トランプ②
大富豪は順位で位が決まる。四人の場合は上から大富豪。富豪。貧民。大貧民。となる。
再び大貧民の俺がトランプをシャッフルし配った。
俺の手札にジョーカーが舞い降りた。最悪だ。大貧民の俺は大富豪に強カード二枚を渡さなければいけない。
貧民のまさはもう富豪のなずなとカードを交換している。
「さあ、強いカード渡してもらおうか」
よもぎは下卑た笑みを浮かべながら手を前に出した。逆らいたいが大貧民の俺にはどうすることもできない。
唯一できるとすれば唇を噛んで耐えることくらいだ。
「くっそ。受け取れ」
「ほうほう」
カードを受け取り見るや否や、ニヤリと笑った。
「大貧民の癖に中々良いカードを持っているじゃないか、それでは私からはこれをくれてやろう」
よもぎは汚物を見るような目でカードを差し出した。
こいつ、なりきりすぎだろう。むかつくわ。今に見てろよ。その座から引きずり降ろしてやる。
「ありがたく貰っておくよ」
貰ったカードは3♦と5♠だった。それを見た瞬間俺に雷が落ちた。これで5が四枚になった。革命を起こせる。ダメだ笑いを堪えろ。今ばれたら元もこうもない。平静を装え。
「それじゃ、大貧民の俺からいくぜ」6♦♥のダブルを出した。
ここは悟られないように普通に弱いのを出していく。
「その程度か」まさしは10♦♥のダブルを出した。
「縛りか……。パスで」
いきなりの縛りとは流石は大富豪と言ったところか。
「どうだ」よもぎはK♦♥のダブルを出した。
ドヤ顔のあいつを止めたいが出せるカードがない。
「パス」なずなは首を横に降る。
「大富豪は絶対だ」
そう言うとA♦♥のダブルを叩きつけた。皆はパスせざるを得なかった。
「では、ゆくぞ」6♠7♦8♣︎の階段を出した。
「じゃー、これで」9♠10♣︎J♣︎の階段を出した。
なずなは微笑んだ。そのカードを見てまさしは眉をひそめた。
「ちきしょう。パスだ」
「パス」
当然のことながらぎんはパスするしかない。
またよもぎの番になる。流石に出せないだろうと思い奴に視線を向けると、悪魔が降臨したかのと思うほど邪悪なオーラを放っていた。
「ひれ伏せ」
その一言と共にパラパラとカードを落とした。それを見て目を疑った。Q♠K♣︎A♣︎の階段だと……。
この卓は完全に大富豪に支配されている。当然これ以上のカードはないので皆パスをするまでもなく流した。
また大富豪の番だ。
「また私か、ではこれだ」7♥♠のダブルを出した。
完全に別人なのに誰も気にしないのはなんでだろう。俺は普通でこいつらが異常だからか。
「これで私から」8♦♠のダブルを出した。
8流しか。やはり大富豪に食らいつけるのは富豪という事か。カードを流しなずなの番。
「ここから私の快進撃が始まる」4♦♥♠のトリプルを出した。
トリプルか、快進撃と言うだけの事はある。というかみんなガチすぎて怖いよ。まさもなんか笑ってるし。
「ふっははははははは。甘いぜ」9♦♥♣︎のトリプルを出した。
「パス」
こいつらレべル違いすぎんだろう。こちとらパスしか言ってないわ。誰がオウムやねん。とか心の中でノリツッコミするぐらいしかやる事がない。
「パスだ」
流石の大富豪もパスか、そうかそうか。大富豪も人間ってことだな。そんな事を思っていたら、人間ならざる笑い声が聞こえた。
因みに今やっているゲームはただの大富豪です。
「きっききききききき。終わりよ」Q♦♥♣︎のトリプルを出した。
この世を本当に終わらせる奴の顔をしていたよ。まさはこの世の終わりを目の当たりにしたかのように、肩を落とした。
「パ……パスだ……」
それに続くようにして二人ともパス。カードを流してなずなが3♥を出して、まさが6♣︎出した。やっと俺のターン、いやずっと俺のターンだ。
「流させてもらうぜ」8♥を出した。
そう、この時をどれだけ待った事か。ずっと耐えて耐えてこの時の為だけに生きてきた。くらえ我が必殺の奥義。
「革命だあああああああああああああああああああ!」
5♠♦♥♣︎を叩きつけた。戦場が一瞬にして静まり返った。それは洞窟の中に一人で居るかの如く。その沈黙を破ったのは大富豪だった。
「き、貴様ー。謀ったな」
「こんな手を隠していたなんて」
「やるじゃねーか」
大富豪に続くようにして二人も言った。
「勝負はこれからだ」
俺はカードを流した。現状これより強い四枚はもう出せないからだ。
「それじゃいくぜ」K♠出した。
そうそれが一番のミスだった。奴がジョーカーをまだ切らないと思った俺が浅はかだった。と皆は思っているだろう。皆じゃなくてもあの大富豪はそう思っているはずだ。
大富豪は下卑た笑いをした後ジョーカーを叩きつけた。
「ふっはははははははははははは。ーーこれで私の勝ちだ」
そう言ってカードを流そうとしている大富豪の面を見ていると、おかしくて笑いそうになってしまった。全て俺の計算通りだったからだ。手札が少ない奴はジョーカー単体で切ると確信していた。
俺は自分の気持ちさえ偽った。俺の勝ちだ。見せてやる。単体のジョーカーに勝ち得る最強のカード。
「おっらあああああああああああああ!」
流そうとしたジョーカーの上に3♠を叩きつけた。




