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告白

作者: 片桐ハルマ

 「オレ、実は宇宙人なんだ。」

 「はぁ?」


 いきなりそう切り出したのは、同じバイト先の先輩だった。先輩といっても自分は24歳のフリーターで、先輩は20になったばかりの大学生だった。このバイト自体を高校生の時からやっているらしく、階級も自分よりも上だが、一応年下である。


 「この星、地球に来たのは三年前くらいで、それからこの星について色々と調べてたんだ。それでもうすぐ活動期間が終了するから帰らなきゃならない。」

 「どうしたのいきなり。」


 ため口で話しているのは、自分が同顔で入った時に年下だと思ったかららしい。自分もそういった形式ばった会話より、友人として普通に会話したいと思っている方なので、特に訂正はしないしする気もない。


 「話すつもりはなかったんだけど、地球人はちょっと地球外生命体について懐疑的すぎるからさ。慣れておいてもらわないと。」


 はっきり言って、こんな話をする人物ではない。結婚は否定はしないけど、オレは絶対しない。とか、彼女を持つ利点は今のところないな。とか、少し常人とは外れた思考は持っている人だなぁ。と思うことはあったが、こんな冗談をエイプリルフールでもないのにいう人物ではない。


「もうすぐ来ると思うよいっぱいね。それに向けて少しでも慣れててよ。」


 現在の時刻は23時00分。ファミリーレストランでバイトをしているのだが、現在は、閉め作業と深夜の客の対応、と意外とやることはいっぱいある。といっても、時間になるまでできることが少ないので、今は、呼び出し音か料理が出てくるまで裏で話している所だ。


 「本気で言ってるの?」

 「やっぱり信じれないか。」


 と、やはり少々落ち込んだ表情を見せる。

 信じられるわけがない。何せ彼は、少し特殊な思考を持っていること以外は、普通の人間なのだから。食事もするし、水も飲む。疲れた表情に学校に通っていることだって知っている。自分の知らないことは多いが、彼にも友人がいるはずだ。実際、この前の成人式の日、この店に時間をつぶしに来たくらいなのだから。


 「じゃ、じゃあ特殊な能力は持ってるってこと?」


 信じてるわけではない。ただ、冗談でやっているのならどこまで設定しているのか気になってきた。


 「まぁね。」

 「じゃあ、テレパシーとばしてくれよ。」

 「無理だって。だって人間にはそれを捉える器官がまだないんだから。鼓膜がないけりゃ声は聞こえないだろ? それと一緒だよ。」

 「なにができるんだよ。」

「後は、未来視くらいかな。オレ落ちこぼれだからね。あんまり能力は持ってないんだ。」

 「未来が分かんのか?」

 「まぁね。ああでも宝くじ当てるとかしょっぱい予知はしないよ?」


 そこで都合よく、客が注文ないし、会計のための呼び出し音を鳴らす。


 「ただいまお伺いいたしまーす。」


 と、先輩が自分の代わりにフロアへ出ていく。


 「諸井さん。なんか変なんですけど・・・。」

 「どうしたん?」


 キッチンの諸井さんに先輩がおかしい旨を伝える。


 「なにそれ、何かのジョーク?」

 「だと思うんですけど、そんなこと普段言います?」

 「言わないと思うけど・・・マジ?」

 「そんなわけ無いじゃないですか。血も赤いし火傷だって・・。」


 そこで、先輩が言っていたことを思い出す。≪人間単位の存在≫だと。今は人間と会話するために声帯を使って声を出し、鼓膜を使う必要がある。だから、血も赤いしケガもする。人間と変わらないから。


 どうやら会計だったようで、注文を伝える伝票は入ってこない。そのこともあってか、自分の思考は止まらない。

 しかし、だとするとおかしな点がある。それは三年前から来たというところだ。もしそうなら中学生時代の友人などいないはずで、この前成人式後に来た地元の友人はいないはずになる。


 「どうしたの、貝原君?」

 「おう!? いや、なんでもない。」


 会計が終わって帰ってきた、先輩に話しかけられ思わず驚いてしまう。


 「さっきの続き。予知して見せてよ。」

 「うーん。後出し的にいうんだけどさ。あんまり意味ないと思うんだよね。基本その年に起こることを予知できるんだけど、オレらの一年は、人間の三千年くらいかかるからさ。生きてるうちに実証できるかわかんないよ?」

 

 なんかどんどんあいまいなものになってきた。やはり、作り話なのだろう。そう思えば乗ってあげることも出来る。それに自分もこういった話は、嫌いじゃない。最近、動画サイトでもこの手の話は増えてきてよく見ている。


 「じゃあ、どこの星から来たんだよ。」

 「えっとね、まだ見つけてない星だから、名前がないんだ。オレらの星の名前は人間の言葉じゃ表現できないし・・・。」

 「距離は?」

 「光の速さなんて低速じゃ、一人の人生じゃいけないかな。ざっとした計算だと10の十乗光年くらいかな。もっとかも。」


 そこにキッチンの諸井さんも加わってくれる。


 「じゃあさ、なんで宇宙人は地球に来ないの?」

 「もう来てますよ。ただ、人間はさっき持ったように感覚がまだ完全じゃないんですよ。視覚や聴覚、起きてしまった現象をかんそくするだけじゃ、オレらと完全な形で対面することは難しいと思いますよ。それに、人間を下等だ。って判断して、ほっておいてるってのも強いですかね。」

 「現象?」

 「はい。言葉ってのは振動すよね。振動は全ての現象に影響を与えるんです。なまじ僕たちは予知能力を持っているので、できる限り言葉は発したくないんですよ。未来を変えてしまいますから。」

 「しゃべるだけで?」

 「もちろんです。地球にもそのことを教えることわざ? があるじゃないですか。バタフライ効果です。未来を見ることで知った現象を説明してしまったら、その振動がいづれかの現象に干渉してしまうんですよ。だから、人間がしゃべる以外、現象以外で会話できるようになれば、少し干渉しようとする宇宙人は増えますよ。」

 「へぇ。」


 くだらない冗談話だと思っていたが、意外としっかり話せるものだな。と、思いながらそれとなく閉め作業の続きへと向かう。

 話をしていたいのはやまやまなのだが、これをしなければ帰ることができない。先輩は、サブラスなので、閉め作業を手伝ってくれるが、ラストオーダーをとった後に帰ってしまうので今は営業のみを行っている。その間にできる限り進める必要がある。


 その間、先輩が話していたことを整理する。


 現象以外の会話の方法。つまり、頭の中で会話することなのだろうか? そうなると現実的なところでいうとインプラントで脳をネットにつなぐ。スピリチュアルでいうと念だろうか? そういえば最近動画で、最後の携帯端末のロック解除は、思考である。とか言っていたのはまさしくそれなのではないだろうか。


 フロアから下げもの、洗うものをもって後ろに戻ってくると、諸井さんと先輩はまだ藩士をしている。


 「じゃあさ、宇宙人は地球を攻めてこないの?」 

 「何とも言えないですね。現状、地球には我々の欲しい資源はないので。ただ、狩猟目的だったりしたら予想は出来ないですかね。人間の子供だってアリの巣に水を入れるのに法則なんて無いじゃないですか?」

 「そんな感覚なの?」

 「残念ながらそうですね。オレは、人間になってみてわかったんですが、統一の認識方法も確立してないんじゃ駄目駄目ですね。」

 「え、えじゃあ。なんて、報告したの?」

 「オレの報告は、関係ないですよ? それに今更そんなことはみんな知ってますから。言ってしまえば動物園に近いですかね。いや、保護観察動物? なんにしても、オレらは人間の発展を楽しみにしている一派ですよ。今回は、その発展度の確認です。」

 「で、どんな感じ?」

 「そうですね。特記事項があるとすれば、洗脳の思考が少し強すぎます。進化の邪魔ですね。ただ、我々は自然な流れに任せているので、もう少し見てますかね。ただ、また滅亡しそうになればテコ入れが必要ですかね。」

 

 また滅亡? なんの話をしているのだろうか。人間が一度でも滅亡したことがあっただろうか? 記憶のかぎりではないはずだが、そういえばそういった都市伝説もあった気がする。人間は10万年ごとに滅亡し、一からやり直しているとかなんとか。その証拠が、核でも撃ったかのようにガラス化している古代文明だとか。


 「滅亡したことあるの? 人間て。」

 「ええ。ありますよ。文明の壁ってやつですかね。今のところは順調ですが、今回は戦争で終わりそうですね。核兵器は、少々地球へのダメージが大きいので。」

 「あ、ねぇねぇ。話が変えあるんだけどさ。火星は元々地球だったってのはホントなの?」

 「なに言ってるんですか。火星は火星。地球ではないですよ。」

 「いやそうじゃなくて、生き物がいたのってこと。」

 「ああ、そういうことですか。どうでしょう、自分が生まれたころにはすでにああなっていたので。ただ、昔はいたらしいですよ。」

 「? 今、何歳なの?」

 「この任務の終了後に100歳の誕生日です。地球でいうとこの3万歳ですね。」


 と笑いながら語る。二人にようやく合流する。


 「もうすぐ帰るって言ってたけど、どうやって? ロケットでも打ち上げるの?」

 「いやいや。迎えが来るんだよ。こっちでいうUFOがね。」

 「・・・見れる?」

 「? 見たいの?」


 そりゃそうに決まっている。UFOなんて一生に一度見れるかどうかの代物だ。それを見るか見ないかで宇宙人の信憑性に大きく関わってくるといえるだろう。そうすればこの上段話も信じることができる。

 いや、逆だ。信じたくないのだ。別に先輩のことが嫌いというわけではない。むしろ、そこそこ長い事一緒に仕事してきて面白いと思っている。友人だと思っている。だからこそ、そんな人が宇宙人であるとは思いたくない。


 「いいよ。ただ、約束してほし事があるんだ。この後、オレと全く同じ容姿、思考、記憶を有したオレが来るんからそっちのオレとも仲良くしてほしんだ。」

 「どういう事?」

 「オレらが記憶を書き換えすぎるのはよろしくないからね。だから、オレ。宇宙人じゃないオレがこれまで通りに生活するだろうからさ。そのあたりのことを察してほしんだ。そのオレは自分が宇宙人であることを認識してないから。」

 「わかった。」

 「ありがと。じゃあ、上がるね。」


 時間を忘れて話していたが、時計を見ると先輩の上がる時間である0時30分を回ろうとしている。先輩はこれから客席にいる全員に「ラストオーダーですが何かご注文はございますか?」 と、聞いて回ったのち、仕事が終了する。

 先輩にとっては通常通りの日常なのだろうが自分にとっては衝撃的すぎる1日であった。


 そして、着替えを済ませた先輩が、


 「じゃあ、口頭で呼ぶね。形の残る方法では、残して帰れないからさ。」


 といって帰っていった。つまり、UFOを見せるときの連絡は携帯ではなく、バイト終わりに「今日帰るから。」と、言うという事なのだろう。その日がいつなのか。自分はずっと待っている。




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