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人面犬の怪 終章
「犬の直霊をみるとは、伶もなかなかよの」
「はい。ポメラニアンのモノノケもいるんですね……可愛かったなあ」
「いや。それは『犬』のモノノケの陽の部分で、直霊ではないぞ」
陰神刑部様は、おちょこを振る。
器の中で、にごり酒がくるくるまわる。
「犬の荒魂と和魂は、それぞれ極にあり移ろうもの。しかしその真中にある犬の『無垢』の姿とは……他者とともに歩む、その光景よの。犬というのは、そのあらわれじゃ」
おちょこの酒を飲み干すと、陰神刑部様は、にこりと笑いかけた。
「伶。おぬしも、よい友達を持ったな」
――ふいを突かれて、わたしは言葉をのむ。
気づけば、ほろほろと涙が溢れていた。
「……流石に、泣きすぎなんじゃないのか?」
一緒にテーブルを囲む陽魔が、呆れた様子で言う。
「だって、わたし、わたし……!」
わたしは、必死に涙をぬぐう。
頭に思い浮かぶのは、アコちゃんの笑顔。
そこに、当たり前のように響く『友達』という言葉が……わたしは、とてもうれしかったのだった。