土曜日という至福の日③
映画館を後にした二人はある場所へと向かった。同じ施設内なのですぐ目的地に到着。
ぎんは自信たっぷりな表情でよもぎに投げ掛ける。
「ここが、レジャーランドだ!」
「ふーん」
「なんだよ。その反応は。いろんなスポーツができるんだぞ!」
「この格好でスポーツやりたくないの」
よもぎはワンピースの裾を掴み、本当に嫌そうな表情だ。その態度と自分の浅はかな考えに耐えきれず、ぎんは血を吐き倒れる。
「ひでぶっ!」
「お前はもう詰んでいる!」
そうキメ顔で言い放つよもぎの極太眉毛に突っ込んでる場合ではない。どうにか興味を持って貰おうと話を進める。
「いや待て、その格好でもできるスポーツもあると思うし、よもぎはスポーツ好きだろ?」
瞼を閉じ、うー、と唸りながら考えるよもぎは、目を開けると複雑な表情で答える。
「ーー普通なの」
「普通なのかよ! あんなに運動神経いいのにか?」
「だからなの。そもそもお兄ちゃんじゃ相手にならないの」
偉そうに吐き捨てるよもぎに、ぎんは喰いさがる。
「今のは聞き捨てならないな。俺を甘く見ると痛い目を見るぞ!」
ついに俺の本気を出す時が来たようだな。目にもの見せてやる。
ぎんが闘志を燃やしていると、それを見るよもぎの瞳は輝いていた。どこかワクワクした表情で言う。
「いつにもなく燃えてるの」
「まぁな。それじゃあ勝負だ」
かかって来いよと今にも言いそうなぎんに、よもぎは冷静に答える。
「やるとは一言も言ってないの」
「やらんのかーい!」
あの展開からやらないという選択肢があるのか。なんて、恐ろしい子。
コケそうになってるぎんに、よもぎは追い討ちをかける一言。
「やらないの」
「待て。せっかくだからやろう」
「えー」
「逃げるのか? なら俺の不戦勝だな」
ーーどうだ乗ってこいよ!
「そんな軽い挑発によもぎが乗ると、いつから錯覚していた?」
「な、なんだと!」
素で驚いてしまった。まさか俺の心の声はいつも筒抜けだったのか? だとしたらもうお嫁にいけない。ドラム缶に入れてどこかの貨物船に乗せてくれ。遠くへ行きたい。今すぐに……。
ぎんが今後の事を真剣に考えていると、よもぎは上から目線で声を上げる。
「そのオーバーリアクションに免じて遊んであげてもいいの」
「すごい上から目線だな」
「嫌ならいいの」
「嫌とは言ってないから、せっかくだからやろうぜ」
「しょうがないの。軽く揉んでやるの」
何故か俺が物凄いレジャー施設で遊びたい少年みたいになってるけど、これ本当にデートだよね? 俺はお前が行きたいって言うから連れてきたのに、なんだろう。この虚無感。
渋々といった表情のよもぎを連れ、お金を払い入場する。室内に入るとすぐに大きなマップがあった。各場所で何ができるか書いてある。テニス、バッティング、バスケ、バドミントンと様々なスポーツで遊べるらしい。よもぎはスカートにヒールなので、できるだけ激しくないモノで勝負する事になった。
まずは、靴が借りられるのでボウリングで勝負をした。300対150で余裕で負けた。そもそも300ってパーフェクトだからな。良くて同点にしかならないから! 俺だって頑張ったんだよ。なのに、この子の優雅な構えから繰り出されるボールはフック回転が掛かり、常に同じ起動でヘッドピンを捉える。最早機械だと思ったよ。このまま向こうのペースに乗せるわけには行かないと、お次はダーツを選んだ。昔かじったことがあるので自信があった。ただ甘かった。よもぎはまたもや機械のようなフォームで打ち出されるダーツは放物線を描き、狙った場所を的確に捉える。全く勝負にならない。これも惨敗。
こいつはもう人の領域の遥か上にいる。そもそも勝負にもなっていなかった。だが、俺にだって意地がある。こうなったらあれしかないと、卓球を選んだ。靴は借りられたので安心。今日よもぎの服装はワンピースだ。ここが俺の狙いだった。
卓球は親しみやすいスポーツ。子供からお年寄りまで、誰でもできるスポーツとして有名だが、このスポーツの本当の怖さを知る人は少ない。卓球とはスポーツの中でもかなり激しく動くスポーツだと俺は思っている。あんな小さいテーブルの上で球を打ち合う。しかもプロになると球の速度は200キロ近くまで出る。そんなスポーツが激しくない訳がない。俺はプロではないが、卓球だけには途轍もない自信を持っていた。今のよもぎが俺の動きについて来ようとしたら、大変なことになるだろう。ずるいと言われても構わない。あいつに一泡吹かせられるかもしれないんだ。
ついにこの時が来た。




