いざ学校へ
「……んっ? もう朝か……昨日のはやっぱり夢か……」
背中が異様に暖かいような気がして寝返りをうつと、生まれたままの姿のよもぎが隣で寝ていた。
一気に目が覚めベッドから飛び降りた。
「お、おい。なんでここにいるんだ! 昨日自分の部屋で寝てたろ! てか、服はどうした? おい!」
寝てるよもぎに、朝っぱらから大声で怒鳴りつける。
「……うっ……もう朝なの? お兄ちゃん……おはよう……」
ゆっくりと上半身を起こす。
一瞬二つの山が見えた。意外に大きいとか思ってしまった。
少し前屈みになって目を手で隠しつつ声を荒げた。
「いやいや。おはようとかじゃなくて、服! なんで全裸なんだお前、じゃなくてよもぎは。馬鹿なんだな。やっぱりそうなんだな」
「……別に、いいでしょ……兄妹なんだから。大げさなの……」
何も気にせずそのまま立ち上がって背伸びをした。
必死に見ないように努力する。本当は見たい。男の子だもん。とか思わなくもないが、俺は紳士だ! 全力で目を瞑る。
「待て。全裸マン。大げさではない。もし兄妹だとしてもだ。全裸は可笑しい。絶対可笑しい。そもそも俺たちは本当の兄妹ではない」
よもぎと逆の方を向いて必死に言う。
「もーうるさいの……」目を擦る。
「本当の兄妹じゃないのは認めるの……なら、ヤっちゃう?」
よもぎは小首をかしげ、悪戯っぽく笑った。だがその顔はぎんには見えていなかった。
「お、お前。何がヤっちゃう? だ。馬鹿! 早く服着ろ。馬鹿!」
必死に壁に向かって罵倒する。
「冗談なの。冗談。今着ますよーだ」
「最初から着とけってんだよ」
服を着る音が生々しくて、なんかイイ。とか思ってしまったけどなんとか自重した。
「ーーそれよりお兄ちゃん。どこ向いて喋ってんの?」
「仕方ないだろ。目を瞑ってんだから」
目を開けてゆっくりと振り向いた。
「別に見てもいいのに、減るもんじゃないしー」
よもぎはぷーっとほっぺたを膨らましていた。不機嫌みたいだ。
「はいはい、そうですね。俺はもう学校行くから。ーーじゃーな」
「はーい」
なんかやけに物分かりがいいな。嫌な予感しかしないんだが、まぁいいか。
学校に行けばあいつもいないし、行きたいと思ったの久しぶりだわ。
「はーい。みんな席に座って。なんと今日は転入生がいます。ーー入っていいわよ」
一年三組。担任の中塚先生はドアを開ける。
中塚先生は二十代後半、女の先生。みんなと年が近い事もあって話しやすいのか、生徒の相談とか聞いてるみたいだ。
俺は相談しないけど。なんか恥ずかしいし、男が相談とかダサいし、あくまでイメージだけど。
だから俺はあまり喋った事はないが、きっといい先生なのだろう。
そこから現れたのは奴だった。あの宇宙人野郎。
クラス中がざわめく。「小さ〜い」「かわいーい」「お人形さんみたい」「やっば」「天使かよ」とか様々な声が聞こえた。
中塚先生が黒板を叩いて「静かに」と言うと、急に静かになった。
「それじゃ、自己紹介お願いね」
中塚先生はよもぎに微笑みかけた。よもぎは黒板に名前を書き自己紹介を始めた。
「今日からこの学校に転入する事になった、浅井よもぎです。皆さん仲良くしてください」
よもぎは満面の笑みを浮かべる。
またクラス中が騒がしくなった。
みんな騙されてるよ。あいつ見た目はいいが、中身は完全に変人だ。それより俺と同じ名字じゃねーか。妹だからって事か……あれ本当だったんだな。何かの間違いじゃなかったんだな。残念。
中塚先生は「そこの空いてる席」と指を差し言った。そこはおわかりだろう、王道の展開。そう、俺の隣だ。ふっざけんなよ。
よもぎは今にもスキップしそうな足取りで、ぎんの隣の席に座った。
「お兄ちゃん、よろしく」
その言葉を聞いてか周りがざわつく。
「おう、てかお兄ちゃんやめろ」
「おい、お前こんなかわいい妹いたのかよ! 羨ましいなー、このこの」
前の席の山岡優志ことまさが、わざとらしく膝で突っついてきた。まぁ、届いてはないんだけど。まさは小中高一緒の友達っていうか腐れ縁みたいな感じで、お調子者だけどなかなかいい奴だ。
制服をだらっと着こなし、明るめの茶髪。背丈は細かくは知らないが俺よりは少し小さい。体型は細身で、顔は地味にイケメンだ。
なんかむかつく。
「別にいいもんじゃねーよ」
まさしは後ろ向きに座りぎんの机の上に両手を置いた。
「そんな訳あるか」机を叩く。
「こんなかわいい妹と1つ屋根の下だぞ。どーせ、くんずほぐれつしてんだろーが!」
ぎんはため息をついた。
「そんな訳ないだろ。ばーか」
「昨日のお兄ちゃんは、激しかったのん」
よもぎはいきなり横から特大ミサイルをぶちかましてきた。周りがざわめく。そして視線が痛い。
まさしがグイっと食いついた。
「おい。どういう事だぎん! お前は妹に手を出す、変態シスコン野郎だったのか!」
「そんな訳ねーだろ。こんなの嘘に決まってんだろ。こういう奴なんだよ、よもぎは」
まさしは頬杖をつくとため息を吐いた。
「そんな風には見えないぞ。この変態シスコン野郎!」
よもぎがそうだそうだと軽く拳を二回つきあげた。それを見たまさしもよもぎの真似をする。かなりうざかったので、シカトしてたら授業が始まった。