顧問探しの旅
なずなとよもぎは職員室についた。一年の教室が四階で職員室が二階、しかも職員室はここと真逆の角付近にあるため地味に遠い。だが妙な話で盛り上がった二人にとっては一瞬のように感じたのかもしれない。
「よもぎちゃん。ここで待ってて」
よもぎを職員室の前で待ってるように指示する姿は、子犬にお座りと言う飼い主みたいだった。よもぎはご主人様に従順な子犬と化していた。
「わかったであります」
ノックをした後ゆっくりとドアを開けた。
「失礼します。一年六組。吉水薺です。松原先生いらっしゃいますか?」
完璧と言わざるを得ない立ち振る舞いは貴族を彷彿とさせる。そして容姿端麗、絵になるとはまさにこのことなのだろう。
「あー。松原先生なら、物理室にいるはずだ」
そう教えてくれたのは古典の吉沢先生だった。
「ありがとうございます。では、失礼致します」
吉沢先生の方を向きお辞儀をすると「おう」と一言だけ言った。その顔を確認した後外に出るとゆっくりとドアを閉めた。
ふぅ……とため息を吐く。よもぎを見るとなんか意味のわからない動きをしている。声をかけるか一旦躊躇したが声をかけた。
「聞いてきたよ。ーーそれ何してるの?」
「あっ、お疲れ様なの。これは変態モッチッチの体操なの。あれ先生は?」
体操をやめると、首をかしげる。なずなは額を手で押さえる。何かを思い出そうとしている。
「なんか聞いた事あるような、ないような……。あっ、先生はいなかった。物理室に居るって」
思い出したのではなかったみたいだ。
「そこどこなの?」
「おーい」
軽く手を振りながらTHE平凡が走って来た。
「あっ、ぎん」
「お帰りー。お兄ちゃん」
「おう」と一言。深呼吸して息を整えると続けて言った。
「やっぱりここに居るとおもったぜ」
「まさぴょん平気だった?」
まさ。心配してくれる奴が俺以外にもいたぞ。安心して身体を休めるといい。
「寝てればすぐに復活すんだろ。それで、そっちは進展あったか?」
なずなが俺達の話を聞いて、胸をなで下ろしたように見えたのは気のせいだったのかは、聞いてみない事にはわからない。いや本当は聞かなくともわかっている。
「まぁ。今から物理室に行くところ」
「そうそう。顧問見つかったの」よもぎは満足そうに頷く。
「それよか、なんでなずなも手伝ってんの?」
「悪い?」
怖っ。高校生にもなって漏らすかと思ったじゃねぇか。
「別に悪くないけどな。なんでかなーって、思っただけ」
本当。疑問に思ったから聞いただけなのに、酷すぎやしませんかね。
「なずなも入ったからなの」
「ふーん。そうなんだ……ええええ⁉」
マジで驚きすぎて眉毛が頭の上まで飛び上がって、目が飛び出す。さながら海外のコメディアニメみたいなリアクションとってしまった。あくまで気持ち的にはだけど。
「なんでそんな驚いてるの?」
なずなは呆気にとられた表情していた。そこで笑ってるちびは無視決定。
「いやーーだって、お前こういうの嫌いだろう?」
「そんな事もないけど……」
「何故に目を反らした。理由を聞こうか」
疚しい事があるのは明白だな。万引きGメンの目は誤魔化せたって、俺の目は誤魔化せねーぞ! 一応万引きGメンの皆様ごめんなさい!
「別になんでもないから、よもぎちゃんが無理矢理。半強制的に入ったようなものだし」
「そうなの……」
あー! いーけないんだ。いーけないんだ。せーんせいにいっちゃーおー。くどいんで、この辺でやめておきますね。
「いや、今のは言葉のあやっていうか、ね? だから気にしないで?」
あのなずなも涙目のよもぎには勝てなかったらしい。慌ててフォローしている。
まぁ、俺にはわかる。あれは演技だ、あざと杉田玄白と言ったところか。
「……本当に?」
「……本当だよ」
「それならよかったの」
なんか女の子同士のこういう遣り取りを見てると和む。とか思いたかったのに、なずな様がお前のせいだと言わんばかりに睨んできてるんですけど。
ここは冷静に話題を変えて更に距離を取る。この作戦でいく。
「まぁ、あれだな。物理室にでも向かうか」
凍り付いてしまう程の視線に耐えられず勝手に歩き出した。
「待って。お兄ちゃん」
「ちょっと」
よもぎとなずながついてくる。後ろは見ないようにしながら、投げかけた。
「そう言えば顧問になってくれる先生って、何先生なんだ?」
「ーー松原先生。まだ決まった訳じゃないけど」
なずな様が答えたって事はそこまで怒ってはないのかな? 声は怖かったけど。
「ああ、あの先生か」
ぎんは少し上ずった声になってしまった。
俺とした事が声だけで気圧されるなんてな。それよか決まってないのかよ。
まぁ、そんな簡単に決まる訳ないか、それにしても松原先生ならワンチャンスあるな。あの日の出来事を思い出す。あれは確か、一ヵ月前放課後の事だ。
俺とまさは放課後教室でひと狩りいこうぜ! みたいな気分になったのでひと狩りだけ行くことにした。
「まさ、早く大タル置けって」
「待てって、急かすんじゃねーよ」
「おう! 青春してんな」
「おぉ」
「うぉ」
いきなり低い声がしたから、二人して素っ頓狂な声をあげてしまった。後ろを向くとおっさんーーじゃなくて松原先生がニンマリと笑顔で立っていた。
「あれ? 松原先生どうしたんすか?」
「いやな、丁度ここを通り掛かったらいいBGMが聞こえたもんだから、ついつい」
「先生もアニハンやるんですか?」
「そりゃやってるよ! 常にカバンに入れていつでもどこでもひと狩り行けるようにしてるぐらいだ。わっはははは」
「ガチ勢っすね」
「マジやべー」
「おっと、やる事があるんだった。邪魔して悪かったな。じゃあ、負けんなよ」
おっと、鮮明に思い出しちまったぜ。そんな感じで子供の心を忘れないというか、ゲーム好きだし、遊ぶのも好きだろうから話は通じるはずだ。




