんでいた。


 でも私はそうは思わない。

 だって、よくわからない雄叫び? 奇行きこう? だったのは事実だけど、命をかけてまで私を助けてくれたエムくんは、私にとってはカッコいいヒーローだもん!


 エムくん、この間は本当にありがとう‼︎

 これからもよろしくね‼︎

ありがとうございました。

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