よもぎ興奮
それよかまだ食えるのかよ。本当すげーな。その細い身体のどこに入ってんの? 教えて? ワクワクさん!
「マジかよ。考えられん」
「なんでよ、デザートは別腹って言うでしょ」
「別腹にも限度があんだろ、ブラックホールか」
「そうかも」なずなはくすっと笑った。
勇気を出して言ってよかった。なんかまた怒られるパターンかと思ってたから。それにしても絵になるな。
「そんで、この後どうする?」
「よもぎは、行きたい所があるの!」ぎんを見つめる。
「どこだよ?」
「アニメイト!」そう言いながら看板を指さした。
「確か……アニメのグッズやら、漫画やらが売ってる所だっけ?」
二回くらいまさと行った事あるんだよなー。確か、あの漫画が出てるだろうから丁度いいか。それにしてもよもぎの奴。急に元気になったな。
「何そこ、全然知らない」
まぁ、なずなは知らないだろうな。こいつそういうのとは無縁の女だから。
中学まで空手一筋だったし。なんで高校ではやらないんだろう……今度聞いてみるか。
「知らないとか、人生損してるの。なずなも行くの!」
「そうなの? じゃあー、行こうかな」
「うん! 行こう、行こう」
よもぎは立ち上がって、ぴょんぴょん跳ねる。
「じゃあ、行くか!」
「先行っちゃうよー。早く早く」
どんだけ行きたいんだよ。そんなに急がなくても建物は逃げないで待っててくれるから。大丈夫。だからゆっくり行こう。そうしよう。
「いってらー」ぎんは手を軽く振った。
「よもぎちゃん、元気だね」
クレープのおかげでなずなの機嫌がだいぶよくなったな。クレープ様々。また食べに来るんでそん時はよろしくお願いします!
「本当だな。子供かよ」
今まで見た中で一番生き生きしてんな。たいして見てないけど昨日と今日でニ日の付き合いだしな。なんかもう普通に会話してるあたり、俺ってコミュ力高いんじゃね。何も言うな。わかってる。
「小さくて、かわいい」なずなはぼそっと言った。
なずなの口からかわいいって言葉が出るなんて、まさかロリコンなのか? それはないと思うけど……今まで長い事付き合ってきたけどそんな片鱗見せた事がない。
「はーやーくー!」
よもぎが後ろ向きになり大声で呼んでいる。
「うるせーな。わかったって」
「待ってよ。ぎん!」
二人でよもぎの元まで走った。
「遅いよ! 早く早く」
よもぎは足踏みしている。今にも走りだしそうだ。
「近いんだからゆっくり行けばいいだろ」
どんだけ好きなんだよ。まさかオタクってやつか?
「よもぎちゃん。そんな行きたいなら、先行っててもいいよ」
「わかった! 行って来るの!」
そう言い残し物凄い速さで走っていた。
「はやっ、もう見えねー」
「本当だね。ーーあんなになる程楽しい所なの?」
なずなは小首をかしげた。
「うーん……人によるんじゃね? 好きな人は死ぬ程好きだろうな」
「ぎんは? 好きなの?」
「まぁ、普通かな。なずなは漫画とか読まないからつまんないかもな」
「そっかあ」
そんな話をしながら歩いたら五分程で着いた。
なずなは一通り周りを見回すと、口を開いた。
「なんかいっぱい本がある。本しかないの?」
「確か、二階にグッズとかあんだよ」
俺の記憶が正しければだけどもうー年くらい来てなかったからな。変わってたら俺のせいじゃない。 ーー店長のせい。
「じゃあ、二階行ってみよう」
「別にいいけど、知ってるもんなんてないだろ」
てかよもぎの奴全然いないじゃんか、どこ行ったんだよ。まさか迷子か? そんな訳ないよな。そんな広くもないしいくらなんでも考えすぎか。
そもそもなんで俺があいつの心配なんてしなきゃならないんだよ。リアル妹でもあるまいし。
「いいから行くよ」
なずなに手を掴まれそのまま二階に上がって少し歩くと、なずなが宣伝TVを指さした。
「あー、これ知ってる」
「そ、それは!」
なずなとぎんは驚いて後ろを向いた。
「なんだ。よもぎちゃんか、驚かさないでよ」
「本当だよ。心臓止まるわ」
マジでやめろよ。ビビリなんだから、気をつけろよな。とかカッコ悪くて言えない。別にカッコつけたいとかではないんだけど、カッコ悪いのはちょっと。
一応思春期なんで女に良く見せたいみたいな気持ちは少しはあるんで、いや少しじゃないです。かなりです! 自分、男ですから。
「ごめんなの。で、それなんだけど、今大人気の『モンゴリアン先生に恋しよう』もうアニメ化もしていて、二期も決まってるという、今一番売れてるラノベなんだよ。なずなも知っていたとは、いい趣味してるの」
どんだけ詳しいんだよ。あれか、あれだな。オタクなんだな。はい確定。でモンゴリアン先生ってなんなんだよ……観てみてぇ……。
「いや、CMで見ただけなんだよね」
「そ、そうなんだ。そっかあ……」
なずなさん、もっと空気を読んで言いなさいよ。俺はわかってたよ。この空気を支配できるほどには。
よもぎがいくらなんでも可哀想だろ。あんなに食いついたのに。きっと、天国から地獄に落とされた気分だぞ。
「あっこれ」ぎんはライトノベルを手に取った。
「ーー面白そうじゃん! 買っちゃおうかなー?」あざとく言った。