猿夢の怪 その四
「写真はね、好きなものをアップで撮ればいいんだよ?」
アコちゃんがわたしにほほをよせて、パシャリとツーショット写真を撮る。
朝の教室。
わたしはアコちゃんとおしゃべりしていた。
「れっぴー。これもインステにあげていい?」
「うん。いいよ」
わたしたちは、写真をスタンプで飾りつけて投稿する。
アコちゃんのスマホの画面には、これまでアコちゃんが撮った写真がならんでいた。
「それにしても、れっぴーがアカウント作るの楽しみだなぁ。プロフの写真撮ってあげようか?」
「まだやるって決めたわけじゃないから……それに、わたしのはアコちゃんしか見ないと思うよ」
「そうかなぁ? れっぴー、実はすごい人がファンにいるんだよ」
「ファン?」
「えっとね、れっぴーはあんまり興味ないかなって思ってたんだけど……」
アコちゃんはスイスイとスマホをいじって、「あっ、ほら!」とわたしに見せた。
画面には、さっきの写真が写っている。
すでに、いいねがひとつついていた。
アコちゃんがそこをタッチすると、いいねをした人のアイコンがでてきた。
「このMarioさんって人なんだけど、れっぴーのことお気に入りみたいなんだよね。れっぴーとの写真アップしたら、絶対にいいねがつくんだ」
「マリオ?」
「うん。フォロワーが20万人くらいいる中学生の子でさ、とってもかわいいんだよー。みてみて」
アコちゃんは、Marioというアカウントの投稿を見せてくれた。
――アイコンをみたときに、あれっ? と思いはしたのだ。
投稿されている写真をみて、わたしは確信した。
「あ。この子、わたしの後輩だ」
「えっ! Marioさんがっ?」
たぶん、茉莉子ちゃんでまちがいない。
わたしも昨日会っていなければ気づかなかったけれど、これはたしかにショートカットの茉莉子ちゃんだ。
「れっぴー、Marioさんと知り合いなの!?」
「うん。中学のときの部活の後輩だよ」
「うそ……!」
アコちゃんは大げさに唇をうごかして、すごい、と言った。
「うわー。あんなかわいい子と前から知り合いだったの!? Marioさんの人気すごかったんじゃない?」
興味津々にたずねられて……これはどう答えたものかと考える。
そういえば、茉莉子ちゃんの色恋方面はぜんぜん知らない。
……というか、わたしはそもそも恋愛話なんてだれともしたことがなかった。
それに茉莉子ちゃんの今と昔の変化を考えると、むやみに昔の印象を話すのもどうかなという気がする。
「うーん……わたし、そういうの疎いからよくわかんない」
「ふうん?」
アコちゃんは小首を傾げると、わたしにたずねた。
「……もしかして、なにかあった?」
「茉莉子ちゃんとわたしが? まさか。むしろあんまり話したこともないくらいだよ」
つい茉莉子ちゃんの名前を言ってしまったけれど、仕方がない。
アコちゃんも特に気にするでもなく、話をつづける。
「そっかー。もしかして、告白されたとかで一悶着あってたらどうしようって思ったよ。ほんとにそういうのはなかったの?」
「告白って、だれか男の子から?」
「ちがうちがう。れっぴーが、Marioさんから告られたことあるのかってこと」
「えっどういうこと?」
「ん? 有名な話だよ? 本人も隠してるわけじゃないと思うんだけれど……ほら」
アコちゃんは茉莉子ちゃんの投稿写真からひとつを選んで、わたしに見せた。
思わず声がでるところだった。
「茉莉子ちゃん……まさかそんな」
刺激がつよすぎて、まだおのれの目が信じられない。
アコちゃんのスマホの画面には……女の子とキスをしている、茉莉子ちゃんの投稿写真が表示されていたのだった。