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妹降臨



 ここは神の住む天界。下は雲。上も雲。辺りは雲が一面に広がる真っ白な世界。雲の隙間から橙色の光が照らしている。


 そんな事は言ったものの家もある。中央にある赤い屋根の一軒家に住んでいる。それが神ことよもぎ。


 よもぎは白髪で目がクリクリとしていて大きく、肌は雪のように真っ白。背丈は145くらい。天界では一番の美少女と呼ばれていたが一番の変わり者だとも言われている。


 大好きな下界に降りては色んな物を買っている。特に好きなものはアニメや漫画でラノベやゲームとかもかなり好き。その神が今日も下界に降りようとしていた。


 よもぎは家のこたつでニヤニヤと笑っていた。


「にっひひひ。下界にでも行って遊ぶか。それにしても何をして遊ぶか……そうだ! 妹になることに決めたのじゃ。この前やってたアニメでなんか楽しそうだったのじゃ。誰の妹になろうか……まぁ適当でいいか。無作為に降りて、そこの家の妹になるのじゃ。ギャンブルじゃ、ギャンブル最高なのじゃ。では行くかのう」


 杖を回すと黒い穴が空中に現れ、その中へとよもぎは消えたのだった。







 黒髪で冴えない顔をしている。どこにでもいそうな少年は、背丈、体格、学力、運動神経全て平凡。今日もいつもと変わらない平凡な日を送る。


 自室のベッドに寝転がりながら漫画を読んでいた。もうそろそろ寝ようかと、掛け時計を見る。針は十一時半を指していた。いい頃合いだと思い電気を消そうと立ち上がる。


 その時。彼の平凡な日々に亀裂が生じる。突然、空中に黒い穴が現れたのだ。


 見間違いだと思い目を擦るが、穴は開いたまま。


「眠さのあまり、幻覚でも見えてるのか?」


 その穴から現れたのは白いワンピースを身にまとった碧眼美少女だった。見た目は幼女にしか見えないのに、立派な膨らみがあり、男子高校生の性を擽ぐる。白く透き通る肌と白髪が同じ人間とは思えない程に美しい。


 彼女は満面の笑みを浮かべるとそのまま口を開いた。


「こんばんは。お兄ちゃん!」


 なんの前触れもなく空中から美少女現れた事により、一瞬で目が冴える。


 面食らった表情のままあたふたしながら指を差す。


「お、お前。どっからきた。宇宙人か!」


 そもそもどっから入ってきたんだよ。空中から出てきたように見えたんだが気のせいだったのか? この超展開は流石の俺も予想だにしてなかった。


 生きてるうちにこんな意味不明な奴が現れるなんて。


「天界からなの。お兄ちゃん!」


 にこやかに微笑む美少女。彼は必死な顔で訴える。


「さっきからお兄ちゃんとか言ってるけど、俺に妹なんていないんだよ!」


「いるよ」


 両手を腰を当て堂々と言い切る。


 マジでとんでもないのに出くわしちまった。どうすんだよこれ……。


「今日から妹になったよもぎなの。よろしくね。お兄ちゃん!」


 彼の前に近づき上目遣いで手を出す。


「あっ、そうなんですね。こちらこそよろしく。ってそんな訳あるか!」


 手を握り返す寸前で、手を横にやり突っ込んだ。そして続ける。


「何が今日からだ。馬鹿馬鹿しい。泥棒の分際で」


 でも、なんなんですかねこの生物。小動物みたいでものすごいかわいいんですけど! いやいやいや外見に騙されるな。こいつは人の家に勝手に入った侵入者。


 彼は母親を大声で呼ぶと「はーい」という声が聞こえた。階段を上がる音が響き渡る。それが止まると同時に扉が開いた。


「なにかあったのぎん?」


「いやなにって、こいつ見たらわかるでしょ」


 よもぎに人差し指を向ける。


「そりゃ、わかるわよ。よもぎよね?」


 それがなに? と今にも言いたげな顔をしている。


「はぁ? なに言ってんだよ。てかなんで知ってんだよ」


「なんでって言われてもねー。そりゃ自分の娘だもの知ってて当然よね」


 冗談で言ってるような顔には見えなかった。その言葉を聞きぎんは取り乱した。


「母さん。マジで言ってんのかよ。こんな奴家にはいねーよ」


 母さんどうしちまったんだよ。夢なのかこれ? かなりリアルな夢的な? そんなのがあってたまるか、これは現実だ。現実。


「ぎん! あんたさっきから何言ってんの! 妹を忘れたの? 馬鹿な事言ってないで早く寝なさい。よもぎも早く寝るのよ」


 よもぎは「はーい」と返事をした。母親は勢いよく扉を閉めて出て行ってしまった。


 ーーいやいや待ってくれよ。


 ……俺が変みたいになってるけど……何これ。何この気持ち。


 ーーまさかこいつの仕業か?


「おい! そこの。俺の家族に何しやがった」


「ふんふふーんふーんふふーん。何って、洗脳なの」


 ドンドンと足音を立てて歩み寄る。よもぎは鼻歌を歌っている。


「洗脳って……ふざけんな! いますぐやめろ!」


「やなの。妹ライフを楽しむのん」


 そっぽを向いてあっけらかんとした態度。


 本当妹になりたかっただけなのか? そんなはずがない。そんな事の為に洗脳までしたのか、本当の目的はなんだ?


 悪い奴には見えないけどいい奴とも思えないし、目的が全然見えない。


 色々考えて疲れたぎんは大きくため息をついた。


「……本当の目的はなんだよ」


「うーん」人差し指で口を触る。

「妹になる事かな? なんか楽しそうだったの。これからよろしくなの。お兄ちゃん!」


 ぴょーんと抱きついた。


「抱きつくな。離れろ」


 頭を両手で掴んで必死に離そうとする。


 なんだこいつ、こんなにちっさいのにすごい力だ。全然離れない。化け物か……かなり苦しい。なのに気持ちいい。なんか柔らかいものが……いや気のせいか。


「名前を呼ぶまで離れないの。お兄ちゃん」


 ぎんの胸辺りに顔をすりすりと擦り付ける。


「わかった、わかったって。よもぎだっけ? これでいいだろ? 離せって」


「嫌なのー。「お兄ちゃんはよもぎを愛してる」って言うまで離しません」


「おい。さっきとちげーじゃねーか! 離せって」


 力づくで離そうとするもビクともしない。


「嫌なのー」


 よもぎはほっぺをパンパンにふくらましている。


「わっわかった。愛してます。よもぎを愛してます。離してください」


 ぎんは感情を一切入れずに言いきった。


「本当に?」


 よもぎはキラキラした瞳で上目遣いをする。


「本当だって、だから離れろって」


「わかったの。離れるのん」


 ぴょんと後ろに飛び跳ね一回転。またぎんの方を向いた。


「ったく。なんなんだよ。いったい」


「妹のよもぎちゃんだよ?」ウィンクして微笑む。


 よもぎとのやりとりに疲れたぎんはベッドに座った。


 自由すぎんだろ、これが世に言う変人ってやつか。初めて見た訳でもないがこのタイプは珍しい。ゲットしといた方がいいんじゃないか? 希少種なんじゃないのか? こいつは高く売れそうだな。


 まぁ、売らないけど。そんな鬼畜じゃないし、紳士だし、イケメンじゃないけど……。


「本当は何者なんだよ」


「うーん」唇に人差し指をあてる。

「教えない。お兄ちゃんがよもぎを楽しませてくれたら教えるの」


 ほんと、見た目だけはかわいいな。くっそー。


 ため息をついた後、「なんだよそれ」と、全く興味がないという雰囲気を滲ませながら言った。


「なら教えてもらわなくて結構。そんでお前はいつ帰るの?」


「うーん……妹に飽きたらかな?」


 よもぎは大きなお目目をパチクリさせながら小首をかしげた。


「なんだその曖昧な感じ……まぁいいわ。なんか疲れたから俺は寝るわ。じゃーな。おやすみ」


 電気を消して布団に入った。


「お兄ちゃん。おやすみなさい」


 よもぎはぎんの布団の中にゆっくりと入ろうとした。


「て、なんでお前が俺の布団に入ろうとしてんだよ。馬鹿なのか?」


 慌てて飛び起き電気をつけた。


「妹だからなの。照れなくてもいいのに」


 よもぎは布団の上で手招きしている。


「照れてねーし、いいから自分の部屋で寝ろよ。まぁ、お前の部屋はないけどな」


 ぎんはそっけない態度をとる。


「あるの」そう言うと扉を開けて廊下に出た。


「そんな訳あるかよ」


 ぎんもよもぎの後を追った。


「あったでしょ?」


 よもぎは扉の前で小首をかしげた。その顔は物凄いドヤ顔だった。


 その顔腹立つなー。このチビ焼いて食っちまうか。嘘だけど。


「なんで部屋が増えてんだよ」急いで扉を開ける。

「どうなってんだこれ……お前……只者じゃねぇな」


 新しい部屋が増えていて、中は家具まで揃っていた。理解するのに時間がかかった。壁だったはずの所に部屋があるなんていくらなんでもおかしすぎる。


「お前じゃないの。よもぎだよ。次お前って言ったら殺しちゃうの! てへぺろ」


 かわいい顔で舌を出した。言葉とのギャップがありすぎて悪寒がした。


「おいおいおいおいおい! 今殺人予告しましたよね。おかしくないですか? この妹怖すぎるんですけど」


「お兄ちゃん。ヤンデレってやつなの!」人差し指をピンっと立てた。

「知らないの?」首をかしげる。


「知ってはいるけど、リアルだとマジ怖いんですけど……。しかもお前、じゃなくてよもぎが言うとマジに聞こえるって言うか。完全にマジだよな」


 あの力もそうだけど、洗脳したり無いはずの部屋を作ったり。考えただけで冷や汗が出てきた。


「そんな訳ないの。お兄ちゃんを殺すなんて馬鹿だなー。もう」


 にこっと笑いながらポケットからナイフを出した。


「じゃあその手に持ってる物はなんですか? それはなんなんですか? 殺る気ですよね。今すぐ殺る気なんですよね?」


 ぎんは額の汗を拭ってゆっくりと後ずさる。


「あっこれ? おもちゃでしたー」手の平にナイフを突き刺す。


 刃が引っ込むタイプのおもちゃ懐かしいな。よくあれで殺人ごっこしたなー、なんて記憶がついよみがえってしまった。


「お兄ちゃん騙されちゃったの。にひ」よもぎは小悪魔のように笑った。


「マジで死ぬかと思った。--次からヤンデレ禁止な。したらお兄ちゃんやめる」真顔で言った。


「やめられると思ってるの? にひ」


 不敵に笑ったよもぎの目が、「殺しちゃうぞ!」って言ってる気がした。


 言ってる気がしたとは言ったがほんとに殺されるかも。ポケットから本物と思われるナイフを出したし。


「わ、わかりました。やめられるなんてこれっぽっちも思っていません。なので、そのさっきとは別物のガチなやつをしまってはもらえませんか?」


 モノホンはやばいと思い敬語になってしまった。そらなるよね、死にたくないもの。


 きっと誰もが殺人者に出くわした時は敬語になるはず。ならなきゃそれは漢の中の漢だと思う。


 俺は普通の男で十分です。


「わかればいいの」ナイフをポケットにしまう。

「よもぎは、お兄ちゃん大好きだからねーー」


 急に眠くなったのかあくびをした。


「ーーなんか眠いから今日は寝るの。おやすみ」


「お、おう」


 よもぎは目をこすりながらベットに横たわると、すぐ眠りについた。


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