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ルートラインコンダクター穂乃花⑦


「俺は渡邊翼だ。二人とも宜しく」


そういうと二人と同じようにしゃがみこんだ。


「エリートさまが何のようだ」


「翔殿、その様な言い方は」


「いいんだよ、どうせこいつが世界を救ってしまうんだろ」


「そういうフラグがあれば、1人で行動してるさ」


「でも、何か考えがあるって顔しているぞ、こんな状況下の中でもお前の顔には余裕が見える」


「余裕に見えるとしたらそれは強がりの俺の癖だ。いつも自分に負けないように負けないように言い聞かせてきたからな」


「そうでござったか」


「豪、お前、勇者言葉がどこに消えた?」


「あの一瞬だけ覚醒しただけでござる」


「本物の勇者さまと、そのパーティーメンバーを募るという場面に移ったわけだな」


「そうでござるな」


二人はお互いに顔を見合わせた。


その顔には少しの悔しさと笑みが交じり合っていた。


「それもありか。おいエリート、それでお前の案は?」


「二人には銃を打った人の注意をそらしてほしい。今の自分の足でどこまで役に立つかは分からない。でも、行かなきゃいけないんだ、多分」


「豪、お前よりも病んでる中二病がここにいるぞ」


「ひどいでござる。中二病とオタクは別の存在でござるよ」


「俺にはその区切りが分からねぇ。そんな事を言っている場合じゃないけどな」


「翔殿は左から、我輩は右から、翼殿は中央から。合図は翼殿に任せるでござる」


その時に会場内にいた男性陣がちらほら手を振っている。


「どうやら、他の方も手伝っていただけるようでござる」


「そうらしいな。しかし、会話は聞こえていたわけでもないのにどうしてこの作戦が分かったんだ」


「いや、ここに来るまでに頼りになりそうな人にこの作戦の事を話して回ってた」


「お前、さっきまで1人だけ席に座っていたじゃん」


「ああ、あれね。これを書いてたんだよ」


そういうと翔に紙切れのようなものを見せた。


「あの時にこういうことをしてたのか」


「翼殿は生粋の勇者でござるな」


「豪、俺たちの存在意義が薄れるからそれ以上言うな」


「翔殿、我々も同じことを考えていたでござるから卑屈になることはないでござる」


「そういわれるとそうだな。それにメイドカフェに行く前に死ぬとか絶対にありえねぇし」


「その前に神社でござったな」


「そこは一番重要なポイントだ。あと豪がいないとだな」


「嬉しいことを言ってくださるでござるなあ」


「勘違いしているようだから、注意書きのような口調で言っておく。お前がいないと、独りで行くのは恥ずかしいだろ。それとお前の一押しのメイドがどこにいるかも知らねぇしと言うことだ」


「どういうことでも頼りにされるというのは嬉しいでござる」


「お二人さん、他の方の準備も整ったようでござる、いや整ったみたいなので配置に」


「了解」


「了解でござる」


翔と豪が指定位置についたのを確認すると翼も自分の持ち場について、息を潜めて、タイミングを見計らっていた。


「東上君、まずその銃から手を離しなさい」


「まだ分からないようですね」


その時、左右から壇上に向って歩いてくる人影が見えた。


「いつまでもそんな影に包まれていたらあんた本当に悪魔になりそうじゃねぇ」


「もうやめるでござる」


「総理大臣を撃ってる場合じゃないだろう、撃つ人間を間違えてるぞ、お前」


「国民を守るのが自衛隊の義務だろ、いい加減、もう止めてくれよ」


「あんた、人を撃つとかいうタイプの人間じゃないだろ、太井首相を守ろうとしていたさっきまでのあんたはどこに消えたんだよ」


「おじちゃん、もう止めて」


「真奈、危ないから隠れていなさい」


気付けば、会場内の男性陣が座席に座りなおしていた。


東上はどこに視線を向ければいいのか、やや困惑していた。


「いくぞ、豪」


「分かったでござる」


壇上の中央の下には翼が身を隠していた。


「勇気は買ってやるが死ぬ覚悟は出来ているんだろうな、そこの坊主二人」


「翔殿に同意でござる」


「だよな」


それは一瞬の出来事だった。


というよりも信じられない光景だった。


壇上の左右から二人がゆっくりと歩みよろうとしていた。


太井はそれを立ち塞ぐ。


そして、それに反応して、太井の右足を打ち抜こうとした東上の銃を翼が奪い取ったのだ。


「何、この跳躍力」


翼本人が自分の身体能力に驚いていた。


「勇者覚醒かよ」


「覚醒でござるな」


翼は銃を奪いとるとすぐに会場の観客側に投げ捨てた。


「お前は只者じゃないのは分かったが、最初から俺には銃は必要ない」


「豪、あいつ負けフラグを自分で立てたぞ」


「そういうわけではなさそう」


でござると言い終わる前に壇上に向って、男性陣が殺到する。


「で、ござったな」


束になって東上に向っていく光景が穂乃花にはスローモーションのようにはっきりと鮮やかに見えた。


「何とかなったようですね」


「そのようですね」


「翼おじいちゃん、凄いなぁ」


東上を包んでいたどす黒い影のような靄も消え、うつろな表情に変わり、東上自身は気を失った。


「はぁ、死ぬかと思った」


銃を奪い取り、投げ捨てたまでは良かったがその後、すぐに東上に捕まり、首を締め上げられそうになった翼が安堵した声を漏らした。


「ようやくこれですべて終わりという感じか」


「審判の議題はまだ残ってるでござるがこの連帯感なら大丈夫そうでござるな」


「坊主たち、よく頑張ったな」


「お前らを見ていたら大人も動かないわけにはいかねぇだろ」


「まあどうにかなった」


「帰ったらかあちゃんの飯が待ってるから早めに済まさねぇとなあ」


「その前に穂乃花ちゃんの講演か」


「俺は日本代表のあの度胸に惚れた」


「男のお前に惚れられても嬉しくないだろ」


「そういう意味じゃねぇよ。あんなもん見せられたら日本記録更新も近いんじゃないか。あいつの走りに惚れたんだよ」


「走りも何も、フワッと、いやシュワッ、いやシャシャ、でもねぇなぁ。とにかくジャンプであって、走りじゃ。待て待て待て待て、思い出した。渡邊の走りは確かにあんな感じだったな」


「だろ、日本記録更新のニュースを見たときとそっくりなフォームで跳んだだろ」


「ということは身体の方はもう出来上がっているんじゃねぇか、渡邊は」


「本人はリハビリ中ってさっきも言ってたが気が早いかもしれないが日本記録更新も将来確実と期待していいということだな」


そんな温和な雰囲気の中で忘れていたことがあった。


会場に投げ捨てられた銃の行方についてだ。


銃を持つという重圧感と緊張で誰も東上の銃を手にしなかったのだがその事に気付いた田中が銃を我が物にしようと小走りに駆け出した。


「あの人、後に手錠を掛けたままなのに銃の方に向って行ったよ」


まだ息は整っていない翼が田中の行動に気付いた。


「最初は最恐のボスキャラだと思っていたけど、こういう姿を見ると拍子抜けだな、豪」


豪に話しかけたが目の前に豪はいなかった。


「すまないでござるがこの銃をあなたに渡すことが出来ないでござるよ」


まだ壇上からも下りきれていない田中の目の前で豪は銃を手にすると区長席まで届けた。


「区長、少しお借りします」


そういうと、藤野は宮前から銃を受け取り、すぐに銃の弾薬を抜き、銃の安全装置を掛けた。


「藤野長官、何でそんなに手馴れてるんですか?」


その光景を宮前と一緒に見ていた穂乃花は小刻みに体を震わせながら、驚いている。


「まぁ、ちょっと色々ですよ、穂乃花君」


「はぁ」


壇上では翼が田中に議題をぶつけていた。


「あんたは何のためにこんなことをする?」


「5」


「あんたは自分のためにこんなことをしたのか?」


「6」


「あんたも日本人だろ?」


「7」


「世界を滅ぼしたい理由は?」


「8」


「その蛇みたいな生き物はどうやってだしてる?」


「9」


「あんたにも家族がいるんだろう?」


「10」


「人の命を何だと思ってるんだ?」


「11」


翼が質問する度、カウントを取っているのは藤野だった。


「渡邊翼、俺の邪魔をしてくれたな」


田中の周りに東上の時のような黒い靄が掛かり始めた。


「おしい、あと2つ」


藤野が残念そうに呟いた。


「未来を信じて何が悪い?」


「12」


「あんただって本当はそんな自分望んでいないだろ?」


「13だが、最後の議題は大きな賭けだな。穂乃花君のおじいさんはやっぱり大物だが感情的な所が長所で短所ですね」


「藤野さん、さっきからじいちゃんの質問をカウントされていたのは何故ですか?」


「あれですよ、あれ」


藤野が翼の右腕のビザルを指差す。


「ええーっ」


「なので、翼君の発言は有効なのです」


「いつの間に」


「最後の審判までの議題は終わりました。ただ、最後の議題が一番の難関かもしれません。ただし、審判の討論の主催であったとしても嘘をつけないのがこの討論の条件です。もし、ビザルの覚醒者が世界の滅亡を望んでいたらこの世界は終わりです。しかし、こうなったからには私でも穂乃花君でも会場内のゲストでもなく、田中というビザル覚醒者自身の本音に賭けるしかなくなりました」

「おじいちゃんらしい行動だけど、本人はビザルに試されているという自覚が全くないとはさすがだわと褒めたいところで最後の最後で凄くまずった感が。人に裏切られても裏切るな!がうちの家訓なのはおじいちゃんの言葉か」


「どうなんだよ、早く答えろよ」


翼がすべての質問を終えると、田中の纏っていた黒い霧は晴れ、田中幸二という1人の人間の姿がそこにあった。


「俺が何のためにこんなことをするか?ビザル覚醒者に選ばれたからだ」


「5」


「ああ、自分の為だ」


「6」


「未来から来た日本人と言いたいところだがこの時代の日本人だ」


「7」


「世界を滅ぼしたいのはもう飽き飽きしているからだ。こんな格差社会のどこに未来がある。貧しい者は将来さえ強制遮断されている社会だぞ。それならまた一からやり直せばいいんだ。人間以外の統治の方がまだマシじゃないのか。弱肉強食でも歴史と共にその統治者は進化の過程で変化するのが自然の摂理だが人間社会が地球を支配している限りこの地球は死んでいるのと同じだ」


「8」


「蛇のような生き物はザビル。審判を司る神様のようなものだ。従って自らが出しているものではない」


「9」


「やはり、そうでしたか。閻魔大王の地上版のようなものでしたか。ルコラと並んで、ザビルも興味深い生物ですね」


「悪魔じゃなかったんですね、蛇は苦手なので恐いものに変わりはありませんが」


「穂乃花君、でも、ザビルがいつか入り込んでしまう恐れは誰にでもありますよ。目の前の翼君はああなっているわけですから」


いじわるそうな顔で藤野が穂乃花をびびらせてる。


「いえ、絶対にないです。近づかなければいいんです」


「でも、おじいちゃんの中に入ったということは孫にも入り込んでいる恐れが」


「ありません」


「それなら良かった」


その間にも田中幸二は翼の質問に答え続けている


「私には家族はいない。家族の記憶もない。児童施設の目の前に捨てられていたということらしいがそんな記憶もないほど、家族に関しての項目は欠如している」


「10」


「人の命。そんなものに興味はない」


「11」


「別に悪いとは思っていない。お前が未来を信じるのは勝手だ。俺が人類の未来を諦めただけだ」


「12」


「最後の質問には答えたくない。答えないという選択肢は存在しない。ビザルの審判により、私は消滅する。こういうエンディングをまっていたのかもしれないな。礼を言うぞ、渡邊翼」


「13」


最後の返答の途中から田中の身体は幽霊を見ているかのように徐々に薄れていき、翼に礼を言う頃にはほぼ見えなくなっていた。


「あのビザル覚醒者、翼君に負けて、自分自身は貫きとおしたということか」


「ちゃんと答えていれば助かっていたということですよね?」


「そうだね。質問される立場になるとは思いもしなかったんじゃないかな」


「そうですね」


「しかも、あんなにストレートな質問」


「おじいちゃんが聞きたいことを聞いただけという」


「容赦のないマシンガン攻撃だったね」


「私も驚きました」


「でも、だからこそ、翼君のザビルは色を持たない」


「黒い靄のような霧も出てないですね」


「あれが本当のザビルの姿なのかもしれません」


「半透明の天使のようなザビルかぁ、ルコラもザビルも結局何なんだろう」


「何でしょうね」


「藤野さん、穂乃花さん、私のルコラが何か言いたそうにしています」


ドチラモオナジ ドチラモチガウ

 

「オッドアイのルコラさんが喋った」


「これはこれは驚きです」


壇上の上では翼が司会、司会補助に豪、東上のケアを翔がしていた。


「この人が目覚めて俺に襲いかかったら豪のせいだからな」


「はい、そこのピンクの花柄のワンピースの女性の方、質問をどうぞ」


司会の補助に忙しく、翔の話に耳を傾けていない。


「俺はまだそっちのほうがいい」


しかし、翼も豪も討論に集中していて、翔の言葉をスルーしているようだ。


「まぁ、起きなければ大丈夫か」


「君、私がその役を変わろうじゃないか」


太井は左足を引きずりながら、東上と翔の傍に来た。


「足の傷は大丈夫なんですか?早く病院に行ったほうが」


「足のほうはなんとかな。銃弾は貫通したようだから、これくらいの傷みなど我慢できる」


「俺、政治のことには全く興味ないけど、太井首相のことは好きになりました。これからも日本の為に頑張ってください」


「政治家に任せっきりというのも良いことではないぞ。政界、経済界ともに未来を良い方向に導いてくれる人材を探している。君にはその資質があると私は感じた。地元葛飾から私の次の内閣総理大臣が出ることが私の夢だ。君も君の目標や夢に向って、今を頑張ることだ。それと、これが落ちていたのでね、私なりの応援の言葉を文字をしたためておいた」


太井は自らの流れ出た右足の血をインク代わりに翔の退学届けにこう記していた。




自分が望む自分になれ!




「ありがとうございました。一生の宝物にします」


自然とあふれ出る涙をごまかそうと必死で笑顔を作ろうとする翔。


「これは捨てた方が良い。気に行ってもらえたのなら、改めて、書に書きなおし、額入りで君の家に届けよう」


「いえ、血判状みたいで最高です。俺が結婚した時には、うちの家訓として額入りで玄関に飾ります」


「大学の退学届けを額に入れるつもりか。君らしい気がする。同じ時代を生きる人間としてお互いに精一杯生きよう」


「はぃ!」


太井と翔は両手で力強い握手を交わした。


「それでは、司会の補助を手伝ってきます」


「私だけでなく東上の様態も心配だから早めに終わってくれると助かると伝えてくれ」


「分かりました」



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