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01 最強チートが欲しいと神様に言ってみた

よろしくお願いします。

 いきなりだけど死んだ。

 会社の残業でヘトヘトになっていた真っ暗な帰り道で、運悪く鉢合はちあわせたとおに刺されて32年の人生に幕を下ろすこととなった。


 高校卒業と同時にブラック企業に入社。会社のことで忙殺されていたらいつの間にか人生終了。ははっ……全く笑えないな。まあ所詮人生なんてこんなものか。とはいえ一度くらいは恋人が欲しかった。それだけは切実に思う。はぁ、願わくば来世は高校の時は出来なかった青春を、いや人生そのものを謳歌おうかしたいな……。


 そんな悔いの残る人生を終えた。


 ──はずなのに、なぜか意識が浮上したんだけど。


「ん? なんで生きてんの⁇ 心臓を一突だったんだけど……」


「安心せい。ちゃんと死んでおる」


「うおっ⁉︎ えっ、ど、どこから現れた⁉︎」


「ずっとこの場にいたぞ。まあそんなことはどうでもよい。実はな──」


 目の前にいつの間にか現れたお爺さんに思わず驚くが、お爺さんは俺のことを気にも留めず喋り始める。


 そのお爺さんは自分のことを『神様』と名乗り、若くして死んだ人間の魂をランダムに選択して、その人間の記憶を保持したまま地球とは異なる世界──いわゆる剣と魔法のファンタジー世界へ転生させてくれると言った。


 おいおいマジか⁉︎ と思いながらも概要を聞くと、ゲームみたくステータスやらモンスターやらも当然のように存在するらしい。しかも、どこかのネット小説のテンプレみたく特典・・までも与えてくれるという親切ぶり。ありがたや。その際に希望を聞かれた。ある程度、要望はそう形にしてあげたいとのことだ。


 ちなみになんでこんな非現実なことを何の疑問も持たず受け入れているのかと言うと、俺は自分にとって都合の良いことは基本的に受け入れる主義だから。それだけのこと。というか、そもそもの話なんだが既に死んでいるのに意識がある時点でまともな思考になれって方が無理だろう。まあこんなことはさておき、今は特典について考えなければ……‼︎


 この選択は俺の第二の人生を左右する。じっくりと考えたうえで答えを出さなければと思ったが、神様にも予定があるらしく残念ながらタイムリミットを設けられた。その時間はなんと1分。考える暇ないんだけど……つまりは即断せよというわけか。ちなみにそれを過ぎたら転生の儀式を始めるとのこと。当然、特典はランダムとなる。


 なので、いつもはあまり働かせない脳を急速に動かし思考を巡らす。


 炎とか雷とか特化した力が良いのか、シンプルにステータスの値を爆上げした方が良いのか、それとも敵に毒とか麻痺とかさせて自由を奪う系などの特殊な力にした方がいいのか、はたまた最近流行りのクラフト系に特化したらいいか……悩むぞ、これ!

 とてもじゃないが1分で最適解を出すなんて不可能だ。とはいえタイムリミットはすぐそこ。やばい、早く決めないと! ああでも何も思いつかない‼︎


 で、その結果、結局考えることを放棄した。


 というかタイムリミットが短すぎて考えるのは無理。初めから分かってたけど。なのでシンプルに、それでいて大胆に言いのけた。


「──最強チートが欲しいです‼︎」


 抽象的すぎるのは重々承知。でも仕方ないじゃん、考える時間ないんだから。それならいっそのことって感じでこう言ったわけだ。


 すると神様は自分の長く伸びた白髭をクルクルとさせながら。


「リスクを背負ってもいいのなら、その願いを聞き届けよう」


「り、リスクですか……そのリスクは例えばどのようなものがあるのでしょうか?」


「例えばか……うむ、そうだの。これはランダムじゃが、おぬしが人間ではなく、その辺に落ちている石ころのように意志すら持たない人外に転生することもあれば、劣悪な家庭環境の生まれることもある。他にも生まれた瞬間に重い障害を患って寿命僅か、なんてことも充分にあり得るの」


 と、長々と神様がリスクについて説明してくれた後に。


「さて、どうする? ちなみに後7秒で1分になるぞ」


 や、やばい! 早く答えないと‼︎ 時間が……‼︎


 どうする⁉︎ 流石にハイリスク過ぎて簡単に「はい!」とは答えられるはずがない。運悪く意志すらない石ころになったら目も当てられない。そうなったら泣くに泣けなくなる、物理的にも。とはいえ、このままだとタイムリミットでせっかくの特典がランダムになってしまう。もちろん今更、他の力を考え直す時間もない。くっそ‼︎ ああもうしょうがない、こうなりゃヤケだ‼︎


「それでも欲しいです‼︎」


 い、言っちまったよ、俺……。


 神様は「分かった」と頷いたので、もう後には引けない。勢いでそう言ってしまったけど、頼むから石ころとかやめてくれよッ‼︎


「これで1分じゃ。さて、それでは転生の儀式をとり行う」


 時間が来た。

 俺の足元に魔法陣みたいなのが現れ、眩い光を放つ。それは徐々に大きくなり俺を包んでいく。視界はもちろん真っ白。何も見えない。そんな中、ふわりと浮いた感覚を覚えた。なんだ⁇ と思ったと同時に景色が突然変わった。


 視界に映し出される光景を一言で言うなら雪山。

 雪が穏やかに降っているようだ。周りは雪が積もった木々くらいで他には何も確認できない。さっきとはまた違った白い景色……いや、銀世界とでも言えばいいか。


 ああ美しいなー。


 ……ってそんなことを言ってる場合ではなかった。とりあえず誰か助けてくれないだろうか。


 寒すぎて死にそうなんだけどッ‼︎⁉︎


 身体が震えててやばい。なぜか身動きも取れない。吹く風だけで寒さを超えて痛みすら感じる。身体全身が氷漬けになりそうだ。早速、神様の忠告を無視してでも最強チートが欲しいと答えたことに後悔の念が募ってしまう。


 寒い。痛い。苦しい。


 そんな感情が渦巻いていく。


 だが、なぜだろうか?


 こんな控えめに言っても絶対絶命コース一直線なのに……。



 ──身体が喜んでいる(・・・・・)んだ



 苦痛に快感を見い出す変態じゃあるまいし、一体どういうことなんだとは思ったが、この状況は変わらないので後回しだ。今はとにかく一刻も早く誰か俺を助け出してほしいところだが……意識がふんわりとしてきた。あ、やべ。本気でダメなやつだ、これ……死ぬ、かも──


 意識はブラックアウトしていった。

ありがとうございました。

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