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02 生きてた

よろしくお願いします。

「……あう?(ん?) おおあ?(ここは?)


 おぼつかない声が漏れた。

 まるで赤ちゃんのような声だ。自分の声に違和感を感じるが……今はそれよりも──


 ──俺、生きてるのか……⁇


 いや、生きてるからこそ目が覚めたわけだよな……?


 そう思いながらも最後の記憶を辿っていく。たしか神様にリスクをかえりみずに最強チートが欲しいと勢いで言ってしまってから転生の儀式を行ったはず。そしたら転生先がまさかの雪山。全身が氷漬けになってしまうほどの寒さに耐えられず、途中で意識が途絶えた……けど、目が覚めるとこんなところにいた。こうなる。うーん……。


 まず視界に入るのは穏やかな木材の天井。起き上がろうと身体に力を入れるが力が全く入らない。仕方ないので首を左右に動かして視点を変える。うん、どうやら俺は今、落ちないようにとプラスチック系の囲いがある小さなベッドに寝かされているようだ。


あうおお(なるほど)……」


 若干今更感があるが俺、赤ちゃんになってるな。

 この口足らずの口調と、ろくに動かせない身体から察して間違いだろう。その証拠に首を横にすると、随分と小さな手のひらとプルンとしていそうな幼子のような肌が見える。新たな生(第二の人生)とはつまりゼロからのスタートなので、こうなることは分かっていたが、いざなって見ると驚きを隠せない。なんせ俺の魂? 的なやつには前世の記憶、それも32年という歴史が刻まれているから尚更のこと。


 まあなんにしても一か八かの賭け(ハイリスクを承知)で最強チート欲しいと言ってしまったけど、懸念していた石ころとか自身の意思すら持たないものへの転生を免れて安堵する。いやあ本当に良かった。あとは保護してくれた人が善良な市民であることを祈るしかないかな。頼むから奴隷商やってるようなやべえ奴とかはノーサンキューでお願いしたい。


 なんてことをひっそりと祈っていると。


「あ、起きてるの?」


あう?(ん?)


 若い女性の声が聞こえてきた。

 寝かされているベッドの向き的に声の主は見えない。赤ちゃんだからまだ首を動かしづらいってのもあるけど。だがまもなくすると上から一人の女性の顔が覗き込まれる。金色の髪を前で揃えた綺麗な女性だった。前世では見かけることのなかった美貌を前に緊張してしまう自分がいる。これが前世でついぞ恋人どころか異性の友達すら出来なかった男の弊害へいがいか……!


「ふふっ、そんな強張こわばった顔しなくても大丈夫だよ。というか私がキミを助けたんだから感謝してもらわないと。ほら、笑って。にぃ〜って感じでさ。ってこんなこと赤子あかごのキミに言っても分からないよね、はははっ」


 彼女は赤ちゃんとなった俺の頭を撫でながらそう言う。

 その手のひらから伝わってくる優しさ? みたいなものが心地よくて思わず目蓋まぶたが重くなる。赤ちゃんになったからかな? よく分からないが何にしてもこの人が俺を助けてくれたようだ。感謝しかない。あと良い人そうでホッとできた。ぱっと見だけど、彼女からは悪意みたいのは感じないし。とりあえずはひと心地つけそうだ。ふぅ、良かった。奴隷商とかじゃなくて。


 彼女は俺の頭を尚も撫で続けながらも、語りかけるように話を続ける。


「あ、そうだ。まだ自己紹介してなかったね。私はエイミー。エイミー・スフォリー。よろしくね。エム(・・)くん」


 さらっと今世の俺の名前が判明した。

 と言っても全く変わらないんだけど。俺の前世の名前は赤上あかうえ笑夢えむだった。親や友達からも笑夢えむって呼ばれていたのはまだ記憶に新しい。まあ名前が分かったのは別にいいけど、ただ一つ。なんでこの人は俺の名前を知っているんだろうか。一言も名乗ってないし、そもそも赤ちゃんだからまともに喋れないはずなんだけど……。


 そう疑問に思っていると彼女が俺の心情を察したのか、はたまたそれが顔に出たのかは分からないが、柔らかな笑みを浮かべながら教えてくれた。


「ん? って顔してるね。キミの名前はエムって言うんだよ。キミを助けた時に入っていた箱の中に置いてあった手紙にそう書いてあったからね。あっ、そう言えば自己紹介するって言ったけど、まだ私のことは話してなかったね。私はこの孤児院ーーエイミー育児館ーーの院長をしてるの。改めてよろしくね」


「|あうあう《なるほど。あ、よろしくです》」


「あら、この子、もしかしたら私の言葉理解してるのかしら? 聡明な子になりそうね。なんてね。そんなわけないか。ふふっ」


 どうやら幸いなことに俺は孤児院に保護されたようだ。

 いやあ本当にあの雪山から無事生還できて良かった。流石に生まれた瞬間、ゲームオーバーとか笑い話にもならないしね。いつか恩返ししないと。ま、それは一旦置いておくとして、エイミーさん……いや、院長先生かな。とにかく撫でテク(撫でるテクニック)がヤバい。落ちそう(眠りそう)。気持ちよすぎ……。


 心地良さにうつらうつらとする目蓋まぶたを必死に持ち上げていたが、とあることを思い出して一気に目が覚める。


 そうだ、『最強チート』について確認していなかった‼︎

 俺、これが欲しいがためにハイリスクを背負ったんだった。ちゃんと確認しておかないと‼︎


 『ステータス』──それは自分の情報を文字化、または数値化したものの総称。名前や性別、現在の能力値や特殊能力──いわゆる『スキル』と呼ばれる類のものの有無やその練度を表す『レベル』等が表示されるらしい。そう転生前に神様から聞いてある。ステータスの確認方法は単純で「ステータスを見たい!」と念じるだけでいいとのことだ。ってことで早速見てみようか。


 最強チートの正体が判明するので期待に胸を膨らませながらもステータスを見たいと念じる。おおっ‼︎ なんか出てきた‼︎ 頭の中にステータスと思わしき羅列られつが次々に表示されていく。すげえ、流石は異世界仕様だな! とテンションが上がりながらもじっくりとステータスを確認していった──


 ──────────

 エム・ハーペイン / 0歳 / 男

 生命力(HP):120/120

 魔力(MP):5/5

 腕力(STR):2

 耐久力(VIT):50

 器用度(DEX):2

 敏捷性(AGI):1

 ・スキル

 【究極完全体アルティメットマゾヒストLv.1】

 ◇使用可能な能力

 『マゾヒストの防御術マゾダメージカット」

 与えられるダメージを、痛みを倍増させることで軽減させることができる。※軽減率は痛みに依存いぞんする。


 ──────────


 ーーのだが……。


 ……究極完全体アルティメットマゾヒストって何……⁇ えっ……これが俺の最強チートってこと……⁇ ……えっ、本当に……?


 見た瞬間、ろくでもない能力だと分かるスキルに開いた口が塞がらなくなった。

ありがとうございました。

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