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悪役令嬢の不在  作者: 木口 困
本編・第2学年編
5/17

授業そっちのけ

それから午後の講義は滞りなくこなして、放課後を迎えた。

アナリシアの萎んだ心境はお構いなしに、平常通りに進行する授業を恨めしく思ったが、もっと恨めしかったのはスキロの行動だった。

いつもは頼んでもいないのに放課後になると席まで迎えに来て、寮まで送ってくれたり、一緒に図書館を利用したりするのだが、この日はアナリシアに見向きもせず。授業が終わると早々に教室を後にして、近づく隙も与えてくれなかった。

あまりの素早さに呆気に取られてしまったが、今日はまだ距離を取りたいのだと思い、1人で寮に戻った。

「明日はお詫びに、弁当の中身を好物だけにしてやろう」と決め、翌日はいつもより早起きして、気合いを入れて弁当を作った。

朝に会ったら真っ先に謝ろう。

昔から言い合いや喧嘩をしても、スキロは次の日にはケロッとして声を掛けてきて、お互いに怒りを引きずるのは建設的ではない、とか言いながら仲直りを求めてくるのだ。

「お互いに悪い所があった。だから次から気をつけよう」とやけに子供らしくない謝罪に、いつも妙に納得してしまい、ついつい笑ってしまったものだ。

精神年齢で言えば転生したアナリシアの方が上のはずなのに、なんだかスキロの方が大人のようで。さすがチートはスペックが高いなと、感心させられた。

寮の入り口でスキロを待ちながら思い出に浸り、懐かしさに自然と笑みが浮かんだ。

しかしスキロは一向に現れなかった。

遅刻ギリギリの時間になっても姿を見せない幼なじみに、まさか寝坊しているのかと心配になり男子寮まで確認に行くが、玄関横の管理人室に声を掛ければ、生徒は全員登校したという。

慌てて登校すると、ちゃっかり席に着いているスキロを見つけた。

顔色は昨日より改善しているが、表情は硬い。

挨拶をしようと近づくが、目も合わせてくれないばかりか、故意なのかと疑いたくなるタイミングで教科書を取り出し始める。しかも折り悪く、始業のチャイムが鳴り響いた。

結局目的の相手と言葉も交わせないまま、アナリシアは渋々自分の席に向かい、隣の令嬢に朝の挨拶をした。


「おはようございます、シア。答えは出ましたか?」


相変わらず涼しげな声音だが、冷たさは一切なく包み込むような思いやりの滲むそれに、気付かない内に強ばっていたアナリシアの体から力が抜けた。


「なんの?」

「昨日、スキロ様が怒ってしまわれた理由と、これからのシアのことです」

「これからの、あたし?」

「そうです」


着席して教科書を取り出しながらも、虚を突かれて首を傾げる。

そんな友人の姿にナリシフィアは柔らかく微笑み、首肯した。


「スキロが怒ったのは、国家反逆罪が掛けられかねない勘違いを、あたしがしたからでしょ?」


苦い表情を浮かべ、申し訳なさに体を縮こまらせるアナリシア。

言葉を受けたナリシフィアは、笑顔のままであるのに纏う雰囲気が変わり、余計に身をすくませられた。


「……シア、本気で言っているのですか?」

「シフィー、なんか笑顔が怖いよ?」

「シア、ちゃんと自分に向き合っていませんね?そのままでは、大切な方を失ってしまいますよ」


突然の宣告に、アナリシアは頭を殴られたような衝撃に襲われた。

物理的には何も起きていない。

しかし、想像もしなかった言葉に、衝撃を禁じえなかった。

アナリシアは漠然と、二人の腐れ縁はずっと続いていくものだと当たり前のように捉えていたのだ。

家は近所だし、いつかした約束があるのだ。例え伯爵家の養子になったとしても、嬉しそうなあの顔を思い出すと、スキロが約束を反故にすることはないだろうと無条件に信じることができた。

それが、違うのだという。

考えてみればスキロが養子になんてなってしまっては、向こうはお貴族様なのだから、平民の自分に今までのように構ってくれると思う方が間違いなのだ。

その思考に至った途端、寒くもないのに身体が小刻みに震えた。

同時に教室の戸が開き、教師が入室してくる。


「シフィー、なんで、そんな大袈裟な……」

「大袈裟ではありませんよ。あまり人様の事情に踏み入るのは本意ではありませんが、お二人があまりにももどかしいので、さしでがましいと思いながらも、口出ししているのです」

「そう、なの?」


お互いに声を潜めながらのやりとりするが、視線は前へ向け、姿勢を正してなに食わぬ風を装おう。

ナリシフィアがどうかは知らないが、アナリシアは心臓が嫌な音を立てて早鐘をうち、背筋には冷たい汗が流れていた。


「はい。ともかく、このような場所では込み入った話も出来ませんし、続きはまた後でに致しましょう。シアは、考えてみてくださいね、私の昨日の言葉を」

「自分に向き合えってやつ?」

「そうです」

「わかった。考えてみる」


神妙に頷き、アナリシアは授業に身が入らない予感を抱えながらも、なんとか教師の言葉に意識を向けたのだった。





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