勉強会の終わり
あそこまではよかった。自分を主人公なのかと、勘違いするぐらいに完璧だった。
そこからがグダグダで結局三位だった。順位は上から。なずな。よもぎ。ぎん。まさ。釈然としないが現実なんてこんなもんだ。
よもぎが「あきた。もうそろそろ勉強しない?」と言ったので大富豪は終わった。
そしてまた勉強タイムってわけだ。
なんだかボーっとしちゃって頭に何にも入らない。
ペンをクルクル回していると、よもぎが声をかけてきた。
「お兄ちゃん。元気ないの? どうしたの?」
「あー、なんかな。俺は惨めだなって」
「そんなことないの! よもぎが保証するの。だから元気だしてなのん」
妹は可愛くていい子だ。平凡マスターの俺には勿体無いくらいだ。
でもその優しさが、俺を惨めと言う名の世界へと導く。
「あぁ。ありがとな」
「テンション低いの……」
困った顔をしているのは珍しいなと見ていると、まさが意味深な顔で、よもぎに投げかける。
「ぎんのことはほっといてやってくれ、男にはそういう時があるんだ」
どういう時なんだよ。ーーどういう時なんだろ?
「そういうことならそうするの」
まさしの言葉でも簡単に信じてしまうほど、純粋なよもぎになずなが真剣な眼差しで言う。
「そんな簡単にお猿さんの話を信じちゃダメ」
「誰がサルやねん!」
「一人しかいないでしょ」
「ほんとだ。ウキィーって、やらすなぼけぇ」
流れるようなコントに見入ってしまった。
今日は喧嘩はしない日なのか、それも悪くない。
ぎんは一人頷いた。
「よもぎちゃん。お猿さん楽しそうね」
「ほんとなの。すごーい」
動物園に遊びに来た親子みたいになってるけど、今のぎんには関係ない話だ。
「ちょっ、よもぎちゃん? まさぴょんだよ? 覚えてるよね?」
まさしは焦った表情で自らを指差し、首を傾げていた。それを見てなずなは微笑むと、よもぎに投げかける。
「お猿さん日本語上手ねぇ」
「すごーい。賢いの! ーーはい、これどーぞ」
ポケットから出したバナナを笑顔であげる君を見ていると、ツッコむのを忘れてしまうよ。
「ありがとう……」
バナナを貰ったのに浮かない顔をしているお猿さん、じゃなくてまさを、もうそろそろ助すけようと思ったが、切り込む前になずなが優しい声で言う。
「お礼も言えるなんてすごいのねぇ」
「お利口さんだからもう一本あげるの」
笑顔でニ本目を渡す顔に、悪意なんてこれっぽっちも感じられない。まさは受け取るしかないだろう。
「……ありがとう」
「他に何か芸とかできるのかしらね?」
「多分できるの。あのお猿さんは特別だもん」
「あったりまえよ。俺をそこらへんのサルと一緒にするんじゃねぇ」
江戸っ子スタイルになったのはよくわかりません。今の俺じゃ、そのボケは捌き切れないとか思うだけで精一杯。
「何ができるのか楽しみね」
「楽しみー。お猿さん頑張るのん」
「それじゃあ……え〇りかずきのモノマネやります。ーーそんなこと言ったってしょうがないじゃないか」
「ぷっぷはははははははは」
つい似てたので笑ってしまった。二人はお気に召さなかったようで、真顔だった。
「それじゃあ、もうそろそろ帰りましょうか?」
「そうするの」
なずなは勉強道具をカバンに入れて、それを持つと立ち上がった。よもぎもそれに続いた。
「ーーバイバイ、お猿さん」
「ーーお猿さんとぎん。またね」
よもぎは名残惜しいのか、悲しげな顔で手を振る。なずなは軽く手を上げた。
「ーーバイ、バイ?」
「ーーおっ、おう?」
二人してぎこちなく手を上げる。
手を振り終えた二人は一緒に部屋を出た。階段を降りる音が聞こえる。
「何これ?」
「俺が聞きたい」
本当に聞きたい……普通に帰ったんですが、サルの件は帰る為の布石とか? そんなのいらねぇだろ。
「俺のえなりダメだった?」
「いや、最高に似てたけどな。お前あんなの隠し持ってたんだな」
「いざって時の為にな。滑ったけど……」
珍しくブルーな友達の肩を優しく掴んだ。
「気にすんなよ。あいつらは変人なんだから」
「……女ってわからん」
「だなぁ……」
二人ため息を吐いた後にまさしが言う。
「俺もそろそろ帰るかな」
「そうか」
まさしが勉強道具をカバンに入れ、それを持って立ち上がったのでぎんも一緒に立ち上がる。
「下まで送るよ」
「おう。そんで明日はどうするか」
二人で階段を降りる。
「どうするも何も、勉強しながらダラダラする」
「そうか。勝負忘れんなよ」
「こっちのセリフだ」
まさしが玄関で靴を履き終えた。よもぎの靴はないからなずなを送ったのだろう。
「そんじゃ、邪魔したな」
まさしが手を上げた。ぎんも上げ返す。
「おう。またな」
「おう。月曜日にまた会おう」
そう言って外へと消えていった。鍵を閉め自分の部屋に戻り、テーブルの上を片付けながら言う。
「マジで、なんだったの」
言わずにはいられなかった。あれが気になって今日は眠れないまである。
それがあいつらの手だとしたら、諸葛孔明もびっくりだろう。
女の子って、……不思議いっぱい。




