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時が経つのは早い


 数週間後の朝、教室に着いたぎんとよもぎはいつものように瀧崎さんへと挨拶をする。


「瀧崎さん。おはよう」


「ことねちゃん。おはようなの」


「ーーおはようございます」


 前までは声も掛けられなかったのに、瀧崎さんが部員になってから、普通に声を掛けられるようになった。今でも少しは緊張するが、前に比べたら大したことはない。


 よもぎが小首を傾げる。


「今日は部活に来れるのん?」


「今日は行けますよ」


「了解なの。楽しみにしてるのん」


「うん。楽しみだね」


 ぎんは勇気を出して二人の会話に入り込む。


「瀧崎さんって、部活結構気に入ってるよな」


「うん。みんながいて楽しいと思う」


「そうだよなー。よかった」


「うん」


 はい。会話が終了しました。知り合いになったばかりの男女の会話なんてこんなものだよな?


 悲しみのあまり現実逃避をするぎんに、よもぎが小悪魔のように微笑む。


「お兄ちゃん。何がよかったのか、詳しく聞かせてもらってもいいですかな?」


 よもぎは探偵の真似をする。


「よくない。別に何もない」


 素っ気ない返事をすると、瀧崎さんにターゲットを変える。


「そこら辺、ことねちゃんはどう思いますかな?」


「あまりわからないかな」


「ふむ。あまりわからないと、そんなに可愛いのにわからないと?」


「よもぎちゃん! そ、そんな事ないから」


 よもぎが大きな声を出した事により周りの視線がいくらか集まる。頬を赤く染める瀧崎はうろたえつつ注意をする。だが、その程度でよもぎは止まらない。


「これは失敬。でも、不思議に思うことがあるのです。なぜ、そこまでの美貌を持っていながらこそこそ隠れているのですかな?」


 吾郎君のストレートのようにど直球で聞く。


「そ、そんなことないよ。よもぎちゃんの冗談は面白いなー」


 誤魔化そうとする瀧崎さんの目は泳いでいる。


「ふむ。そういう事ならこっちにも考えがあります。今日の部活が楽しみですな」


 何かを企んでいるのだろう。よもぎはかなり悪い顔をしている。


 今日もいじられる瀧崎さんの天敵は、やはりよもぎなのだと再確認した。



ーーーーーーーー



「どう? お兄ちゃん。欲情しそうなの?」


「し、しねーわ」


 放課後、部室でメイド服に着替えたよもぎが悩殺ポーズでウィンクをしてくるが、ぎんは目を逸らしている。


 なんでこんな事になってるのかと言うと、俺にもわからない。まさと話していたから、よもぎと瀧崎さんには先に部室へと行ってもらった。だからその先は全くわからない。部室に入ると既にこの状況だった。


 ソファーで寛いでいるなずなが口を開く。


「よもぎちゃん。すごい似合ってる」


 なずなの言う通りかなり似合っている。ぴったりとしたメイド服なので、有り余る胸が強調されている。それに、スカートとニーハイとの隙間に一本ずつの白い縦線。そうさ、ガーターベルトだ。これ以上は言わずもがな。もし語ろうとすれば作文用紙一枚分じゃ収まらないからな。


 よもぎは微笑むと小首を傾げる。


「ありがとうなの。なずなも着てみる?」


「私はいい」


 なずなの顔には絶対にやらないと書いてある。


「残念なの」


 俯くよもぎはキリッとした目付きになるとカーテンの所に目をやる。


「ーーそれより、そんな所に隠れてないで出てくるの」


「む、無理です……」


 カーテンが喋っている。よもぎはカーテンに向かって呪文の言葉を口にする。


「フ、ラ、ン、ス、パ、ン」


「それはだめぇー」


「召喚成功なの」


 そこに現れたのはエルフのコスプレをした瀧崎さんだった。服は露出が多めで、胸の部分がパックリ開いている。そのせいで控えめな胸でも谷間が見える程だ。前髪は分けられており、いつもはあまり見えない表情が露わになる。整った顔と純白の肌が衣装にマッチしていて、つい見惚れてしまう。


 美しさのあまり言葉を失ったぎんは本音が出てしまう。


「可愛いーー」


 黒田残念だったな。今日発売の新作ゲームなんて買ってる場合じゃないぞ。今日はサービス回だ。


「ーーそ、そんな事ないです」


 瀧崎さんはカーッと耳まで真っ赤になり俯く。その姿を見てやっと自分がやってしまった事を理解した。なんとか誤魔化そうと声を出そうとするがその前に罵声が聞こえる。

 

「変態」


「すっとこどっこい」


 なずなとよもぎの言動に冷静さを取り戻す。


「ーーなんでそんなにもディスってくるんだよ」


 今思うと感想を言っただけだから俺は悪くない。そもそも瀧崎さんはメイド喫茶で働いてるんだから可愛いとか言われるのに慣れてるはず。そんなに気にしてないだろう。なのでガン見しても問題あるまい。ジィィィッ。


 ぎんの気持ちなど関係なしに二人は更に言う。


「目つきがいやらしいから」


「すっとがどっこいだからなの」


「そ、そんな事ないから、疚しい気持ちなんて一切ないから」


 疚しい気持ちなんて、ないもん。ジィィィッ。


「それは男としてどうかと思う」


「それは男としてすっとこどっこいだと思うの」


「どっちなんだよ。何が正しいんだよ」


 何を言っても有罪とは理不尽この上ない。後はさっきから頭がおかしいやつが混じってやがる。


「正解は、ないのかもしれないわね」


「世界は、すっとこどっこいなの」


「ぶふっ」


 無言で俯いていた瀧崎さんが吹いた。ぎんは心配そうに尋ねる。


「た、瀧崎さん? 大丈夫?」


「う、うん。だ、大丈夫っ、ぶふっふふふはははははは。お腹痛い。ーー助けて、ーーふっふふははは」


 腹を抑えて涙目になる程に笑っている。今にも床を転げ回る勢いだ。その姿を見てよもぎとなずなは視線でハイタッチをする。


 瀧崎さんがこんな笑ってるところは初めて見た。よもぎとなずな様々だな。


「ことねちゃんスマイル作戦成功なの」


「上手くいったね」


「ーーああ、上手くいったな」


 ぎんが白々しく言うと、当然のように批判される。


「お兄ちゃんはこの作戦知らないはずなの」


「手柄を横取りするなんて、最低」


「いやいや、乗っかっただけでそれは酷いんじゃないか。仲間に入れてくれよ」


 確かに俺が悪かったかもしれないけど言いすぎじゃないかな。特になずなさん。


「ことねちゃんの好感度を上げようとしてるのが見え見えなの」


「どうせ、いやらしいことでも考えてるんでしょ」


「ーーそうなんですか?」


 敵が一人増えちゃったよ。しかもそんなまじまじと見ないでくれ。穴が空いちゃうよおおおおっ。ーーここはどうにかして切り抜けないと。


「ーーそんな訳ないじゃん。俺に限って」


「自分で言うとか面白すぎるの」


「呆れた」


「珍しいですね」


 よもぎ以外の反応は最低である。なずなの好感度なんてどれ程下がろうが気にしないけど瀧崎さんはちょっと、しかも珍しいって、涙出そう。


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