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異世界転生・転移関係

冒険者への就職風景

作者: よぎそーと
掲載日:2017/02/12

「それで、どうなんだ?」

「いや、他にないだろ」

「だよなあ」

 村の男子数人が集まって話しあってる。

 うかない顔をしてるのは自分達のこれからの事を考えてである。

 いずれも三男四男坊あたりで、田畑を継ぐ可能性の全くない者達である。

 新たに田畑を拡大出来ればよいのだが、そんな場所ももう無い。

 耕せる場所は全部耕しており、新たに広げる場所もない。

 国境線から遠い国の内側という立地故に、モンスターに荒らされる事が少ないのが裏目に出ている。

 このために末っ子になればなるほど任せる田畑が無くなっていく。

 安心して子供が育つ状況はありがたいのだが、その分仕事が足りなくなっていた。

 希にあらわれるモンスターを倒す仕事すら回ってこないくらいである。

「やっぱり行かなくちゃ駄目か」

「奉公先もないしね」

 就職先が無くて困るという、考えてみれば贅沢な悩みに襲われている。

 これが国境の近くにもなれば、モンスターとしのぎを削らねばならず、死亡者も出てくる。

 それに比べれば、生きて悩んでるだけ良い方であった。

 とはいえ、それで問題が解決するわけではない。

 死にはしないが生きていく為に悩む事に変わりはない。

「冒険者やるしかねえよなあ」

 一人が解答を口にしたところで、他の全員がため息を吐いた。



 モンスター退治を主な仕事とする者達を冒険者と呼ぶ。

 何時の頃からかそう呼ばれるようになったこの仕事は、好んでなるような仕事ではなかった。

 モンスターを相手にする事がほとんどなので、当然ながら死亡率は高い。

 稼ぎは決して悪くはないが、下手をすれば簡単に死んでしまう。

 その為、他の仕事に比べて人気がない。

 そもそもモンスターとの戦闘をするなら軍に入ったほうが良いと考えられている。

 そうなれば装備も支給され、宿舎も用意されている。

 必要な訓練を受ける事が出来て、共に戦う戦友がいる。

 体系的な組織と積み重ねられたノウハウを持つ軍隊でならばこそである。

 これが冒険者だと必要なものを自分で用意して、衣食住にいたるまで全て自分で賄わねばならない。

 軍隊と違いそこが手間で面倒な部分である。

 誤解を恐れず言ってしまえば、冒険者とは武装してるヤクザとほぼ同等に考えられてる部分があった。

 実際、そうした者達がかつては多く、モンスター退治をしてるならず者と言うのが何も間違ってない時代があった。

 今もそうした印象はさほど変わっておらず、実態の変化がどれほど起こっていても、多くの者達から冒険者は懸念混じりに見られていた。

 では実際どうなのかというと、長い年月の間に結構な変化が起こっている。



 まず、ならず者の集まり、ヤクザの同類という部分だが、これについては大分変化していた。

 モンスター退治が仕事として成り立ち始めた頃の冒険者は、確かにごろつきがやってるような仕事だった。

 当たり前だが、まともな仕事に就いてる者や家を継いだ者達が危険なモンスター退治に出かけるわけがない。

 そんなものを好んでやるような者は滅多にいない。

 それでもやらなければ被害も出てくる。

 当然ながら一定の需要がモンスター退治には存在する。

 そこに目を付けたというか、そこに流れ着くしかなかった者達が仕事としてのモンスター退治を始めていった。

 ただ、危険なので誰もやりたがらない。

 では誰がやるのかとなると、他に仕事がない者、行き場を失った者達にお鉢がまわってくる事になる。

 まともな生業に就けなかった者達が、仕方なしに始めたのが冒険者の発端である。

 ごろつきの如き連中が集まっていったのもむべなるかな、である。



 ただ、長い時間が経つに連れてそれも変わっていく。

 様々な理由で居場所や仕事を失う者達は増大した。

 モンスターに襲われた村や町からは大量の失業者が生まれる。

 それらが健在な町や都市に流れこんでも仕事はない。

 必然的にモンスター退治によって糧を得るしかなくなる。

 奪われた居場所を取り返す為にも戦うしかない。

 そういった者達が健全な冒険者として活躍する事となっていく。



 最初は手探りだったモンスター退治も、生き残った者が手法を伝えていく事でやり方が確立していく。

 それらを引き継いだ者が効率よく、そして安全にモンスターを倒していく。

 結果としてレベルの高い職人のような者達が登場し始め、後進を率いていく事になる。

 時に兵力の補填として傭兵のように軍隊と共に行動していく事も増えていった。

 そういった時に軍のやり方を実際に見て導入する事もあった。

 積み重ねが増えるごとにモンスター退治の危険は下がり、生き残る確立も上がっていった。

 そんな生え抜き達は、新人を抱えて育てる事で組織となっていく。

 この時、幾つもの一団が新人を受け入れ始めたのが、冒険者というものの変化を一番大きくしたかもしれない。



 受け入れ先が複数あるなら、その中で一番良いところを選ぶものである。

 好んでごろつきの所に行こうなどという者はいない。

 その為、まともに活動してる所に人が集まる。

 頭数はどこでも必要になるので、当然ながら求めればたいていの所が受け入れていく。

 もちろん受け入れ側にも選ぶ自由がある。

 一緒にやっていく事が困難な者ははじき出し、共にやっていける者を優先していく。

 その結果、人としてまともな者がまともな集団に集まるようになっていく。

 そういった所から弾かれた者は、ごろつきの所に行くか、一人でどうにかやっていくしかない。

 ただ、まずもって一団からの脱落者が出る事もないので、ごろつきは次第に小さな勢力となっていく。

 他の冒険者集団が巨大化していったから、相対的に小さくならざるえない。

 そういった者達に仕事が依頼される事もないので、食っていく為にはモンスターを相手にしていくしかない。

 そうなると今度は、モンスターの出没する地域に向かうしか無い。

 死にものぐるいで働き、モンスターを倒していく事で糧を得るだけだ。

 必然的に死亡率も高くなり、一人二人と死んでいく。

 補充の要員を確保する事も出来ないので、欠員はそのまま勢力の衰退となる。

 やがて無力なまでに人数を減らしたごろつき風情は、抗う事も出来ずにモンスターに倒されていく。

 例外的に、そうなる前に人里に戻ってくる事もあるが、たいていの場合は本物のならず者に堕落する。

 そうなった場合は成敗の対象となる。

 その場合、官憲による成敗がなされるか、同じ冒険者への依頼として賊の退治として依頼される。

 事と次第によっては、冒険者達が自ら退治しにいく事もある。

 金にはならないが、放っておけば被害が出る。

 そうなれば、巡り巡って自分達も損害を受けるかもしれない。

 そうなる前に始末してしまおうと考える者はいる。

 まがりなりにも冒険者という看板を背負ってた連中が悪さをしてれば、自分達の評判にも関わってくる。

 放置しておく理由はなかった。

 証拠が無ければ動けない官憲と違い、動きが素早いのも利点であった。



 こうした事が繰り返された結果、冒険者は以前ほど酷い人間が揃ってるという事もなくなっている。

 全くいなくなったわけではないが、大分減っているし、業界全体の雰囲気も変わっている。

 ただ、一度ついた評判はなかなか変わらない。

 特に悪い評判は結構根深く残る。

 下手に損失を被らない為の防衛本能がそうせるのかもしれない。

 だが、評判はともかく実態の方はかなり変わってきている。

 当然そういった話も少しずつ広まり、冒険者への見方も多少は変わってきていはいる。

 それでも就職先として冒険者しかないと言われれば、ため息が出るのが現状であった。

 例え業界の状況が改善されたとしても、危険がつきまとう事に変わりはない。

 忌避されるというわけではないが、なるべくならやりたくない仕事であるのは変わらない。

 誰だって、出来れば安全な作業をこないしたいと思うものだ。

 それは何一つ間違ってはいない。



「でもさ、そうなるとやっぱり兄ちゃん達の所になるのか」

「だよなあ」

「他にないし」

「変な所に入って酷い目にあうよりは良いよ」

 冒険者がほぼ確定となった少年達はそう言ってこれからの事を考える。

 幸いにもと言って良いかは分からないが、引受先はごまんとある。

 その中に、彼等の村を含めた地域一帯の出身者が中心となってる一団がある。

 冒険者になる場合、たいていはそこに厄介になる。

 それはこの村の通例だった。

 定期的に人を確保出来るので、地元出身者達の一団も重宝していた。

 一方で同郷のよしみを通じた結束の強さが、つらい時期を乗り越える力にもなっている。

 地域出身者によって成り立ってるので他の地域からの人間は入りづらいという欠点はある。

 いわゆる大手になるのは難しいが、そこそこの規模の団体としてそこそこ存在している。

 少年達が入るのもそういった一団だった。

 なので、全く馴染みのない所に行くわけではない。

 もちろん村を離れ、遠い所へと出向かねばならないが、見知らぬ誰かしかいないという事は無い。

 一団に迎えに来るのも村の出身者である。

 そのあたりに不安はない。

 気にしてるのはただ一つ。

「上手くやれるかな」

「どうかな」

「モンスターだろ、相手にすんの」

「ネズミみたいな簡単な奴じゃないだろうしな」

 彼等の住んでる村の付近では、遭遇するのはせいぜいネズミと呼ばれる最底辺のモンスターくらいである。

 それ以外はほとんど見あたらない。

 そのネズミも、田畑の周囲を囲む堀に入りこんでる所を見つけられ、手槍で突き刺されて死ぬ。

 脅威と言えるほど恐ろしい相手ではない。

 だが、冒険者となればそれ以上に強力な敵と戦う事になる。

 その事が不安だった。

「やるしかないけどさ」

 何とか割り切るしかない。

 他に仕事がないのだから。



 ただ、彼等の心配も、とどのつまりは就職して上手くやっていけるだろうかというものと大差はない。

 冒険者になる事を嫌がってるというのとは違う。

 モンスター退治は危険であるが、必要な仕事だと誰もが理解している。

 それをなす冒険者への不信感というか、かつての姿があるから警戒するだけで、仕事自体は求められてるものである。

 なので冒険者を見下したり馬鹿にするような者は少ない。

 冒険者になる事も、決して非難されるようなものではなくなっている。

 評判はよろしくないが、必要とされる仕事を命がけでやってるという事は伝わっている。

 それだけにむやみやたらに否定するような者はいない。

 全くいないわけではないが、そういった者は人間性を周囲から疑われるようになる。

 実際、冒険者を否定してるような者達の大半は人間性に問題があるような者だったりする。

 何かにつけ他人を馬鹿にして否定するような輩はどこにも一定数存在する。

 不平不満を常に叫ぶのが当たり前としてるような者達がそれであり、そういった者達の言う事などまともに聞く者もいない。

 第一、軍隊の出動などが期待出来ない場合、人々がモンスターへの対策で頼るのは冒険者である。

 そんな者達を面と向かって馬鹿にするような者はまずいない。

 そんな態度をとれば、冒険者とてそんな所での仕事を拒否してくる。

 また、冒険者同士での繋がりもあり、そういった所からの依頼は全て拒否されるようになる。

 結果としてモンスターの損害を受け続けて壊滅した村や町も存在する。

 そんな事もあったから、本当に無意味で根拠のない悪口を言うような者はいなくなってきていた。

 もしいたとしても、周囲の者達が即座にたしなめ、怒鳴りつける。

 そういった気遣いがされるくらいには冒険者の地位もあがってきている。

 警戒されつつも、求められる存在として少しずつ対応は改善されていった。



「まあ、とにかくやるしかないよな」

 不安を割り切り、少年達は覚悟を決めていく。

 モンスター退治がどんなものなのか、冒険者として生きていくというのがどのようなものなのか。

 それはまだ分からないが、それをやっていくしかない。

 悩みも迷いも振り払う事は出来ないが、それを抱えて飛び込んでいくしかない。

「上手くやればかなり稼げるみたいだしな」

「そうだね」

「そういや、角の家の所の兄ちゃん、嫁さんもらったって言ってたな」

「ああ、冒険者になって頑張ったんだろ」

「すげえよなあ」

 当たり前だが、嫁をもらう、結婚をするというのはそれだけの稼ぎがあってこそである。

 モンスターを倒してそれだけの事が出来るようになったという事は、驚くべき快挙であると言えた。

 村で生まれて育った少年達にとって、そんな事ができるのは田畑を受け継いだ長男くらいしか思いつかない。

 話に聞くところでも、商会で番頭になるか、工房で親方になるくらいしか未知はない。

 冒険者でそれらと肩を並べるようになったというのは、立身出世の立志伝である。

「すげえよなあ」

「俺らも出来るかな」

「やりたいな」

「ああ、やりたいな」

 先が分からないからというのもあるだろうが、嫁取りの話一つから夢がふくらんでいく。

 不安が大きいからこそ、それを打ち消す希望が欲しかったのかもしれない。

 しかし、霞のように消える儚いものでも、目指すべき目標や目安が出来た。

 それは彼等にとって大きい。

「やろう」

 誰かが口を開く。

「俺達もそうなろう」

「ああ」

「そうだな」

 可能性を信じて不安を押しのけ、少年達は冒険者になった先での夢を持った。

 実現可能かどうかなど全く考える事もなく。

 それは少年である事の特権であるかもしれない。



 冒険者が誕生し、定着して久しい。

 そんな時代において、それは集団就職の一風景と言えた。

 モンスターを倒して仕事になるなら、事業になってると思ったので。

 ならば、冒険者になるのも就職の一つかなと。

 実際どうなのかなとは思うけど、確かめようもないから結論は出せないが。

 でもまあ、こんな調子の異世界があってもいいんじゃないかなと思った。

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