白髪と黒髪
「行っちゃったのー」
「そうだね」
ぎんの走って行った方向を二人で眺めていた。
ふとよもぎが言った。
「なずな。強いのん! 昔、何かしてたの?」
戦隊モノのレッドに憧れる子供のような瞳で問いかけると、すぐに返事は変えてきた。
「空手を少しね」
少しね、と言った顔は少しだけ微笑んだように見えた。
「いいなー。空手! やってみたいのー」
空手の真似なのか、パンチを何回かする。なずなはその姿を見て「くすっ」と笑った。すぐに口を手で押さえる。
「なずな。なんで笑ってるの?」
そんなに面白い事したかな? わかんないけど笑ってくれたし、なんでもいいのじゃ。
なずなは斜め下を向いたまま「なんでもない」と言い。目尻の涙を人差し指で拭うと、気持ちをリセットしたかったのか一つ咳ばらいをした。
「ーー話変わるんだけど、さっきの部活ってーーへ?」
喋ってる途中に、よもぎがポンと手を叩くと大きな声で言った。そのせいでなずなは素っ頓狂の声をあげてしまった。
「それだ! 忘れてたの! 一緒に部活やるの!」
「……急だね。一応聞くけど何部なの?」ちょっぴり疲れた表情をしている。
「よく聞いてくれたの! なんと。その部活の名は………………遊部!」
「……遊部って何? あの遊ぶ?」
なんで鳩が豆鉄砲を食らったような顔になってるのじゃ? ちょっと溜めすぎたからかな? よもぎとした事が昨日に引き続き大失敗しちゃったのじゃ。てへぺろ。
「そうなの。遊ぶ部活。名付けて遊部!」
「そ、そうなんだ」
顔が引きつってるのはなんでじゃ? そうか! 誘われて、嬉しさのあまり緊張してるのか。誘ってよかったのじゃ。やっぱりなずなはいい奴じゃ。最初に会った時にビビッときた。悪い意味と良い意味の両方で、今となってはいい思い出じゃ。まだ三日しか経ってないけど。
「なずなも一緒に顧問。探すのん!」
「別にいいけど、部活に入るのはちょっと…」
なんだとっ……。何かの間違えじゃ。さっきまであんなに楽しそうだったのに、誰かの陰謀じゃ。誰だ、よもぎの邪魔をしてるやつは許さない。成敗じゃ!
現実逃避はこの辺にして説得するのじゃ。
「なんで? みんなで遊ぶんだよ。そして至高の遊びを見つけて、それをみんなで作るんだよ。楽しいよ。絶対に楽しい!!!」
「理由は特にないけど……」
よもぎのキラキラした瞳に耐えられなくなったか、ウザさに耐えられなくなったかわからないが、なずなは俯いた。
「ならやるしかない! ぎんもいるのん」
粘れ、諦めるな。諦めたらそこで試合終了ですよ。ってどこからか聞こえてくるんじゃ。
「ふーん。そうなんだ」
よもぎの言葉で動揺してるように見えなくもない。
「一緒に、やるのやるのやるのやるの。やーるーのー!」
まさに「買って買って買って買って買って買って」と駄々をこねた子供のようだ。
なずなが慌てて止めに入る。
「よもぎちゃん! わかったから! やめてもらえる?」
女の子座りをして上目使いで「やーるーのー?」と聞いた。
「ーーやるから、立って。ほら」
なずなは手を出す。それを笑顔で握ると、ぴょんと立ち上がった。そのまま繋いだ手をブンブンと振った。
「これからもよろしくなの!」
「こちらこそよろしく。ーーそれでこの握手いつまで続くの?」
「ごめんね。つい嬉しくてなの」
手を離しにこっと微笑んだ。その純粋な表情が照れくさいのか、なずなは目を反らした。
「そう。それはよかった」
本当に嬉しいのじゃ。やっぱり、仲間は適当に選ぶのではなく、冒険をしてこいつだ、こいつしかいない。そんな奴を見つけて仲間にならないと、到底魔王なんて倒せないのじゃ。後二人も慎重に探さねばなるまい。
お兄ちゃん。大丈夫だから。顧問は忘れてないよ。
「それじゃあ。顧問を探しに行くの」
「当てとかあるの?」
小首をかしげるなずなを見て、よもぎも小首をかしげた。
「ないかも。中塚先生にはもう聞いたけどダメだったのん。他の先生あんまり覚えてないの……」
「そっかぁ。まだ転入したばっかりだからしょうがないよ。私、心当たりがある先生が一人だけいるから、まず職員室に行こう?」
女神なの? なずな様々なのじゃ。これで顧問もどうにかなるかも。力なんてなくたってやってみせるんじゃ。因みによもぎは女神じゃ。
「やったー! なずなについていくのん」
なずなの後ろにぴったりとついた。それは小学生の通学を彷彿とさせる。身長差がある分かなりリアルだった。このまま横浜市木下小学校に行くんじゃないかと思うくらいに。(そんな場所はねぇ)
「じゃあ行くよ」
そう言いスタスタと歩く班長の後ろを必死に追いかける、おちびちゃんの姿がそこにはあった。




