まさとの帰り道
ホームルームが終わり。部活に入ってない俺はまさに一言だけ挨拶をし、すぐに帰る。それがいつもの俺の日課なのだが、テスト期間中は違う。
皆部活がない為、俺の数少ない友達の一人、まさと帰る事ができる。そこまで一緒に帰りたい訳ではないが、独りよりマシだ。よもぎはと言うと、ホームルームが終わってすぐにどこかへ駆けて行ってしまった。
まぁ、俺には関係ない話だ。
今日学校で起きた事。特に山田の話で盛り上がりながらだらだらと校門まで歩くと、少し前を歩いているまさが、質問を投げかけてきた。
「そんじゃあ、何して遊ぶか」
「やっぱり遊ぶのかよ」
「当然! 遊ぶ一択。それ以外の選択肢は残念ながら持ち合わせていない」
謎のドヤ顔の後に肩をすくめて見せるこいつは、馬鹿一択。それ以外の選択肢は残念ながら思いつかない。
「だろうな。知ってた。馬鹿だもんな」
「ほーう、小僧。言うようになったじゃねーか」
顎を擦りながら意味深な顔をしているこいつは、やっぱり。馬鹿だ。
「それ、誰の真似なんだよ」
「わかんね。急にやりたくなった。ーーそんな事より、どこで遊ぶよ。ゲーセンでも行くか」
そんな事よりって、お前が始めたんだけどな。馬鹿が。
「ゲーセンか。行きたいけど金がないんだよな」
「それじゃ無理だなー。どうすっか?」
「……そうだ。俺ん家来いよ」
「それしかないか。ーーでもお前ん家でなにすんの?」
「勉強」ぎんは微笑んだ。
「真面目か! いつからそんな真面目になっちまったんだ。お父さんは悲しいよ」
まさが目の上に腕を当てる。あからさまに泣いたふりをしている。
「いつ、俺はお前の息子になったんだよ」
「今でしょ!」
なんだその人を小馬鹿にしたような表情は、今すぐやめないとぶっ飛ばすぞ。
「古すぎんだろ」
「古いからこそいいんだろう。味みたいなのがでるだろうが」
眉をひそめたその顔が、むかついたから言ってやった。
「出ないから。滑るだけだから」
「いいぜ。どこまででも滑ってやるぜ」
親指を突き立て、今に滑り出しそうなこいつに本音をぶつける事にした。
「そのまま一生帰ってくんなよ」
「友達に向かって、そんな血も涙もないような事言うんじゃねーよ」
先の表情とは一転して、まさが必死に訴えてきた。その言葉を聞いて、ふと思った事を口にした。
「まさ。そんな言葉知ってたなんて成長したな」
ぎんに言われた言葉がショックだったのか、額に手を当て俯く。
「どんだけ馬鹿にしてんだよ」はぁ、と小さくため息を吐いた後、前を向き意味ありげな顔で言った。
「いいだろう。そこまで言うなら、次の期末勝負だ。負けた奴は一週間ジュース奢りだ!」
ぎんは不敵な笑みを浮かべ即答した。
「わかった。その勝負受けて立つ」
つい、にやけてしまった。あんな奴に、天地がひっくり返ったって負けるはずがない。これでジュースは俺の物だ。
「そんじゃ、勉強祭りとしゃれこみますか」
「だな」
能天気な野郎だ。今に地獄に落ちるぞ。とかそんな事は流石に思ってない。友達だし、正々堂々戦って勝つ。ふふ。
おっと、家を通り過ぎるところだった。
「ーーちょっと待ってろ。今開ける」
家に着いたので鍵を開けて中へ入ると、まだ誰もいないみたいだ。居るとしてもよもぎぐらいだけど。
「よし、上がれよ」
「おう。お邪魔しまーす」
「俺飲み物とか持ってくから、先に部屋行っててくれ」
「オーケー」
まさしはスタスタと慣れた足取りで階段を駆け上がる。ぎんは真っすぐ進んでリビングに向かった。
冷蔵庫を開け、パックのオレンジジュースを二つのコップに注ぎ、それをせんべいの袋と一緒にお盆に乗せ部屋に向かった。
ぎんの部屋のドアは空いたままだった。部屋に入るとまさはもうくつろいでいた。
「待たせたな」
「おう。サンキュー」
漫画を読みながらベットの上で寝転んでいたまさが起き上がった。
「そんじゃあ、始めますか」
「そうだな。やるか」
誰か帰って来たのか、扉の開く音が聞こえた。
「なんか、音したよな」
「よもぎが帰ってきたんじゃね」
ドタドタと階段を上る音。足音がどんどん近づいてくる。俺の部屋の前で足音が止まり、それと引き換えるようにしてドアが開いた。
「たっだいまー!」部屋を見回すとまさしと目が合う。
「まさぴょんだ。何してるの?」
「秘密の会議だよ」
謎のゲ〇ドウポーズ。それを見てツッコもうとした俺よりも早く、聞き覚えのある冷たい声が響く。
「バッカじゃないの」
まさを冷たい瞳で見下しているのはなずな譲だ。その言葉を聞き、つい、惜しいっと思ってしまった。
「なんで貴様が」
「いたら、悪いわけ?」
「別に、俺には関係ない事ですから」
「そうですか」
昨日、保健室送りにした奴とされた奴が、俺ん家でまさかの再開してんじゃねーか。ここは喧嘩にならないうちに話題を変える。それが空気を読める俺の仕事だ。
「ほんと、奇遇だな。お前達そんなに仲良くなってたんだな」
「うん。いいでしょう。これから、勉強会するの。それで秘密の会議ってなに?」
なずなの疑問に答えるぎん。
「こいつが適当に言っただけ。俺達もテスト勉強すんの」
「なら同じなの。一緒に、やるぞー!」
よもぎが横から割り込み。無理やり、一緒に勉強をする空気に変えた。どんだけ嫌なのか、二人はうぇー、みたいな声を上げる。
言っておくがこいつらは友達だ。俺が保証する。なんの保証なんだよ、とか脳裏によぎったのは気のせいという事にしておく。




