四人で勉強会
二人の意思など関係ないのか、よもぎがテーブルの上に「ほいせ、ほいせ」とか言いながら勉強道具を広げ始めた。それを見て観念したのか、二人は静かになった。
広げ終わるとキラキラした瞳で言った。
「じゃじゃあーん」
腕を広げて、手をヒラヒラと机の上に向かって動かす。置いてあるの勉強道具だけじゃねーかよ。そういうのは誕生日ケーキの箱開けた時とかにやるんだよ。俺はやらねーけど。
この二人は何も言わずに苦笑いしているだけ、よもぎに甘すぎんだよ。俺は言うぞ。こんな自由人と一緒にやったら勉強にならなくなる。
「何がじゃじゃあーんだよ。勝手に始めんなよ」
「固いこと言っちゃだめなの」
「そうそう、みんなでやった方が楽しいしな」
「そうだね。始めようか」
謎の三対一。こいつのカリスマ性は半端じゃない。我が軍だったはずの二人が一週間もしない間に寝返っただと、そんな馬鹿な事が。
「そんな……」
ぎんはショックのあまり抜け殻のようになっていた。それを心配してか皆が言う。
「どうした? 体調でも悪いのか」
「大丈夫?」
「お兄ちゃん死なないで」
一人大げさな奴が混じってるが寝返った訳ではないようだ。寝返ったってよりも吸収されてしまったらしい。よもぎ軍恐るべし。
「いや、大丈夫だって。少し現実という名の大きな壁にぶち当たってただけだから」
「やっぱり、だめみたいなの」
「そうみたいね」
「ぎん! 戻ってコーイ」
「いやいや、ほんとに平気だから、早く始めようぜ」
「そうか? なら始めるか」
「なずなはよもぎの隣に座ってなの」
「うん。そもそも隣しか空いてないけど」
四人がテーブルに座るとかなり狭い。勉強道具もギリギリ置けるくらいだ。
「勉強って何すればいいんだ?」
まさが馬鹿なのは今に始まったことではないので驚きはしなかった。それにしてもよくうちの高校入れたよな。昔から運だけはあるんだよな。
「まず、苦手なのをやれ」何を思ったのか、急に口を押さえて目を反らす。
「ーーごめん。気付かなくて」
「おい。謝るんじゃねーよ。言いたいことぐらいわかるんだからな」
「ばれたか、なら言ってやる。全て苦手なんだから適当に選んで全部やれ」
「お、おう。はっきりと言われると中々堪えるな」
「お前にもまだそんな感情が、今からでも遅くないぞ。人間に戻れるぞ」
「誰がサルなんだこら」
なずなが笑いを堪えている。よもぎは黙々と勉強していて驚いた。
「そんな事言ってないだろ。早くやらないと日が暮れるぞ」
「わかったよ。やればいいんだろ」
「ジュースが掛かってる事忘れんなよ」
「その言葉そっくりそのままお返しするぜ」
お前の勝つ確率は、ほぼ皆無なのになんでそんなに強気なんだよ。なんかかっこいいな。
「掛けとかしてるの?」なずなが食いついた。
「まぁな」
「お前は入れんぞ。男と男の勝負なんだからな」
まさ、いいこと言った。こいつが加わったら、俺等がカモられるだけだからな。
「えー。減るもんじゃないんだから入れてよ」
「金が減るんだよ。しかも確実にだ」
なずなは昔から勝負事が好きなんだよな。こいつと戦って碌な記憶がない。思い出したくもない。
中学になった頃に俺は気づいた。本当に強い奴とは戦わずに逃げる、これが最善だということに。
ことわざに逃げるが勝ちという言葉があるように、逃げるが勝ちなのである。
「そうかな? やってみないとわからないと思うけど」
「おい。ぎん! なずなの言う通りだ。やってもないのに負けを認めてんじゃねーぞ」
「まさし、たまにいいこと言うんだよね」
「たまに、が、余計だけどな」
意気投合してんじゃねーか。何度も言うけどこいつらは友達だからね。それにしても厄介な……。
完全に追い詰められていた俺を見計らうようにして、冷たい声が響いた。
「みんな勉強は?」
助け船かと思ったら全然違った。静まり返ったこの空気をどうにかするためにまず俺が口を開いた。
「……よし。やるか」
「……私もやろう」
「……俺もやろっと」
「頑張るのー」
そう言ったよもぎは笑顔だった。てかどんだけ真面目なんだよ。氷の嬢王ですら少し固まってたからね。
みんなは黙々と勉強に励んだ。妙な一体感が生まれていた。
よもぎは頭も良く、聞くと丁寧に教えてくれた。本当になんでもできるんだなと感心してしまった。
まさとなずなも喧嘩せずにやっていた。時よりなずなが教えていたのにはびっくりしたが、友達なら当然のことだろう。
なんと平和なんだ。今日はいい日だ、とか思っていたらよもぎが意外な一言を口にした。
「あきたの」
俺を含め他の二人は唖然としていた。自由人の本気きたああああああっ! 心の声をぐっと押さえてから口を開いた。
「飽きたって。急だな」
「あきたもんはあきたの」
仰向けに寝転ぶと、やる気のない顔で天井を真っすぐ見ている。
「そんじゃ、ここらで休憩するか」
まさしは待ってましたと言わんばかりに便乗した。なずなも頷いている。
「そうね。結構やったからいいんじゃない?」
実際に二時間もやっていたし、俺達、いや、まさにしては上出来すぎる。後は三人が賛成なんだから断る理由がない。
「まぁ、いいけど」
バッと起き上がると、輝いた瞳で言った。
「トランプするの!」
「いいね。やろうぜ!」
「トランプか、懐かしいなー」
なずなはテーブルの上に両肘をつくと追想にふけっていた。
「ほんと、懐かしいな。かれこれ一年以上やってない気がする。ーーてかトランプどこにしまったっけ」
ぎんは立ち上がり、机の引き出し、押入れやらを探し始めた。




