修羅場かも
本当こいつらと居ると飽きない。うざい事も沢山あるけどなんだかんだ居心地がいいんだ。だからなのか、今は他に何もいらないと思ってしまう。
なずなは不愉快そうな表情で言い放つ。
「ほんと勘弁してよ! こんなサルと仲がいいなんて、妊娠したらどうすんのよ」
まさしが机から身を乗り出す。
「おい! 誰が万年発情期のサルだって⁉」
なずなは片手を机につくと、まさしの目をまじまじと見た。
「そんな事、言ってないんだけど。やっぱりサルは脳みそが少ないのかしらね」
これ火花散ってね? 俺には見える。気のせいか……それにしても毎度懲りずによくやるよな。ぎんは頬杖をつくとため息を漏らした。
「サルをなめるんじゃねーよ! てかそもそも俺はサルじゃねー。毎度毎度同じ事を言わせるな。お前こそサルなんじゃねーのか」
癇に障ったのか、右ストレートをまさしの頬にかすらせた。そして殺人者のような目付きで言った。
「次は当てる! 絶対外さない気がするわ」
いやそれはダメでしょ。友達をそんな目で見たら流石のまさだって可哀想だよ。泣いちゃうよ。まさ泣いちゃうよ。いいの?
まさしはタジタジしながらも指をさした。
「お、お、俺が、そ、そのぐらいで、び、びびると、思ってんのか、こら」
だったら何故に、お前は引けた腰のまま後退っているんだ。そう思ったが、俺にもわかってるぜ。あいつの怖さをなっ。だろ? まさよ。
なずなは、「ふーん」と言って手と首を鳴らし始めた。まさしはその姿を見てすかさず言う。
「すべてが嘘じゃ、嘘に決まっとろーが! なずな殿。拳という名の刀を、どうかその鞘に収めてはもらえぬか」
誰なんだよ! マジで誰なんだよ! まさ、お前どうしちまったんだよ。言いたくて仕方なかったが、言う前にチャイムが鳴った。
「サルのせいだ、責任取りなさいよ」
なずなが指をさした。
「なんで俺のせいなんだよ! 言い掛かりだ!」
まさしとなずなの間にまた火花が散っている。そんな場合じゃないだろう。マジでこいつら置いていこうかなと思ったが、やめといてやるよ。だって友達、だろ?
「そんな事言ってる場合か! 走るぞ」
二人に投げかけるとぎんは走った。
「待ってよ。ぎん」
なずなが長い髪を靡かせ、ぎんの後を追った。
「ぎん、待てこら」
まさしは何故か楽しそうに二人に続いた。そう、こいつは青春馬鹿なんだよな。
ホームルームが終わり席を立つと、隣の席のよもぎはもう囲まれていた。人気者は辛いっすね。とか思いながら見つからないように、帰るはずだったんだ。そこまでは完璧だった。非の打ち所がないそんな感じだったんだ。なのに、なのに、なのに、今俺の隣には、世にも恐ろしい妹もどきがいる。
そう、これが現実なんだ! 現実はこんなもんだ。知ってたけど、現実って残酷だ。
今俺は校舎を出てすぐの花壇の近くにいる。そう修羅場だ。何が修羅場かだって? そんなの俺が聞きたいくらいだ。
「ねー、あなた誰なの?」
なずなは冷えた目付きで見下ろしていた。それにしても女子同士で身長が二十センチも離れていると違和感すごいな。
「お兄ちゃんの妹。よもぎちゃんなの」
ぎんの腕を掴んで上目遣いで微笑んだ。
これはエグすぎる。よくわからんがこの場からすぐに逃げたい。そう今すぐに、走り出したい。俺は走るのは遅いが、今ならボルトより速く走れる気がするんだ。
「おい! ひっつくんじゃねーよ。ーー離れろって」
よもぎを振り解こうとするが無理だった。知ってた。俺にはどうする事も出来ないよ。
ーー俺は只のオモチャ。
「なに言ってんの? そんなの聞いた事もないんだけど? てかなんでくっ付いてんのよ!」
平静を装っているが、あのなずなが動揺している。長年付き合ってきた俺だからわかる。年に数回しか見れないぞ。激レアだ。写メろうかな……。
「そんなの知らなーい。お兄ちゃんはお兄ちゃんなの! お姉さんは、お兄ちゃんのなんなの?」
よもぎは首をかしげて、大きなお目目をパチパチさせた。
俺はよもぎに捕まって、なすがままの状態だ。なんか疲れたから黙って見届ける事にした。
ーーちょっと面白そうだし。
よもぎの言葉を聞いたなずなの様子が変だ。少し顔が赤い気がする。
「な、何って、友達よ、友達! それ以上でもそれ以下でもない!」
どこ向いて言ってるんですかー、とツッコミたくなってしまった。それにしてもなずなの奴、可笑しいな。
「ふーん。そっかあ、友達かー」人差し指で唇を触る。
「ーーこれからもお兄ちゃんと仲良くしてあげてほしいの。ついでによもぎとも」
ぎんの手から離れると、なずなに向かって会釈をした。上げた顔はあざとく微笑んでいた。
こいつ本当に抜け目ないな。ちゃっかり「私とも」とか、どんだけさりげなく仲良くなろうとしてんだよ。コミュ力高すぎだろ。
「そんなこと言われなくてもそうするつもりだから。それより、なんであなたとも仲良くしないといけないのよ」
なずなは本当に嫌そうな顔をしている。
「なんか楽しそうだからなの。いいでしょ?」
「まぁ、ぎんの妹だから別にいいけど……」
あのなずながそんなにあっさり受け入れるなんて。この妹もどき、神なのか?
「よかったのー! よろしくねお姉さん!」
なずなに駆け寄り笑顔で手を出した。
「よろしく」手を握り返した。
「それとお姉さんじゃなくて、なずなでいい」