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ルートラインコンダクター穂乃花④


「しかしだね、それでは区民が」


「中には政務の成果として、職務としても当然の対価だと思われる区議会議員さんもいて当然です。この世界の人間なら当たり前に持っている経済観念ですしね。区を運営して行く上でそういう感覚も必要なものだと私は思っています。しかし、葛飾区全体が必ずしもそうである必要はありません。私からのアドバイスはここまでになります。あとは神崎君に託します」


「あのお嬢さんは藤野さんにえらく信用されているようだね。でも、そのお嬢さんに私も何かの理由で選ばれたんでしょうね。ルコラさんに選ばれたんだったのかな」


宮前の声に落ち着きが戻る。


「はい」


少しの間を空け、さらに藤野の話しが続く。


「それで早速ですが宮前さんにご相談があります」


「ふぅーん、穂乃花さんと同じで君も突然だね」


苦笑いの表情とともに宮前は両腕を組む。


「すいません。事を要しますので」


「それで相談とは何かね?」


「これからこの会場で戦争が起きます」


「はぁ、またか。今日は区長室で穂乃花さんに出会ってからこの瞬間まで夢の中を漂っているようなんだが、やはり、これは夢の中なんだろうか?」


「確かにここは現実世界とは少し異なるかもしれません。しかし、今起きていることは事実です」

「頼りない説明をありがとう、藤野さん」


「私にもまだ理解できていない世界なのでそう説明するしかないのですが。申し訳ありません」


藤野はそう言いながら頭を下げた。


「そうだったね。同じ事を穂乃花さんも口にしていたね」


「ルコラのことについては穂乃花君から聞いていると思いますが」


「神様のような存在だとか」


「神様が存在するということは悪魔のような存在もいます」


「なるほど。そしてその存在は穂乃花さんの講演を邪魔しつづけている。そして、この時代までついて来てしまっているということかな」


「半分正解で半分は不正解になりますが未来人を信じない時代を除けば、正解ですね。さすが宮前区長です」


「歳を取ると疑ってかかりやすくもなるがその反面、老いなりの感覚的なもので信じてしまえることもある。不思議なものだねぇ」


「人間は年齢を重ねるとより頑固になっていくだけではないのですね」


「この仕事を就いてから、多くの人に出会うようになった。私の場合は元が頑固だった分、逆にそういう部分が自然の流れで少し丸くなったのかもしれないね」


「そういうものなのかもしれませんね」


「それで戦争というのは」


「討論です。しかし、ただの討論ではありません。審判の討論(Discussion of the Judgment)と言われています」


「審判の討論。何だか恐ろしい呼び名だね」


「はい、最悪、世界が滅びるとも言われています」


「その討論に私も選ばれたと」


「そういうことです」


「これも因果なのか。今抱えている問題と似たようなものだな」


「ルコラはその気持ちを感じ取ったのかもしれません」


「どういうものなのかは分からないが私が選ばれたということなら覚悟を決めるしかないんだね。ただ、さっきから流れ込んでくるこの不気味な感覚は何かね」


「討論の相手が近くまで来ているという証です」


「なるほど、ルコラさんとは対極の存在のことなんだね」


「はい」






(藤野を下ろし、帰りの途についているはずの政府関係者の車は二人が話をしている最中、かつしかシンフォニーホールのすぐ近くに待機していた日本国首相、太井源次郎の乗車している車に横付けされていた)





「ご苦労だったね。状況の方はどうなっている」


沈着冷静、物怖じしない度胸、その場の分析力にも長け、瞬時に解決策を導き出す男が今の日本の内閣総理大臣、太井源次郎。


「それが消えてしまいました」


「藤野の方はどうだ?」


「スマホの電源も我々の付けた発信機も反応しません」


「やはりな。あの男もこの出来事に関わっているという証拠が出てきたというわけだな」


「はい」


「まあいい。お前達は戻ってよし。あとはこちら側で対処する」


「分かりました。それでは失礼します」


そういうと国賓専用車は太井の車から離れていく。


「さて、どうしたものかな、田中さん」


「そうですね。国税を生み出すのは災害より大きなものはありません。あなたの判断で私は動きますよ。そういう仕事で未来からやってきていますので」


田中と呼ばれたその人物は細く鋭い目つきから放たれる不気味な雰囲気、この男はルコラとは対照的な悪魔といわれる生物をその手に宿していた。


「しかし、その蛇のような鰐のような生物はどうにかならないか。いつ噛まれるのか、不安でしょうがない」


「太井首相ともあろう方がこんなものを怖がるとはこの時代の首相は実に腑抜けた人物が多いとは聞いてはいましたが本当の話だったんですね」


その鋭い眼光で太井を見ながら田中は薄笑いを浮かべた。


「未来から来たとはいえ、一国の首相に向って、その発言は何だ。俺は別に怖くない。寧ろ、その気持ち悪いものを片付けたい衝動に駆られるが退治してもいいかね」


横から口を挟んできたのは首相警護で同乗していた陸上自衛隊幹部生、東上隼人だった。


「しかし、SPではなく、あなたを連れてきた選択はさすがといっておきましょう」


「私が志願したのだ。国家転覆さえ起こりそうな由々しき事態が起こるかもしれないと直感したのだ」


「東上くん、そのくらいにしておくのだ。今はそれよりも大切なことのために動いている」


「太井首相、申し訳ありません」


「いやいや、君の活躍には期待している。それで話を元に戻すが田中さん、藤野が消えていった世界に行くにはどうすればいいのだ」


「ああ、それですか。簡単なことですよ。この子に噛みつかれればいいんです」


「君、冗談を言っている場合ではないぞ」


「冗談ではありません。軽くでいいんです。軽くで」


「痛くはないのだな?強弱はコントロール出来るのか?」


「この子の機嫌次第ですが大丈夫でしょう」


田中はニヤリという視線を太井に向けた。


「先に私が噛まれてみましょう」


「そうだな、先に頼む、東上君」


「あなたは無理です。その肩の上に乗っているものが私の邪魔をしますから」


しかし、東上には田中が何を言っているのか分からなかった。


この時に東上にはルコラが見えていなかったのだ。


「それなら私はどうやってその世界に行けばいいのだ」


「あなたはこれまでの功績からそのままで行けるようです」


「本当だろうな」


東上の力強い視線が田中に飛ぶ。


「そんな顔をされなくても、保証しますよ」


「お前は俺の信用に値しない人物だ。お前の言葉にも信用は無い」


「首相の前で嘘を付きません。それでは時間がありませんので首相、お手数ですが右腕をお出しください」


「分かった。これでいいか」


「はい、それでは行きますよ」


この瞬間、田中の表情が変わった。


「これでこの時代は私のものです」


「田中、お前、太井首相に何をした」


「先ほど申し上げたとおりにあの世界へ行くための儀式をして差し上げました」


「それでどうして首相の意識がなくなっているのだ」


「心だけがあの会場に飛んでいるのですよ。それでは私も行かなければなりませんので失礼します」

「わたしはどうやっていけばいいのだ」


「だから、あなたはそのままでも行けるんですよ、あなた自身の力で。しかし、首相の警護となれば、この身体、お守りする必要がありますね。どうしますか、東上さん。それでは、失礼」

「あの野郎、消えやがった。しかし、首相のお体をここに放置してしまうことも出来ん。まずは首相を病院に運ばなければ」


東上は後部座席のドアを開けると、運転席のドアを叩いた。


「おい、緊急事態だ。開けてくれ」


しかし、よく見ると、運転手らしき男の意識はなかった。


「国家転覆を狙っているのはあの男だったか。しかし、まずは連絡か」


急いでスマホを取り出し、連絡してみようにも繋がらない。


「何故この場所に電波が来ていないのだ」


東上もその事にようやく気付いたようだ。


「すでに私は太井首相と同じ世界に足を踏み入れているということか。それなら首相も安全か。いや、待て、あいつの立場が危うくなった時にここに帰ってこられたら間違いなく、人質にとられる。よし、ここは私が背負っていこう」


そう言うと東上は背中に太井を乗せ、かつしかシンフォニーホールへと向った。



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