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駅前へ


 なんか友情芽生えちゃってるんですけどー。なずなも満更じゃない顔してるんですけどー。なんか違和感があるけど気のせいだよな?

 いつの間にか、こいつに俺の周りが侵食されている気がするんだけど……冬でもないのに寒気がするな。早く帰りたい。


「なんか握手してるところ悪いんだけど、もう帰らない?」


「帰るって、昼間の事覚えてるよね?」


 そんな目で見ないで、溶けちゃうから。本当に溶けるよ? 溶けて見せてもいいんだぜ? スライムみたいに。

 あぁ、また忘れてた。あれもこれも奴のせいなのは確かだ。


「ーー覚えてるに決まってるじゃん!」


「だよね。びっくりさせないでよ。ーー行く所決めといたんだ。駅前のクレープ屋今日半額なんだって。早く行こう」


 そんなに楽しみにしてたのかよ。場所まで決めちゃって、かわいいじゃねーか。このこのー! いやいや知ってますよ。奢ってもらうから楽しみって事ですよね。

 言っとくけど勘違いなんてしてないから。そんなのわかるから。俺を誰だと思っていやがる!


「半額なの! よもぎも行くー」


 よもぎも女の子なんだなと、おじいちゃんの様な暖かい目で見てしまった。


「よもぎも行くのかよ!」よもぎの方を見ると、うんうんと頷いている。

「ーーそれにしても半額は、奢る側からすると最高だな。そんじゃ、行くか!」


 歩こうとした瞬間。いや正確に言うともう踏み出していた。そんな俺になずなが立ち止まったまま言った。


「何言ってんの? 半額だから、二つでしょ?」


 鋭い。何その鋭さ。そんな鋭く切り込んでこれんの? 今踏み出しちゃったよ半分以上。ってか踏み出してた。この流れをよく止めたな? 流石っす、先輩。


「ですよねー。なずなは相変わらず、鬼畜だなー」


 ぎんはできるだけ、嫌味にならないように言った。


「何か言った?」ギロっと睨まれる。


「いえ何も」ぎんは小さくなった。


「そう。ならいいけど。じゃあ行こう」


「お、おう」


 先頭のなずな様、いやなずな女王様に、ぎんはおずおずとついて行く。


「はーい」と言ったよもぎも、スキップ混じりで二人について行く。何その動きかわいいんだけど、と不覚にも思ってしまい、あいつはおっさん。あいつはおっさん。と心の中で呪文を唱えた。


 たわいのない話をしながら、時になずな女王様の機嫌を伺い。何かしでかしそうな変人よもぎの行動に目を向け。そんなこんなしていたら駅前のクレープ屋についた。


 クレープが焼けるほのかに甘い香り、すごくいい匂いだ! 実は俺は無類の甘党ではないのだが、クレープはわりかし好きだ。

 当然おかずクレープが好きなわけじゃないぞ。あのツナとか、ウィンナーとか入ってるやつな。あれは邪道に見えるけど、食ってみるとあれはあれでうまい。だが、やはりクレープと言ったらアイス入りのチョコバナナ一択だろ。アイスが入ることで、生地のほどよい暖かさとアイスの冷たさ、それに王道ともよべるチョコバナナが交わり、口の中で三重奏を奏で、とてつもないハーモニーを生み出す。

 これを食べないと損するぞ! とまでは言えないが、食っといた方がいいぞとオススメはしたい。俺的にはクレープ界でナンバーワン。


 俺は当然のようにアイスをトッピングしたチョコバナナを、よもぎはいちごスペシャルを頼んだ。なんかすごく似合ってる。いちごスペシャルが世界一似合うかも、とか意味わからない妄想は置いといて、なずな女王様はチョコスペシャルとバナナチョコブラウニーを頼んだ。

 ダブルチョコかよと思わなくもなかった。それより本当に二個食べるんですね。そんなに食べれるんですかね。そんなに食べて太らないんですか? とは口が裂けても言えなかった。結局二つ奢らされる事になったと見せかけて三つ奢った。


 そうそこの小さい奴が「お兄ちゃんお願い。奢って?」とか上目遣いで言ってきて、何この可愛さ! とか思ったからでは決してない。奢らなかったら何をされるかわかったもんじゃないからだ。

 これは一種の脅迫のようなものなのだろう。


 三人で近くのベンチに座った。


「おいしー!」と食べるなずなさんは、ベンチに着くまでに一つ完食してしまった。どんだけ好きなんだよ。

 でも、その幸せそうな顔を見てると奢ったかいがあるってもんだ。


「これおいしー! お兄ちゃんすごいおいしいの!」


 よもぎは初めて食べたのか、やたらとテンションが高い。それにしても、もぐもぐ口いっぱいに含んで、お前はハムスターか。


「やはりうまい。うーん、うまい」


 ぎんは味わって食べていた。


 数分後、三人は殆ど会話をせずに食べ終えた。


 ご飯食べてる時って、人によって二つに分かれるよね。一つ目が騒がしい人。やたらと喋って、食べるのが遅いせいか冷めた料理をいつまでも食べてる人。二つ目が静かな人。ほぼ何も喋らず、料理を熱々のまま平らげる人。

 まぁ、例外もある。食べるのが早いかつ喋る。最強形態と言ってもいいだろう。

 俺はもちろん二つ目の方だが、この二人も同じなのだろう。


「マジうまかったー」ぎんは腹を撫でた。


「本当美味しかった! お兄ちゃん。ありがとう!」


 よもぎはにこっと笑った。裏表のない本当の笑顔だった。キュンとしかけた自分を殴った。心の中で。


「おう、よかったな。ーーなずなは?」


 なんか少しだけ気まずいから、なずなに振った。


「うん。美味しかった。もう一つ食べたいくらい」


 なずなはまだ余韻に浸っている表情だった。

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