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ルートラインコンダクター穂乃花③


「渡邊翼さん、時代が違いますが、同じ高校生として伝えたい事があります」


しかし、翼からは言葉が返ってこない。


「日本代表でも政治家でもサラリーマンでも何でも成れる。私達、若者には無限の可能性が拡がっているんです」


穂乃花は良いこと言いました感を出していたがすぐに翼の言葉にそれを打ち消された。


「あの、すいません。それだと、さっきのおじさんの未来を否定するようなことになりませんか。それに俺はオリンピックに選ばれたいわけじゃなくて、自分の走りを取り戻したいだけで、それが結果的に日本代表に繋がっていく。納得いく走りが出来たなら、代表落ちしても、落ち込んだりもしませんし、政治家になりたいと思ったこともないし、その3択だと無限に拡がる感じがしないんだけど」


無返答のあとの冷静な切り返しに穂乃花は顔を赤らめた。


「穂乃花君はほんの一例を挙げただけです」


すぐに藤野が穂乃花のミスをフォローする。


「でも、そういうキラキラした言葉は好きだけどな」


そう言った後で少し照れている翼。


「私達の時代にはそんなルートは無限には広がっていないけどね」


穂乃花は口にするつもりはなかったが、ささやくような独り言が思ったよりもマイクを通して、会場に響いていた。


「そういうことか」


翼はふいに穂乃花が口にしていた穂乃花の生きている時代を考えてみた。


ルコラが映し出した映像の中には懐かしいものばかりじゃなく、葛飾区内の町が水没していてたものもあった。それは過去ではなくて未来の光景だったのかと翼は気付いたのだ。


「お前の思っている事が本当ならオリンピックなんて開催出来る状況じゃないってことだよな」


いつの間にかタメ口になっていた。


「政治家になりたくなくても、高校生でも政治家に選ばれることも、首相にもなれるそんな世界で私は生きてる」


この時代の人間からするととんでもない事を口にしていた。


「本気で言ってんのかよ。高校生で政治家。なしだななし、高校生が首相とかなっている国があったらそれこそ国が滅ぶんじゃねぇ」


この時代を生きている翼から率直な言葉が出た。


「人材不足というのもあるけど、優秀な人材は若い子が多いし。今の最年少議員は中学生」


穂乃花は穂乃花の生きている時代のありのままの話を返す。


「いやいや、いくらなんでも想像できる範疇を超えてるな」


翼はこの時代の常識で物事を考えて発言しているが穂乃花も譲らない。


「この時代だけだよ。日本人の考え方が甘いのわ。日本史では勉強してるはずだよね。天皇もすごく若い人がなったり、武将だって、元服は子供の時だよ。身分を選ぶことが出来ない時代だと才能があってもその才能を生かすことも開花させることも出来ずに死んでいる人だって多くいたと思う。でも、この時代の日本人は何かになろうとか、なれることが出来るかもしれない時代に生まれているのに何にもしない人が大半を占めている。そんな時代に何もしてこなかったから・・・・・・」


藤野は感情的になった穂乃花のマイクの音量を消す。


それでも穂乃花は話を止めない。


「私達の時代を作り出したのよ。あなたたちの時代のせいで何で私達の時代が辛く苦しい経験ばかりしないといけないのよ。もういい加減にしてよ。私の家族を返して。私の友達を返してよ」


静寂に包まれた会場に穂乃花の声が響いた。


「でも、お前の生きている未来の世界とはこことは違うかもしれないんだよな」


「違うかもしれないし、繋がるかもしれない。同じような世界が何個も存在するかもしれないし、存在しないかもしれない」


「どっちなんだよ」


「大事なのはどっちかじゃない。未来に生きる人たちの為に私達は今復興しようとしている。でも、この時代の人たちは地震や天災があっても、資金も人材も機材も豊富にあるのに復興が何であんなに遅いのよ」


「この時代の批判をしにやってきたのかよ」


「それは違うはずだったんだけど、どうしても比べてしまうんだよ」


「そうかよ。でも、俺も自分の生きている時代を基準にして考えていたことは謝る。すいませんでした」


穂乃花の流している涙に翼は気付いていた。


「私情を挟んでしまって、こちらもすいませんでした」


鼻水と涙を拭いて、気持ちも整えた後、穂乃花も翼と会場の客席に向って、謝罪をした。


穂乃花と翼のやりとりに自然と会場から拍手が起こった。


「講演前にいろいろとあり、申し訳ありませんでした」


穂乃花が椅子から立ち上がり、深々と頭を下げた。


「お嬢さん、考えさせられる討論だったよ」


「違う、お前討論じゃないって、討論ってこれからだろ?」


「いや、討論じゃなく、講演だって、講演」


「そうか講演か。ところで何の講演?」


「それは俺も知らねぇ」


「始まれば、分かるか」


「だぁな。講演を期待しているよ」


「無限に拡がっている講演を聞かせてくれ」


「俺たちがしゃべってたら始まるものは始まらねぇ」


「ちがいねぇ」


会場から笑いが起きたがその静まったタイミングを見計らって穂乃花が話始める。


「本日の講演の本当のテーマは水没社会についてです。本日はアシスタントに日本国科学庁長官の藤野昌幸さんにも来ていただいております」


「本日はご来場いただきありがとうございます。これから講演に移りますがこの時間を有意義なものにされるかどうかはご来場された皆さん次第であり、お任せします。講演の中で疑問質問があれば、お答えしながら進行していきたいと思いますのでぜひご参加ください。あまりTVなどには出ませんが私のことを知っておられる方もいるかもしれません。しかし、本日は一国民の藤野昌幸という立場でここに来ています。先ほどの事がありますので講演前に15分の休憩を取りたいと思いますのでトイレや休憩、ご連絡など入れたい方はこの時間をお使いください。なお、時間内にお戻りになれない方は二度とこの会場には入れませんのでご注意ください」


講演前のやりとりには仕掛けがあった。正確には講演に際してさらに選ばれる人が減るということだ。


誠一や翼、穂乃花のやり取りを聞いて、心の中が変化する人がいる。どういう心の変化を意味するのかは不明だがそれをルコラが判断する。


「翼君、少しいいかな」


ペットボトルのお茶を飲みながら休憩している翼に穂乃花が話しかけてきた。


「ここさぁ、まじでスマホ使えないんだな」


「ルコラの力が効いてるから無理だよ。それにこの空間自体、翼君の生きている時代じゃないかも」


「お前、怖いこと言うなよ。そういう不思議な現象みたいなもの、信じてるけど、苦手なんだよ」


「信じてるけど苦手って、今ここにいる私もその現象の証明のような存在だよね」


「お前はあれだ。見るからに学生だし、宇宙人やUMAのように怖くはない」


「これ、預かってきてる。ルコとしての仕事なのでお渡しします」


「未来からの預かり物ってなんだよ」


そういうと、翼は穂乃花から一枚の金貨を受け取った。


「これ本物の金貨じゃねぇの。売ると高そうだな」


「あんたの持ち物だから売るなり捨てるなりすれば」


何故か、急に怒り出した穂乃花。


「おいおい、冗談に決まってるだろ。お前は人間湯沸かし器か。それだけ感情豊かなままなのか。未来でも人間は変わらないんだな。いや、今の人間の方が感情貯めているやつが多いかもなしれないな」


「湯沸かし器なんて存在しないけど、名前どおりに何となく想像はついたわ」


「それより、あのテーマって」


「そう、そのテーマ。あんたはどう思った?」


「どうって、そのままじゃねぇの?それより、いつの間にあんたに降格したんだ、俺」


「親しみを込めて」


「なら、俺もお前な」


「拒否します」


「拒否するな」


「時間が無いからそれについてはまた後で。今は私の質問に答えて」


穂乃花は焦り始めていた。


「うーん、急に言われてもなぁ。そんな未来が来てほしくないと思う!で、いいか」


「そうだよね。人類隆盛時代を謳歌してるんだもんね。水没世界って言われてもピンと来ないよね」


「お前何か凄く難しい言葉を使ってないか。でも薄々はそうなるのかもしれないとは思ってるよ。世界中、ニュースでやってるもんな、海面の上昇。北極や南極の氷も溶け出してるってTVで見たことあるけど、正直、日本や俺に直接どういう影響するのか、考えても、お前の言うとおりピンと来ない」


「だよね、でも、氷が溶け出して、海面の上昇と水温の低温化が同時に起こっているってことは知ってる?」


「温暖化じゃなくて、低温化?」


「これから世界は寒気に陥ることになるのよ」


「本気で言ってるのかよ。日本じゃ温暖化温暖化ってうるさいぞ」


「これを見て。温暖化よりも寒冷化になると言っている世界の学者の比率」


「温暖化の割合少なすぎないか」


穂乃花に比率のグラフを見せられてもしっくり来ない表情をしている翼。


「日本国内のニュースではそういう部分をクローズアップしてないのか」


何故なんだろう?という顔をした穂乃花。


「台風やゲリラ豪雨が起きれば何でも温暖化がって言っているから俺もそう思い込んでいるのかもな」


「インターネット含めて、メディア全盛期の時代だと伝える情報と受け取る側のやりとりで完結するわけじゃなくて、その後興味のあることは幾らでも調べられるのにもったいない」


「この世界の人間も毎日に追われて、追いついていないんじゃねぇか。自分の問題も解決しないまま、国内だとか海外だとか自然災害とか戦争とか大きな問題をニュースやネットで流されてもコンピュータじゃないから頭の中で全てを処理し切れるわけじゃないし、ぶっちゃけると興味のあることに偏るだろうな」


「あんたって外見に反して文武両道なタイプなんだね」


「立場って言うもんもあるからな」


「高校生でオリンピック代表候補か。凄いな」


「お前だって、高校生で国の仕事就いてるんだろ。そっちのがすげぇよ」


「それと、この子なんだけど」


「ルコラだよな。少し触ってもいいか」


「喜んで」


「お前が喜んでどうするんだよ」


「ルコラの表情を翻訳してみたんだけど」


「いや、そういう風には見えん。いやさっき、ほんの一瞬だけど微笑んだかも」


「ええーっ。ルコラが微笑んだと」


「気のせいかもしれないけどな」


「もし微笑んでいたら世界最初の事例だよ」


「お前は大げさだな」


「いや、ルコラの祝福という名前を付けよう」


「お前、ネーミング浮かぶの早くねぇか」


「実は前から決めていました」


「そうですか。ところでルコラが怒った顔をしたらどういうの考えていたんだ」


「ルコラの激怒」


「そのまんまかよ」


「かっこいいじゃん、ルコラの激怒だぁー」


「それ、お前が叫びたいだけじゃねぇの」


「その通りだけど、それが何か?」


「元気だな、お前。そういうの疲れないか?」


「うんうん、大丈夫。ルコラが来てから私のパワーは全開爆発中♪」


「キャラまで変わってきてるし」


「翼君」


「改まって何だよ」


「この時代を一緒に守ってほしい」


「あのなぁ、いきなりその急展開にどうついていけと」


「ルコラって神様のような存在なんだけどね。その逆もいるの」


「その辺は未来も変わりなんだな」


「どういうこと?」


「神様がいれば、悪魔がいる。陰と陽の対極の存在が必ず存在する」


「文武両道に加えて、ミステリーマニア来たー、うるうる」


「うるうるって、心の声が言葉になってるぞ。それより、そろそろ講演じゃねぇの」


「その講演がね、戦いの場になるんだよ」


「心の声にはスルーかよ。それとさっきから何言っているのかよく分かんねぇ」


「ごめん。また急な話だよね」


「そうだな。展開が早すぎて、処理しきれてねぇ。ただお前のいうことが本当なのかもしれないっていう雰囲気はさっきからこの会場から漂ってきてるな」





(穂乃花が翼と話をしている時、藤野は宮前と話をしていた)





「宮前区長、あなたの悩みは私が解決することになっています」


「藤野さん、あなたには見えているんですね」


「ええ、申し訳ありませんが」


「いえ、私1人で抱えている問題ではないのは分かっていますが」


「それも神崎君の力で明日からも着実に変化していきますよ」


「区長として私に出来ることは少ない」


「私自身もここで生まれました。絆と結束力を子供の頃から肌で感じて生きてきた江戸っ子の1人です。何故、ルコラが私をルコに選んだのかは私自身にもまだ分かりません。ただ今の役職もルコラの導きなんだと思ってはいますし、これだけは言えます。今の役職でなかったとしても藤野昌幸という私自身は何一つ迷いもありませんし、変わりません。未来も選択により、絶えず変化します。その事に迷うことはいいですが恐れて踏み出せないままでは失敗も成功も出来ないということです」


藤野の言葉にそれでも宮前は悩んでいるようだ。


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