人気者?
あっという間に時間が過ぎ昼休みになった。
よもぎの周りには授業が終わるたびに、クラス中の奴らが群がっていた。そりゃあ見た目もいいし、愛想もいいから、一気にクラスの人気者と化した。
転入生っていうのは特別で、それだけでも人が集まったりするものだ。実はよく知らないがきっとそうだと思う。
皆すぐにこいつの本性を知る事になるだろう。ていうか知ってください。
さっきから俺に突き刺さるような視線を浴びせてくる男子が多いのですが、完全によもぎのせいだろう。一応妹って事になってるし、勘弁してほしい。
俺は友達が少ない。いやね、別に友達がいっぱいいるから偉いとかないと思うんだよ。だってそうだろ? こいつら大人になったら会わない奴らばかりだろ? だから俺は極力友達を作らないだけだ。
煩わしいのはごめんだ。俺は狭く深くをモットーに生きてる。そんな自分が嫌いじゃない。
友達と呼べるのは二人ほど。前の席のまさ、それと違うクラスのなずなだ。それ以外とは軽いコミュニケーションしかとらない。あれだ、社交辞令みたいなもんだ。
一応馴染んでおかないと色々面倒だし、だからよもぎの存在自体が不愉快だ。
あの完璧な容姿と愛想。今に剥がれ落ちると思うが、でも当分は注目の的だろう。
どうにか切り抜けないと、矢面に立つのだけは避けなければ。
まずはさっきあの馬鹿が言った事を、まさにだけは説明する事にした。まずは内側からだ。
「おいまさ」
「おう、なんだ?」
肩を掴むとまさしが振り向いた。ぎんは真面目な顔で説明を始めた。
「さっきの事なんだが誤解だからな。俺からはあいつに指一本触れてない」
「ほほう」顎をこする。
「俺からって事は、よもぎちゃんからは触りまくられてると、そういう事か……」
まさしにギロっと睨まれたぎんは慌てて誤解を解く。
「いや待て、誤解だ。触りまくられてる訳じゃないし、仲も良くない。本当なんだ」
いやマジで本当なんですけどね。だって昨日妹になったんですから。こいつらなんで気づかないんだよ。全然似てないだろ、しかもなんで双子設定なんだよ。馬鹿なの? 死ぬの?
まさしは後頭部を掻きながら笑った。なんかむかつく。
「あっはははははは、だよなー。お前みたいなモブみたいな奴、妹でも願い下げだよなー」
てめぇにだけはモブ扱いされたくないけどな。まぁ、わかってくれたならいいか。
「うっせ、お前もモブだろ。いやモブ大臣まである。ーーやっべ学食行かないと、まさ置いてくぞ」
ぎんは時計を見て急に立ち上がり走り出した。
「おい、待てって。俺も行く。てか、モブ大臣ってなんなんだ……おいぎん! ーーモブ大臣ってなんなんだよーーー!」
ぎんに続いた。
奇跡と言うべきか、よもぎは奴らに囲まれて身動きが取れなかったらしい。
あいつに絡まれたら碌なことがなさそうだし、初めてクラスメイトに感謝した。ありがとう。
学食に着くと、ぎんはラーメン。まさしはカレーを頼んだ。二人は端の方の席に座った。
しょうもない雑談をしながら食べ終わり休憩していると、見覚えのある女が鬼の形相で走ってきた。
「ぎーーーーーーーん!!!」
「おっ! なずな。どうした⁉︎」
なんで怒ってるのかさっぱりわからない。
「どうしたじゃない! なんで先に食べちゃうのよ! 昨日一緒に食べようって言ったじゃない!」
こいつはさっき言った、吉水薺あだ名は特にない普通になずなだ。俺とは幼馴染だ。親同士も仲が良いから、俺もそこそこ仲がいい。まさとも普通程度には仲がいいと思う。
外見は一言で言えば美人。黒髪のロングヘアーで、すらっと伸びた手足。モデルみたいな体型だが、こいつには欠点がある。野蛮なんだ。特に男子には容赦がない。意味もなく男子を冷たい瞳で睨みつける。何かあればすぐに殴られる。女子には優しいのかというとそんな事もない。普通よりちょっと冷たいくらいだ。
そんな奴だけど俺達には優しい方、かな?
「そうだったっけ? 悪い悪い。今度なんか奢るからさ」
昨日の出来事のせいで完全に忘れていた。
「わかった。なら、今日の放課後奢って。約束だからね」
なずながすっと小指を出した。
「お、おう。今日な、約束だ」
急だなとも思ったが、俺が悪いんだからと小指を握った。
「ゆーびきりげんまんうそついたーら、こーろすっゆびきった!」
なずなはニコッと笑った。
「殺しちゃうのかよ! こえーよ」
笑顔で言うんじゃねーよ。漏らすかと思ったわ。
「今日もお熱いね、お二人さん」
まさしはテーブルの上に両肘を付き、組み合わせた両手の上に顎を置くと、わざとらしく微笑んだ。
「うるさいサル!」
出ました。なずなさん伝統の寸止め。
まさしは「きゅーん」と、かわいい、というかキモい声をあげて小さくなった。
「あの、寸止めやめてもらえません? 殴られるよりはマシなんですけど、寿命が縮まるんで、なずなさん?」
「無理。サル!」ギロっと睨んだ。
「そっそうっすよね。いつもの事っすもんね。ある意味、優しさ? みたいなもんですもんね」
まさしはやたら腰が低くなった。まさしにとってなずなは天敵なのである。
「そんなわけないでしょ。馬鹿ザル!」
なずなは冷たく吐き捨てた。それを聞いたまさしは我慢の限界なのか立ち上がった。
「おい! いい加減にしろよ。このアマ」
そんな二人にぎんは言った。
「その辺にしとけって。本当仲良いよな、お前ら」
「「どこがっ⁉︎」」
二人はハモった。机を叩く仕草まで同じだった。「そういうところがだよ」とぎんは皮肉っぽく言った。