03 最強チートの正体が
よろしくお願いします。
気がつけばそれなりの月日が経っていた。
転生してから5年。時の流れは早いなあと実感する。そんな俺だが今も孤児院──俺を保護してくれたエイミー育児館でお世話になっている。なんせ俺、孤児だし。当然親もそうだが頼る人はいない。そんなもんだからエイミー院長先生を始め、孤児院に在籍する先生方におんぶに抱っこの毎日。本当に感謝しかない。
ちなみに育児館は俺以外にも結構多くの孤児が住んでたりする。中には過去に色々あってかなり闇を抱えている子もいるけど、先生たちや似たような境遇の子たちと触れ合っていく内に少しずつ元気になっていく。そんなもんだから、なんだかんだ支障なく暮らせている。
あと、先日のことだけど、この世界初の友達もできた‼︎
しかも、なんと可愛い女の子だ。子供とはいえ、異性の友達ができたのは前世含めても初めてのことだから、思わず舞い上がっちゃったよ。そんなもんだから、ただ話すだけなのに変に緊張してしまう。前世の弊害がモロに出てるな……。一応言っておくけど、別に深刻な病を発生させたわけじゃないから、多分。まあなにはともあれ素直に嬉しかったって話だ。
で、話を戻すけど5歳になってから育児館では、この世界の一般常識を学べる機会──通称、勉強会がある。転生前にチラッと神様からも多少の情報は聞いていたが、それだけじゃ認識不足だったので非常に助かった。で、その勉強会で知ったのことだが……。
なんとこの世界は『科学』も魔法同様に発展していた‼︎
めっちゃ朗報。これを知ったとき飛び跳ねて喜んだのを覚えている。あと、先生や他の子供たちが微妙に引いていたのも覚えている……まあそんな話は置いておくとして。
勝手な思い込みで、てっきり科学という概念がない世界と思っていた。ほらっ、ネット小説とかのテンプレだと、世界観が中世ヨーロッパテイストで、魔法はあるけど科学とかの発明系の文化がだいぶ遅れている、ってのが定番だし。
それが蓋を開けたら『科学』も魔法に負けず劣らずで発展していたという事実。当たり前のようにパソコンや携帯、テレビ、ゲームなどの文明の利器も普通に普及してある。俺、インドア派だったから、いつかはゲームしてみたいなあ。ちなみに建造物とかも日本とかで慣れ親しんだものとあまり変わらなかった。ごく普通に大型マンションとかあるし。
まあこの世界観をまとめると、俺がいた地球ーー要は現代社会に『剣と魔法のファンタジー世界』の要素をぶち込んで混ぜ混ぜしたような世界。乱暴な言い方をするとこうなる。育児館の先生たちからも「今は情報化社会だからパソコンとかで情報を仕入れる術は絶対に身につけておきなさい」と言われる始末だ。こう見ると地球と似たり寄ったりの感覚があって、なんだか懐かしい気持ちになる。
とまあ、転生してから起こった良いことを淡々と語ったわけだが……さてと、そろそろ本題に入ろうか。そう、例のアレについてだ……。
──究極完全体マゾヒスト
これ!
知ってのとおり、神様から与えられた特典であり、ハイリスクを背負ってまで手に入れた『最強チート』である。これを駆使してネット小説の王道テンプレ主人公の如く俺TUEEEを敢行して皆からチヤホヤされることを夢見ていたのに、蓋を開けたらこれとかあんまりじゃないか⁉︎ 神様にめちゃくちゃクレームを出したい‼︎
……まあ全てお察しのとおりだろうが、このスキル、色々と酷かった。たしかに一部性能は認めるところだ。だけど! その他に悪影響を与え過ぎてるんだよ‼︎
とりあえずこの変態スキルの能力を刮目せよ。
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【究極完全体マゾヒスト(Lv.2)】
最強マゾヒストだけに与えられる称号。
生命力と耐久力を大幅に上昇させる。
ただし、肉体的または精神的な苦痛、恥辱を快感へと変換する。および、それらに該当する行為を自らの意思とは関係なく身体が求めてしまう。※痛みの強さにより快感が増す。
◇使用可能な能力
『マゾヒストの防御術」
与えられるダメージを、痛みを倍増させることで軽減させることができる。※軽減率は痛みに依存する。
『マゾヒストの一撃」
与えられるダメージを蓄積し、それを一度に放出させ攻撃を行う。※威力は蓄積ダメージに依存する。
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となる。
これこそが俺が夢にまで見た最強チートとやらの正体。
な?
酷すぎじゃね? 誰がどう見ても変態御用達のスキルだよ。もちろん『マゾ』とかいう業の深い性癖なんぞ待ち合わせていない! なのに、そんな頭のおかしな属性を付けんなよ‼︎ あと、言っておくけど、いくら最強ってワード付けても変態っていう事実だけは全く変わらないからな‼︎ くそう! 俺は最強チートが欲しいとは言ったけど、最強の変態にして欲しいなんて一言も言ってないのに……‼︎
こいつのせいで俺は強制的に苦痛の中に快楽を見い出すド変態へと進化してしまった。それも最上級クラスのやべえ奴に。
つい最近の出来事だけど、たまたまゴブリン──ファンタジー系のゲームで酷使されるスライムと並ぶ、雑魚筆頭候補──と運悪くエンカウントしたんだが、他の皆が恐怖で震えている中、俺だけゴブリンが手に持つ棍棒に興奮してしまっていたんだ……‼︎
しかもその後、マゾヒストとなったことで棍棒から殴られたいと思ってしまい、身体が我慢できなかったのか俺の意思を無視して勝手に動き出し、あえてゴブリンに突撃。その結果、当然のように棍棒でぶっ飛ばされる。
で、俺、スキルのせいで超絶怒涛のマゾヒストだから苦痛が快感に変換されるだろ? まあつまるところ、そのせいで思わず昇天してしまうほどの快感が全身を走り抜けて、
「んほおおおおおおおお〜〜‼︎‼︎ ぎもぢいいいいいいいい〜〜‼︎‼︎」
すげえ気持ち悪い雄叫びをあげちゃったわけだ。
控えめに言って最悪すぎ……そのせいで、ほかの皆は超ドン引き。もはや、やべえ奴扱いだよ⁉︎ 明らかに距離置かれたよ! 今までせっかく隠し通せていたのに、これで全てが台無しとなった。……まあ何人かはそんな俺とも仲良くしてくれるけどさ。
とまあ、そんな悲しい事件があった。
この事件により俺は決めた。
──この変態スキルを制御する、と
事実、このままだと非常にまずい。なんせ、身体が俺の意思を無視して攻撃を受けようとするだろ? そうなると、そう遠くない未来で死ぬだろう。あの時は弱いゴブリンだったから良かったものの、強いモンスターなら普通に死んでいた可能性がある。それだけは回避しなければならない! それに、いつまでもそんな頭のおかしい奇行を繰り返してたら、いよいよ持って、変態の謗りは免れない。まあもう遅いかもしれないけど……。
ってことで絶対にこの変態スキルを制御できるようになってやる‼︎
そう誓った5歳のとある日だった。
ありがとうございました。